第2話 ブラックドラゴン戦
目の前には圧倒的な存在感を放つドラゴンがいる。
世界に魔物が出現するようになって、既に数百年が経過している。
俺が生まれた時には既に魔物に溢れている世界で、人間は住処を追われて一か所に集まり、生き抜いている。
それも全て強い天能を持つ『上級能力者』のおかげで、人類は魔物の脅威から生き残る事ができている。
それでも彼らすら叶わない魔物がいる。
それは魔王と呼ばれている最上級魔物である。
魔物は主にランクで分けられていて、Eランク魔物からAランク魔物まであり、それを超えたSランク魔物を魔王と呼び、人類災害として認定される。
魔王は大きく分けていくつかの種族があるが、その中でも竜種――――ドラゴンは格段に危険である。その破壊力は絶大な力を持ち、一度戦いともなれば、人類の大半が殺されてしまうと言われている。
辛うじて日本では東京だけが日本の最後の安息地となっていて、モンスターが攻め入る事はない。
けれど、そこから一足外に出てモンスターがはびこっている世界に出ると、最も警戒すべきは竜種と言われている。
出会う可能性も低いとは入れるが、それくらい恐怖の象徴として有名なのがドラゴンだ。
そして、俺達の目の前に佇むドラゴンは、黄色い眼球で俺達を睨む。
睨まれただけで恐怖で足がすくんでしまう。
威圧されただけでこれなのに、いまからドラゴンと戦うというのか?
「せ、清野くん。一度引いてレベルアップしてから挑んだ方がいいんじゃないのか?」
後ろから声が聞こえて来る。
他のパーティーメンバーも目の前の恐怖に挑みたくはないようだ。
「び、びびるな! 俺達には盾がいる!」
「は!? あれを止めろというのか!?」
「当たり前だ! お前ならダメージもないんだから止められるだろう!」
「無理だ! いくらダメージがないと言っても――――」
俺が清野に反論していると、後方から俺達を睨んでいたドラゴンが咆哮を放つ。
暴風が吹き荒れ、俺以外の五人が吹き飛んでいった。
しかし、何故か俺が全くの無傷で飛ばされることもなかった。
――――そして。
振り向いた俺にはドラゴンの大きく開いた口が見え、直後に全身を激痛が襲う。
「ああああああああああああ!」
思わず叫んでしまう。
何が起きているのか理解できない。
それくらい全身を襲う痛みは、今まで感じた事もない激痛だ。
視界の先に恐怖の色を浮かべた清野達が見える。
助けてと右手を指し伸ばしても、助けてくれる事はなく、彼らはその場から逃げようとした。
しかし、逃げれるはずもなく、ドラゴンの圧倒的な速度に追いつかれ、一人また一人踏みつけられていった。
「く、来るなあああああ!」
清野の叫ぶ声が聞こえる。
激痛が続いていても自分の身体が動かせる事に頭がおかしくなりそうになりながら、ドラゴンの口の中から全力で殴りかかる。
けれど、俺のレベルは全然上がっておらず火力にもならない。
俺に気を取られた瞬間、清野が魔法を唱える。
俺達の中でも最も火力が高い清野の魔法がドラゴンに炸裂すると、全身が後方に倒れ込んで口の中にいた俺の身体が外に吐き出された。
痛い。
でも自分がいま動かないと、彼らに甚大な被害を出すかも知れない。
俺は痛みをこらえながら全力で走りこみ、清野とドラゴンの間を割った。
起き上がるドラゴンに全力の体当たりをする。
身体全身の骨が砕けるんじゃないかと思える痛みがあっても、俺の身体は傷一つ付かず、ドラゴンと俺は吹き飛ぶ。
それと同時に後方から電撃の魔法が降り注ぎ、俺の身体ごとドラゴンを飲み込んだ。
雷に撃たれる激痛というのを初めて経験したけど、これほどまでに痛いなんて…………でも気を失う事もなく、俺の身体には傷一つないまま、立ち上がれる。
せめて――――気を失いたいと願うのは、俺のわがままなんだろうか…………せめて痛みを感じなければ、いくらでも盾になっても構わないと思うのに…………。
ダメージを受けて倒れ込んだドラゴンに、魔法や他の人達の攻撃が炸裂する。
俺はそれをただ見つめる事しかできなかった。
数時間後。
倒したドラゴンの隣で焚火を焚いて、ドラゴンの肉を貪る。
今回の戦いで清野以外では一人を除いて三人が重症を負っているが命に別状はないようだ。
残念ながら人体を回復させる天能を持つ者はいないため、俺と清野だけが無傷で、他のメンバーは緊急用包帯で処置を施している。
さすがの清野すら無言で肉を貪る。
二人の女子が小さく泣き始め、俺達の誰も彼女達を止める事もできず、ただただ泣き声に打ちひしがれた。
――【魔物『ブラックドラゴン』を倒して、貢献度1%以下のため、経験値1%を獲得しました。】
今回もまた最低限度の経験値しか得られなかったが、殆どの経験値を獲得できた清野は、相当大きなレベルアップを果たしたと話していた。
絶望の中でも希望を打ち出せた事がせめてもの報いだろうか。
戦意を失った彼らが動けるようになるまで、三日程時間を要した。
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