第37話 デスフラワー、消滅
デスフラワーのメンバーに向かってひたすら頭を下げる冒険者のリーダー。
『……そんな事した所でアイツらは帰って来ねぇぞ』
精神体のグラスはそんなリーダーを睨みつけながらそう吐き捨てた。
「それはグラスにも言えるよね。ローズにそそのかされて荒れてたとは言え仲間にも手を出してさ、特に部下へのセクハラも相当酷かったよね。去り際にスカートめくるし、腰くすぐるし、背中タッチするし……私なんかほっぺツンツンされたし!あーもう最悪!!」
フーラは当時の事を思い出すとグラスに向かって思い切り激怒した。
「手を繋ぐ以上の行為を知らないドウジがそんな事を……」
『うるせーーー!!こっち見んな!!』
冒険者のリーダーも驚愕してグラスに視線を向け、周りも思わずグラスを見つめた。
「……デスフラワーを作り出し、犠牲者の数を増やしたのは間違い無く俺だ。お前は……フーラと言ったな。気が済むまで俺を殴れ」
「リーダー……」
リーダーは武器と防具を外し、身軽な状態になってその場に正座した。仲間の冒険者達は心配そうにリーダーを見つめる。
「やらない。君をボコボコにした所で気持ちは晴れないし、そんな事したら私も同じレベルに落ちるでしょ」
フーラはそんなリーダーには目もくれず、ただ寂しそうにそう吐き捨てた。
「だが……」
「殴ればそっちの気が済むだけでしょ。それに、あんた殴った所であの子達は戻って来ない。それ以前にもう生き返ってるし」
「……えっ?」
フーラの最後の一言に、リーダーは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「折角ですしグラスさんにもお見せしましょうか。メエさん、預かっている例の子達を連れて来て下さい」
『はーい!!』
羊屋がメエに指示を飛ばすと、何処からともなくメエの元気な返事が聞こえて来た。
『失礼しまーす!!』
そしてメエを筆頭に、グラス達のいる部屋に様々な魔物が何処からともなくワラワラと現れた。
「こ……この魔物達は……?」
「かつてフラワーの施設で保護されてた仲間達だよ。数日前に魔王さんが現れてさ、流れでフラワーの話をした際に「魔石さえあれば魔物を蘇生できる」って言われたんだ。みんなの魔石自体はバラバラに割られてたけど、それでも魔王さんは全員カンペキに生き返らせてくれたんだよ」
「そ、そんなバカな……!?」
リーダーが驚く中、フラワーの魔物達はわいわいギャアギャアと騒ぎながら精神体のグラスを取り囲む。
『お、お前ら……!?何で此処に……!?』
「基地に侵入者が来たから、お祝いパーティーは別の場所でやるってフーラに言われてチームレオって所に避難してたんだ!」
彼らはお祝いパーティーをする時の記憶はあるが、冒険者に襲われた記憶は持っていなかった。
「そこで悪い魔物倒す人が沢山遊んでくれたよ!」
「すごく楽しかった!」
「ねえねえグラス!皆んなでお祝いパーティーやろ!」
生前と変わらず無邪気に接して来る魔物達にグラスの表示は少しずつ崩れていき、やがて大粒の涙を流して泣き始めた。
『ゔぅ……ゔゔゔぅ………!!』
ただひたすら泣き続けるグラスの身体は次第に薄くなっていき、やがて不思議そうに見守る魔物達の前から完全に消え去ってしまった。
「グラス消えちゃった?」
「グラス魔王様はどこ行ったの?」
「本物のグラスさんはあちらに居ます。星屑さん、彼を下ろしてあげてください」
『分かった』
星屑さんは宙に浮かべていた『デスフラワーのボスの人格が消えたグラス』を魔物達の前にそっと下ろした。魔物達は再びグラスを取り囲んでじっと見つめた。
「…………ん、ここは……?」
目を覚ましたグラスは物凄く穏やかな顔で辺りを見回し、周りにいるフラワーの魔物達をまじまじと見た。
「えっ……皆んな……?これ、夢?」
「夢じゃないよ!皆んないるよ、全員無事!」
「フーラ!」
グラスは、駆け寄って魔物の輪に入って来たフーラに顔を向けた。
