第35話 魔王グラス戦

 一方、破壊神星屑と魔王グラスは……


『おらあああああ!!』


 魔王グラスは闇の魔力を込めた斧を幾度も振り回して星屑を切り刻む。しかし、星屑に怪我はおろかヒビ一つすら入らない。


『こいつ……!』


 グラスは先程からありとあらゆる攻撃を試していた。魔法を直接撃ち込み、足で蹴り上げ、魔物を生み出して群れで襲わせ、魔力を乗せた斧で切り刻む……だが、どの攻撃も体内の宇宙に消え、獲物を捉えて振った筈の武器は虚しく空を切った。


『くそっ!さっきから全然当たらねぇ!』


 部屋中を縦横無尽に動き回ったグラスにはだいぶ疲労が溜まり、肩で息をしながら星屑を睨んでいる。


『それで終わりか?』


 散々攻撃を喰らった筈の星屑には、かすり傷すらついていなかった。疲労の気配すら無い。


(どの攻撃も通用しねぇ……!このまま攻撃しても、ただ無駄に魔力を消費するだけだ!奴を空間魔法で遥か遠くに飛ばそうにも、奴はあまりにも重すぎて遠くまで飛ばせない、せいぜい数十メートルくらいしか移動させられねぇ……)


 グラスはもはや星屑への攻撃を諦め、どうやって戦いを回避するかを重点的に考えている。



『次はこちらから行くぞ』



 グラスの動きが止まった所で、ようやく星屑が動き出した。右手を上げて手のひらをグラスに向けた瞬間、山のような巨体のグラスが後方へと思い切り吹き飛んだ。魔力と念力混じりの不思議な力がグラスに襲い掛かり大打撃を受けた上に、所持していた武器が全部弾け飛んで消えてしまった。


(俺の攻撃は当たらねぇのに向こうの攻撃は当たるのかよ……!だが、あの攻撃ならもしかしたら……!)


 星屑の攻撃を喰らったグラスは完全に戦意を失ったのか、みるみるうちに小さくなっていき、やがて人間の姿に戻ってしまった。


『トドメだ』


 星屑は片手から黒い球体を生み出し、グラス目掛けて思い切り飛ばした。あまり速い弾では無いが、球体の半径2メートル以内にある物が物凄い勢いで吸い込まれて消えていく。これを喰らったら恐らく大怪我では済まないだろう。


「……」


 だが、グラスは逃げようとしない。じっとしている間も球体はグラスに迫り、ついに距離は3メートルにまで近付いた。



「今だ!!」



 グラスはこの瞬間を待っていた。


 星屑の攻撃が当たる寸前、グラスは残り僅かな魔力で空間魔法を展開して星屑と場所を入れ替えた。その場からグラスが消え、瞬時に星屑が現れる。


『むっ!』


 星屑が生み出した球体は宇宙の中に消えず、かと言って体をすり抜けて飛んで行く事も無く、そのまま星屑自身に命中した。初めて星屑に攻撃が当たったのだ。


 グラスは考えていた。自分の攻撃が当たらないのならば、星屑の出す攻撃を本人に直接返してみたらどうか、と。


 星屑の繰り出す未知の力なら星屑自身にも効果があるかもしれない、そう踏んだグラスは残り全ての魔力を消費して巨体の星屑の場所を入れ替えるという大博打に出た。


(星屑に悟られないよう、事前に星屑本体に空間魔法の照準を合わせ、時が来たらいつでも場所を交換出来るようスタンバイしていた……)


そしてグラスの目論見通り、星屑の攻撃が星屑自身に命中したのだった。


「よっしゃ!」


 作戦が上手くいったグラスは、その場で思い切りガッツポーズを取った。



『少しは考えたようだな』



 だが、自分自身の攻撃を喰らった星屑に目立った外傷は無かった。


「ウソだろ……?お前、あの攻撃喰らっても何とも無いのかよ……!?」


『グラスの動きが不自然に止まったので、何かしら準備はしているだろうと予測は出来た。攻撃を諦めているにも関わらず私に狙いを定めているのを見るに、俺の攻撃を返そうとしているのは大方見当はついた……』


 星屑は攻撃が返されるのを理解した上で、あえて軽い技を仕掛けていた。結果、グラスは予測通りに動いてその軽度の技を星屑に返したのだった。


「俺の動きは予測済みだったってのかよ……!」


 グラスは悔しそうに地面を殴るが、彼の体内に残る魔力はほぼゼロに近い。星屑に対抗できる手段は、もう何も持ち合わせてはいなかった。


『勝負あったな』


 星屑はグラスを念力で持ち上げ、顔の前まで近付けた。


「な、何をする……」


『私が用があるのはデスフラワーのボスのみ……』


 そう言うと星屑は、グラスに強い念を飛ばした。体験した事の無い未知の感覚に襲われたグラスは、気がついたら地面に勢いよく叩きつけられていた。


『一体何しやがっ……えっ?』


 グラスが上半身を起こして辺りを見回すと、上には星屑に捕まったグラスの身体が浮かんでいた。


『俺が……もう1人居る……?』


 先程の星屑の念力により、グラスの身体と精神が分離していた。


『くそっ……!何なんだよコレ!』


 グラスは必死になって星屑に駆け寄ろうとするが、その場でバタバタするだけで上手く歩けないようだ。


『おい星屑!俺の身体に何しやがった』


『簡単な話だ。無実な市民からデスフラワーのボスの精神を切り離した、ただそれだけだ』


『精神!?何してやがんだ!!おい!早く俺を元の身体に戻せ!!』


 星屑の応答にグラスが噛み付いていると……




「失礼します!」


 瞬間移動でデーモンクイーンのトトがこの場に現れた。


『デーモンクイーン、此処に何の用だ』


「魔王様から「全て終わった」と聞いたので、こちらで起こった事を報告しに来ました。グラスを煽る為に行っていたバーベキュー大会の会場に、デスフラワーの塔を攻略していた冒険者のパーティーが迷い込んで騒ぎになって……そこでパーティーのリーダーが気になる事を言っていたので、此処に連れて来ました」


 トトが出入り口の扉を開けると、そこからフーラと縛られた冒険者3名、遅れて1人の冒険者が部屋に入って来た。


 彼らはかつて、羊屋をデスフラワーのボスと間違えて襲って来た冒険者達だった。



「ドウジ!」



 冒険者のリーダーは、奥で突っ立っていた精神体のグラスを見るなりそう叫んだ。


「お前、今まで何やってたんだ!ずっと姿が見えないと思ったらこんな所に……しかもお前、デスフラワーのボスだったのかよ!」


「お人好しのドジじゃん!勇者なのに魔王って……今まで私達を騙してたの!?」


「敵対していた魔物と話し合おうとする程にお人好しの君が、何でこんな事を……?」


 リーダーにつられてピンク髪、優しそうな男もグラスに声をかける。


『テメェ……!今更どの面下げて此処に来やがった!!』


 グラスの方も彼らと面識があるらしいが、仲はあまり良くなさそうに見える。




「冒険者の皆んなは昔のグラスの事を知ってるみたいだね。とりあえず何でグラスがこうなったのか最初から説明するよ」


 そう言うとフーラは、『デスフラワーが作られたきっかけ』について一から話し始めた。


「デスフラワーは、かつては『フラワー』って名前の組織でさ……その時は、魔物の前世を持った人や地球に迷い込んだ魔物とか、とにかく現世で困ってる魔物を集めては塔で保護するような、そんな組織だったんだ」

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