第4話 依頼

 僕がこの孤児院に来てから2年がたった。すっかり年長者という立ち位置が固定し、ウルとララの面倒を見るようになっていた。ウルは12歳を迎えていて神様からもらったスキルは剣士と瞬発力アップというものをもらっていた。僕と違ってわかりやすい戦闘スタイルが見えているスキルの構成に僕は少し羨ましいと思ったけど、なんだかんだとこの2年で変わったのはウルだけじゃない。僕の成長はイメージが特に必要なくとも欲しい形の壁を瞬時に出せるところまでは鍛えていた。これができるようになると普段の生活でも応用で使う事で便利になるという副産物を見つけたがせいぜい落としそうになった物を途中で止めるといったような事ぐらいにしかならなかった。2年という歳月が過ぎると僕の成長阻害も目に見えて影響が分かる。


「兄ちゃんの見た目ここに来た時と全く変わってないね!」


 無邪気な笑顔でララに言われた言葉を聞いた僕は少し落ち込んだけど、すぐにこれが成長阻害の影響なんだと思った。詳しく調べるようにいろいろと体の事を試していると2年前と全く成長していない。筋力も誤差程度にしか変わらず体力も増えた様子がない。腕もぷにぷに感がまだまだ分かる腕をしている。その代わりに成長を見せたのは魔力量だった。たった2年で2倍ほど増えてるというあり得ない成長速度を見せている。ここまで魔力量が増えるとどれだけ魔法を使おうと減っていく様子があまり感じない。魔力の回復は量が多いほど比例して回復するので、いつかどれだけ魔法を使おうとも減らないんじゃないかと思ったほどだ。最初の頃はマリー先生に魔法使うのを止められていたが1年経つ頃にはそんな静止もなくなった。


 この2年で全く成長を見せてないのは体だけではなく剣の腕もだった。成長阻害で止められている筋力が育たないせいもあるのだろうが、独学でしかないためまったく成長する気がしないほど腕が上がらない。スキルを得る前のウルと戦ってもたまに勝てないほどにしか剣の腕はポンコツだった。魔法という絶対防御とも言えるほど瞬時に出せる盾があるおかげで本当の戦闘は負けないが勝てもしないという何とも微妙な戦い方になってしまった。それでも負けはしない。そういう結果を得られただけでも良しとするしかない。


 実はこの日15歳になる僕はあるところに向かっていた。15歳になれば登録でき、魔物と戦って倒しお金をもらう。そういった手に職を付けようと冒険者ギルドに向かっていた。剣をクロス状に重ねたような看板を目指して進み酒場のような戸を開いて入る。


 入ってすぐ左の壁には大きなボードがありそこにはいっぱいの紙が張り出されている。入って右手側には、たくさんの机と長椅子がセットで置いており冒険者がいっぱい囲んで座っていた。戸を開いて入ってキョロキョロする僕を見て、子供が迷い込んできたとか思ってるんだろうなと勘づく。歳は15になったが、見た目はまだまだ子供という姿の僕に職員と思わしき人が歩いて声をかけてきた。


「僕~? どうしたの?こんなところに来て。迷子?依頼?」


 そう声をかけてきた職員にはっきりと冒険者登録をしに来たと言う。


「あら・・・登録ね いいわよ~こっちへいらっしゃい」


 いろんな人を見て来たんだろうか。こんなあからさまに子供というような見た目でも受け付けまで案内してもらえる。座っていた冒険者も数人以外は興味がなくなったように仲間と相談や談笑を再開していた。


「それではこちらの紙に名前とスキルと住所を書いてください」


書いてみたけど、これで合ってるのかな?


 名前 ルーグ

 スキル メイン:魔力操作 サブ:成長阻害

 住所 〇番〇区 孤児院


「ふむふむ・・・あそこの孤児院さんですね。魔力操作... 成長阻害... という事ですが、こちらの冒険者ギルドでは戦闘を主な仕事となっておりますため、このスキル構成を見る限りでは戦闘向きではないようですがいかがいたしますか?」


 僕はちゃんと訓練も行って来たと言い物理魔法を少し使って見せる。そんな僕を見てそこまで出来ていて、自分の意思で来ているのならと登録を済ませてもらえた。無事登録をできた僕はホッと胸を撫でおろすと仕事について質問した。


「こちらの冒険者ギルドでは、お客さまの依頼を受け、情報をまとめ書類を作り、詳細を含めて掲示板に張り出して受注者を募集しています。冒険者の皆様にはこの依頼を見て受けるかどうかを決めてもらい、パーティーを組むなどをして安全にお仕事をこなしてもらいます。さっそく何か依頼を受けていきますか?」


