第3話
「コンビニだ!」
コンビニを見つけて、わたしははしゃいだ声を上げた。
なんてったって、原形をとどめている。ガラスは割れているけど、お店としての形はほとんど残っている。
怪獣を振り返る。ここまで案内してくれた怪獣はわたしをじっと見降ろしている。
「ナニカアル?」
「えっと……」
コンビニに向き直って、中を覗いてみる。ぱっと見ではあまりよくわからないぐらい荒れているけど、きっとなにかしらはあるに違いない。
「ちょっと入ってくるね」
言いおいて中に入っていく。ガラスをザリザリと踏みながら、進んでいく。
商品はごっそりとなくなっていた。誰かが持って行ったのだろうか、普段では決してあり得ないぐらいガラガラの棚がわたしを迎えていた。どっとした脱力感がわたしの肩を重くする。
けれど、棚の隅っこの方にお菓子の袋が見えた。わたしは駆け寄ってその袋を手に取った。
スナック菓子だ。だけど、激辛って書いてある。きっと辛いから誰も持って行かなかったんだろう。わたしだって、こんなのは食べたくはない。
がっかりしていたところで、普通の味のスナック菓子も見つけた。すぐに袋を開けて手を突っ込んでむしゃむしゃと食べた。美味しい。こんな生活になって、こんなおいしいものを食べたのは初めてだ。
すぐに食べ終わって、我に返った。怪獣もお腹をすかしているのだろうか。普通のスナック菓子はまだあったけど、激辛の方を手に取ってコンビニを出た。
怪獣はわたしがコンビニに入った時と同じ姿勢で待っていた。たぶん、まったく動いていなかったんだろう。賢い証拠なのか、鈍い証拠なのか、よくはわからない。
ともあれわたしに視線を向けた怪獣に向けて呼びかける。
「これ、食べる?」
激辛のスナック菓子を掲げると、怪獣は体を屈めて手を伸ばして地面に置いた。掌を上にして、じっと待っている。
怪獣の掌はわたしはもとよりコンビニぐらいには大きい。この掌にのせてってことなのかな?
わたしはえいっとスナック菓子を怪獣の掌に乗るように放り投げた。思ったよりもちゃんと飛んで、怪獣の指の上にぽすんと乗った。
投げる前に開けてあげればよかったかなとちらっと思ったけど、怪獣は構わずに袋ごと口に放り込んだ。
一口噛んで、微妙に顔をしかめている。辛いのはダメだったのかもしれない。それともやっぱり袋ごとなのがよくなかったのか。
怪獣はそのまま飲み込んだ。そうしてから、またわたしをじっと見てくる。
なんとなく催促に感じて、そっと訊いてみる。
「それじゃ足りない?」
「ダイジョブ」
「ほんと? 同じのなら、まだあったけど」
コンビニの中を指さすわたしに、怪獣はふるふると首を振った。
「オナカ、スイテナイ」
「そうなんだ」
一瞬気を遣ってるのかなって思ったけど、そんなことはできなそうだし本当にお腹は空いてないのかな。
怪獣は頭をぽりぽり掻いて、ぼんやりと口を開いた。
「イッパイタベタカラ」
「そうなんだ。わかった、わたしはまだ食べるからここで待っててくれる?」
「ワカッタ」
返事をする怪獣にうなずき返して、コンビニに引き返す。
お菓子コーナー以外を見ると、食べ物はちゃんとあった。あったけど、おつまみみたいなやつだ。あんまり食べる気はしないけど、激辛よりはたぶんマシ、だよね。
スナック菓子ばかり食べていると、だんだん喉が渇いてくる。次は飲み物を探してみよう。
飲み物はお酒ばっかり残っている。いくらなんでもお酒を飲むわけにはいかない。見ていくと、ノンアルコールっていう缶があった。これはアルコールがないから、わたしでも飲めるのかな。
缶を手にして少し迷って、やっぱり元に戻した。こういうのは良くないような気がする。美味しくもなさそうだし。
お酒以外にもいろいろ飲み物は残っていた。けれど激辛が残っていたように、これも変な飲み物なんじゃないかと心配にする。なんかひっかき傷みたいな模様が入った缶だけど。
飲んでみると、なんだか変な味がした。けれど、思ったより美味しい、かも。
半分ほど飲んでからあれ、と思い返す。怪獣、さっき変なこと言ってなかった?
イッパイタベタカラ。
何をいっぱい食べたんだろう。あんなにおっきい体ならいっぱいっていうのは本当にいっぱいのはず。お菓子を袋ごと食べるぐらいだし、よくわからないものを食べているのかもしれないけど。たとえば、家のガレキとか?
家のガレキをもぐもぐ食べる怪獣はすごく想像しやすいけど、本当にそんなことしているのだろうか。
考えてもわからないなら、本人に訊くしかない。
またコンビニを出て、怪獣を見上げて訊いてみる。
「ねえ、いっぱい食べたって何を食べたの? 食べ物なんてどこにも見つからなかったけど」
「ウン?」
怪獣は何の話? という風に首を傾げた。さっき話したばかりじゃんと怒りそうになったけど、怪獣はああとうなづいた。
「タベモノガイッパイアルトコロガアッタ。ソコデタクサンタベタ」
「ここじゃなくて?」
「ウン」
「えっと、それはどこ?」
「アッチ」
怪獣が指さした方向は覚えがあった。まさかと思いつつも、確認してみる。
「それって、スーパー?」
「スーパー?」
聞き返す怪獣にいらいらしながら、わたしはどう説明したものなのか悩んでいた。スーパーってなんて説明すればいいんだろう。
わたしがなんとか看板の色とかスーパーの特徴を言っていくと、怪獣はあんまりわかってなさそうにうなずいた。
「ソレダトオモウ。タベモノタクサンアッタ」
「っていうことは……」
思い出す。こうなった最初の日に見かけたスーパー。食べ物があるかもと喜んだのに、何もなくてがっかりした。あれは……
「キミのせいか!」
「?」
わたしの怒鳴り声に、怪獣はやっぱり首を傾げた。
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