第34話 星屑の正体、ローズの正体

「私も先程聞きましたが……彼はかつて異世界の宇宙に漂っていた、星一つをも容易に消し去れる程の力を持った魔神だったそうで……周りからは『破壊神』と呼ばれていたそうですよ」


『破壊神だと……!?』


 例え魔王だろうが、破壊神を相手にするのは流石にまずいと思っているようだ。先程までの勢いがすっかり消え失せ、若干及び腰になっている。


『……いや、こんな星に破壊神など現れる訳が無い!!そんなに強かったなら俺の奴隷魔法に掛かる筈も無い!!そんなハッタリ俺に通用しねえぞ!!』


 魔王グラスは両手の斧をクロスさせると、その中心に魔力を集めて巨大な魔法弾を作り出した。


『潰れろ!!』


 光を全て吸収する真っ黒で不気味な弾を星屑の身体に目掛けて高速で放った。弾はあっという間に星屑に届き……そして消えていった。


『……あ?』


 魔法が消えた、と言うより星屑の身体の中にある宇宙に飛んで行ったと言った方が正しいだろう。


『ならばこれはどうだ!!』


 グラスは周囲から無数の輝く閃光を生み出し、全て星屑に放った。閃光は星屑に接近すると全て大爆発した。空気が震え、辺りに凄まじい衝撃波が飛び散った。



『う、嘘だろ……!?』



 星屑は無傷だった。


『もう終わりか?』


『ぐっ……!いや、まだだ!こんなのはまだ序の口……そんなに痛い目に遭いたいのなら見せてやるよ!!』


 グラスの最大呪文を前にして余裕を見せる星屑。だが此処までされて引くに引けないグラスは、半ば自暴自棄になっていた。


『おらああああああ!!』


 グラスは大声で叫び、高速で部屋中を駆け回りながら多彩な技を繰り出していく。


 そんな中、この激しい戦場から去ろうとする1人の人影が……


(こんなのに勝てるわけ無いじゃないの……!)


 グラスに勝ち目が無いと見たのか、ローズは目を盗んで急いでこの場から去ろうとしている。




「ローズさん、何処にいくおつもりですか?」



 だが、そんなローズの逃げた先に羊屋が。突然現れた羊屋に驚いている間に、ローズは羊屋の作り出した結界へと引き摺り込まれてしまった。



「結界!?いつの間に……!?」


「貴方は私が相手をしましょう」


 羊屋は柔らかい物腰で接しつつ、かつ獲物を逃さぬ鋭い目つきでローズと向かい合った。



「……っふふ、ふふふ……!」



 魔王カルと呪術師ローズ。明らかにローズの方が分が悪い筈なのに、ローズは羊屋の前で大手を振って笑い出した。


「この私と2人きりになるなんて……!魔王の割に随分と頭が悪いのねぇ……」


 ローズは随分と余裕な表情で辺りを歩き、羊屋を憐れみ嘲笑っている。


「いえ、分かってますよ。ローズさん、貴方が本物のデスフラワーのボスですよね?グラスを裏で操り、冒険者を減らした張本人……」


「ふふっ……知っていたのにあえて、私にのこのことついて来たの?お馬鹿ねぇ……そうよ、あのデスフラワーのボスを裏で操ってたのは私よ。哀れな子羊さん」


 ローズはコツコツとヒールを鳴らし、羊屋の真正面に立った。


「私の正体はサキュバス、それも位の高い最高位のサキュバスなの。呪いの他にも色んな呪文を操れるけど、その中でも特に得意なのは魅了魔法。気に入った相手を魅了して、私に依存させながら少しずつ言う事を聞いて貰って、最終的に私にとって都合の良い操り人形にする……これが私のやり方」


「グラスさんをどうしようもない性格に変えたのも貴方ですね?」


「そうよ。私、どうしようもない人と付き合うのが大好きなの。性格が最悪で、周りの物に当たり散らして、依存している私にまで手を出すどうしようもない人……可哀想で可愛いと思わない?」


「私には分からない話ですね」


「そう、でもどうでもいいわ。グラスはもうダメみたいだから、次はグラスより強そうな貴方を捕まえる事にしたの。貴方も私の虜にして、最終的に私好みの性格に塗り変えてあげる……」


「おや、私を捕まえるつもりですか?残念ながら、それは無理かと……」


「ふふふ……私を追って来た子は皆んな同じ事を言ってたわ。そして、皆んな最後には私の操り人形になった。残念だけど貴方のこれからの人生は永遠に私のものよ……」


「いえ、それ以前に私は……」


「怖がらなくていいのよ、坊や」


 ローズは羊屋に急接近して顔を近付ける。羊屋はローズの目をじっと見つめた。


「ふふふ、貴方ってイケメンだけど以外とウブなのかしら?でも安心して、私はこれから貴方が1番望んでいる理想の相手になってあげるから」


「人……」


 今此処で全く知らない赤の他人になられても、人見知りの羊屋相手ではただ気不味くなるだけである。


「私のような高位のサキュバスは、相手の望む理想の人に化られるの。私が貴方の望んでいる理想の人になれば、例え頭で理解していても貴方は次第に私を求めるようになる……」


 ローズは羊屋に接近して頭の中を覗き込む。


「ローズさん、変身魔法は中断した方が身のためですよ」


 羊屋は逃げも隠れもせず、ただローズを見つめたまま説得する、


「無駄よ、私の変身魔法はもう誰にも止められないわ。次の瞬間、貴方の前には貴方の理想の……ん?」


 此処でローズはようやく違和感に気付いた。


 羊屋の脳内を覗いた結果見えたのは、色欲を遥かに超える物欲の波だった。


「えっ……何これ……」


 羊屋の脳内をいくら探っても『理想の人』は見つからず、『理想のアイテム』の情報しか見つからない。ローズが危機を察知し、変身魔法を止めようと動いた時には既に遅く、変身先は『今、羊屋がどうしても欲しい物』に向いてしまった。


「貴方……!まさか記憶を操作してわざと私に見せつけたって言うの!?私をこんな『小さな物』にする為に……!」


「忠告した筈ですよ、魔法は中断した方が身のためだと……」


「こんなちっさい物になったら自我が保てず消滅するじゃない!なんて事するのよ!最低!!」


「貴方には言われたくないですね」


「…………最後に聞かせて、貴方の好みのタイプは何だったの?」


「よく分からないですね。私、極度の人見知りなので……」


「なんなのよもう!どこまでも私を馬鹿にして!あんたなんか……!」


 だが、ローズが言い終える前に変身魔法が発動し、ローズの姿は完全に別の物体へと変わってしまった。

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