 そんな説明を受けてうんうんと頷いて話を聞いていると依頼を受けて行くか聞かれる。せっかくなので見て行こうかと思っているといきなり後ろから声をかけられた。


「ちょっと君! 今登録したばかりの冒険者ね!? 私は昨日登録したばっかりなんだけど一人で依頼を受ける事に抵抗あったのよ! 君も一人なら私と一緒にゴブリン退治行きましょうよ!」


 そんな活気のある声で勧誘してきたのは少女だった。登録したばかりと言っているのでおそらく僕と同じ15歳なんだろうと思う。どうしようかと困惑していると職員からも後押しをされる。


「彼女はソフィアね。昨日登録を担当したので覚えているわ。彼女のスキルはアサシンであり気配遮断という相性がいいスキルを持っているので、ルーグさんの物理魔法の使い慣れ具合的には、しっかりサポートしてあげれば十分倒せると思うのでいいと思いますよ?」


 職員さんに教えてもらった情報から考えても普通にありだと思った。目の前で鼻を天狗のようにしている少女がここまで自信を持って言うのであれば、この話に乗るのもいいかもしれない。そう思った僕は承諾することを伝え握手を迫る。


「ありがとう! 今日はまだ組んだばかりだから依頼を行うのは明日にしましょ! 今日は明日の作戦会議という事でお互いの戦い方を話してうまくお互いが動けるようにしましょ!」


 こうして僕とソフィアはパーティーを組むことにし、ギルドの端で作戦会議を行って明日に備えて早めに解散することにした。


 次の日 僕はマリー先生に心配されながら依頼の準備を済ませていた。


「登録した次の日から依頼を受けてしまうなんて心配で仕方ないわ。」


 心配しているのはマリー先生以外にもウルとララにも少し心配されていた、けど僕は準備を終えて玄関へと向かう。ドアを開ける前に振り返り見送りに来ていた僕の家族達へ、行ってきますと応えて外に出る。


 ギルド前に立っていたソフィアに声をかけて荷物チェックも行った。


「今日が初仕事よ! 今後の事も考えて失敗なんて許されないわ! やるからには全力で行くわよ!」


 そんな気合十分なソフィアと並びゴブリン退治へ向かうため門に向かった。門の端には2年前お世話になった門番さんが居ており、僕を見つけると頑張って来いと伝えるようにグッドサインをもらった。


 今回のゴブリン退治の依頼は近辺の村の村長から出ており、ギルドが依頼を受け調査を行い情報をまとめたものを掲示板に張り出されていたものを受けたようで、場所指定が町から約3時間ほど離れた森になっていた。 道中は何事もなく無事到着した僕たちは、森に入る前にもう一度作戦を確認して休憩を取ってから森へと歩み入る。


 入って少しの時間が経つ頃にゴブリン一匹を見つけた。腰布を巻き、手にはボロボロな片手斧を持ったゴブリンを見て作戦を思いだす。


 今回行う作戦は実に単純だった。魔法で守りが硬い僕がヘイトを取り、守り重視で敵の意識を集める。その隙を狙いソフィアが気配遮断で近付き、一撃で倒してしまおうというシンプルな作戦。シンプルだが今の僕たちにできる最大限を活用した作戦とも言える。


 作戦を実行するため一足先に僕がゴブリンの前へと飛び出す。一瞬慌てた様子のゴブリンは僕を見ると途端に余裕ある笑みを浮かべた。そんな相手を一切気にせずに剣を構えもう片方の手で魔法をいつでも使える心構えをする。僕から攻めた所で長引くだけなので軽い挑発をかけると、ゴブリンは簡単に怒り僕へと斧を振り回してきた。その一撃二撃を冷静に防ぎ3発目を防ごうとしたところで、死角から現れたソフィアの一撃を受けゴブリンは力なく倒れた。


「初討伐! この作戦良いわね。ルーグ一人で先に飛び出すから相手は油断しやすいのが助かるわ! この調子でどんどん倒してしまいましょ!」


 僕からしてもいいチームワークだったんじゃないかと思いながらソフィアと一緒に喜んだ。これぐらいの強さなら3体までならまだ捌けるかもしれない。そんなことを少し思いながら次のゴブリンを探して歩き始めた。


 一匹目と同様に行動して順調に5匹ほど倒し、次!という気持ちでゴブリンを探していると集落のようなものを見つけた。ソフィアも同様に見つけるとさっと気配を消す。そして小声で相談を受けた。


「今回はこの集落で終わりにしましょ 多分ここには複数出てくるのは確実だわ できるだけ慎重に動いて少ない数から相手して行きましょ」


 そう言われた僕は頷き身をかがめて中の様子をソフィアと一緒に見る

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スキル[魔力操作]は手足のように魔力を操れます 迅蜂 @jin0422n2

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