「皆んな無事だったんだ……僕、ずっと嫌な夢を見てたような気がするんだ。皆んながどっか行って、それから冒険者を憎んで知らない人と変な組織作って、物凄く悪い事して、フーラに当たり散らして……」
「うーん、確かに色々あったけど……悪さした張本人はとっくにこの世から消えてるから大丈夫でしょ!」
「そ、そうなの……?」
デスフラワーの全ての悪事は、グラスを支配して操り人形に変え、裏から指示を出したローズによるものだ。デスフラワーのボスだったグラスの人格も消滅したので、これでデスフラワーは完全に消滅したと言えるだろう。
「グラス魔王様!チームレオって所でお祝いパーティーしようよ!あっちなら安全だから大丈夫だってみんな言ってたよ!」
「皆んなでご馳走作ったんだ!でっかいケーキもあるよ!」
「お祝いにギルがワイバーンに乗せてくれるって!グラスも乗ろうよ!」
「み、皆んな……!」
昔のように純粋にはしゃぐ魔物達を見たグラスはあっという間に涙腺が崩壊し、周りの魔物達をぎゅっと抱きしめると、グラスは大声でわんわんと泣き始めた。
「ごめん……!あの時、皆んなを守ってあげられなくて……本当にごめん……!うぅ……うわぁーーーん!!」
「グラスさんってばまた泣いてる〜」
「今日のグラスさん泣き虫だね!」
皆んなはグラスと周りの魔物達をただ静かに見つめていた。そんな中、羊屋は静かにトトに近寄って軽く手を握った。
「私達もそろそろ行きましょうか」
「はっ、はい……!!」
手を握られたトトは頬を赤らめながら頷き、そのまま羊屋と一緒にデスフラワーの塔から立ち去ったのだった。
「……ローズはやられたか。あのような魔物程度に簡単にやられおって……」
そんなデスフラワーの塔での出来事を、とある異次元の裂け目から見つめる1人の魔王の姿が。
彼の名はクライ、ローズを地球に送り込みデスフラワーを作った元凶の魔王だ。
「地球を我が物にする為に、また別の手を考えんとな。それにしても、あのヒツジヤカルとかいうあの魔王……中々に利用価値のありそうな奴だ……クックックッ……」
魔王は水晶に浮かぶ羊屋の顔を見つめ、ただひたすら不気味な笑みを浮かべるのだった。
「魔王様!大変です!」
だが、そんなクライ魔王の元に1人の魔物の部下が現れた。彼は息を切らし、焦った様子で魔王に駆け寄った。
「何だ騒々しい……一体何の用だ……」
「大変です!この城の兵士と四天王が全滅しました!!」
「……何?」
魔王は想定外の事態に思わず椅子から立ち上がった。
「一体何が起こった?」
「確か最初に上空からピンク色の悪魔が現れ、魔法で辺りの建物を吹き飛ばし、かと思えば突然仲間がバタバタと倒れ出し……次にピエロみたいな奴が来たかと思ったら次々と仲間が発狂、そしてハンマーで兵士を気絶させていき、気絶した仲間を謎の生き物に回収され……」
と、此処で魔王の部下が突然気絶して床に倒れた。
「何だ!?此処に一体何が起こったと言うんだ……!?」
「私が直々に説明しましょうか、魔王様?」
「なっ……!?お前は……!」
突然の事態に動揺するクライに声を掛けたのは、先程まで地球にあるデスフラワーの塔に居た羊屋本人だった。
「なっ……!?何故お前が此処にいる!?」
「デスフラワーを作り出した元凶であるローズさんを調べていたら、地球新略を図る貴方の存在をしったので……これ以上地球に面倒事を増やされる前に、貴方を説得しに来たんです」
そう言うと羊屋は停止魔法でクライ魔王を止めた。その隙に羊屋の背後から夜上、江里牧、士野足、そしてメエが現れ、一斉にクライ魔王に飛び掛かり……あっという間にクライ魔王の討伐を終えた。
クライ魔王を洗脳魔法による説得で地球侵略を未然に防ぎ、これにてデスフラワー消滅計画は完全に達成されたのだった。
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