第33話 アジト壊滅

『私達はチームレオと一緒に動き回ってアジト破壊してました!』


 モニターに映るデスフラワーの部下、シルフのフーラは笑顔でグラスに報告した。


「……どうやら死に急いでるらしいな。フーラ、お前はもうこの組織に要らねぇ……その場で自滅しろ」


 グラスは部下のフーラに命令した。グラスから奴隷魔法を喰らっているフーラは、グラスから命令されたら例え無理難題でも使命を達成するまで動き続ける。



『嫌です!!』



 だが、フーラはその命令には従わなかった。グラスに向かって物凄く嫌そうな顔をしながら大声で叫び返した。


「……何でだ?何で俺の指示に従わねぇんだよ!!ふざけんな!!その場で惨たらしく死ねよ!!」


『何でお前の為にそんな事しないといけないの?』


「あ゛ぁ゛!?今何つった!?」


「あはは!面白い顔〜!」


「まさか……奴隷魔法の効果が切れてるって言うの!?」


 ただ切れ続けるグラスに情報を理解しようとするローズ、その様子を見てゲラゲラと笑うフーラ。


『じゃあ私がアジト内部がどうなってるか見せてあげるよ!』


 フーラは自分を映していたカメラを取り外し、メエと一緒にリザードマンが居た部屋から出た。



『到着!』


 フーラが辿り着いた場所は会議室。だが、此処も荒らされた跡があり、天井が完全に壊されて無くなっていた。


『皆んな〜!お待たせ〜』


『おー!ぬいぐるみも来たか!』


『オレンジジュースあるよ〜』



 デスフラワーの部下は崩壊した会議室の中で談笑しながら楽しそうにバーベキューをしていた。



『早くしないとお肉無くなっちゃうよ!』


『私回復薬のソーダ割り飲む!』


『ロックだな〜!』


 会議室の中に置いたバーベキューグリルで高そうな肉を焼き、ジュースサーバで注いだ飲み物を飲んでいる。中には高そうなアイスと肉を交互に食べる者までいる。


「……はぁ!?」


 皆んなピンピンしている上に、アジトが襲撃されたとは思えない行動を取る部下達に思わず声がひっくり返る。


『あ、そうだ。このカメラの向こうにグラスいるよ〜』


「呼び捨てにすんな!」


 グラスは叫ぶが、向こうのバーベキュー会場には一切届いていない。


『へー、どうでもいいな』


『あっそうだ、グラス派の部下は皆んなどこやったの?』


『グラスに忠誠誓ってた奴らは縛り上げて全部チームレオに渡したよ』


『そうそう、特に凄いのはトップ10が消えた事だよな〜!』


『あいつら、チームレオに見つかってあっという間に潰されたからな〜。アイツらも相当ヤバい事してたらしいし、今頃は牢の中かもな』


「は……?」


 グラスは驚愕した。此処から逃げたと思っていたあのトップ10も一瞬にして消えたのは想定外だった。


「何やってんだよ!!人質は!?故郷に返す約束は!?お前達バカ共はそんな約束すら忘れたのか!?」


 バーベキュー会場にはグラスの映像は流れていない。デスフラワーの部下はそんなグラスの事など全く気にせず話を続ける。


『俺達を奴隷から解放してくれた魔王様には感謝しないとな!』


『魔王様、あの呪い全部解除してくれたんだよな。しかも一瞬で』


『グラスやローズにやられた家族を解放してくれたし、遠い星にも送り届けてくれるらしいし、願ったり叶ったりだよな!さっき見せてくれたワープゲートみたいなやつ、本当に凄かったよな!』


『自分が所属してたクソアジト荒らすの凄く楽しかったねー!!』


『最終的に全部ワイバーンが破壊してったけどね、まあ誘導もしたけど』


「ぜ、全員裏切りやがったのか……?」


「……私の呪い、何処の馬の骨とも分からないような知らない奴に解除されたの……?」


 あまりの展開にグラスの感情が怒りから困惑へと変わっていき、勢いが次第に衰えていく。





「随分と人望が薄い上司ですね」


 そんな絶望するグラス達の背後から謎の声が飛んできた。


「誰だ!?」


 グラスがモニターから目を離して振り向くと、そこには羊の耳とツノが生えた人物、魔王姿の羊屋可留(ひつじやかる)の姿があった。


「綺麗……」


 羊屋を見たローズが思わずそう呟くと、グラスはローズをギロリと睨みつけた。睨まれたローズは口をつぐんで目を逸らす。


「……お前が例の魔王だな……?」


「グラスさん、初めまして。貴方のようなお方とお会い出来て光栄です」


「……」


 グラスはもはや怒りを通り越して冷静になっていた。


 ダンジョンに冒険者をけしかけて中身を掻っ攫っていったり、アジトにギルドのトップを送りつけ、果てには部下を呪いから開放した元凶かもしれない人物を無闇に殴り掛かる気にはならなかった。


「……質問していいか?」


「はい、どうぞ」


「俺とお前は初対面だよな……?」


「はい、初めましてですね」


「俺はお前に何かしたか?部下がお前に失礼な真似したのか?それとも俺が無理矢理連れて来た部下の中にお前の仲間が居たのか?」


「いいえ、私は特に危害を受けた訳ではありません」


「…………何で」


「はい?」


「じゃあ何で俺にこんな仕打ちをしたんだよ!!」


 グラスが相手の素っ気無い回答に呆気なく切れた。


「別にお前に何も恨むような事してねぇのに此処まで追い込みやがって!ダンジョンもアジトも部下も失ってこっちは大損害だ!!ふざけんな!何だ!何が狙いだ!?」


 もはや悲痛な叫びだった。一夜にして何もかも失ったグラスは、もはやヤケクソになって怒り狂い、今にも飛び掛かりそうな勢いだ。だが、羊屋はグラスとは対照的にずっと冷静なままだった。



「今回の件に関しましては、ただ私の趣味に支障をきたすので掃除をしに来ただけです」



「!!!!」



 羊屋からアジト壊滅の理由を聞いたグラスは、声にならない酷い叫び声でただひたすらわめき散らした。


 長い年月をかけて作ってきたダンジョン、アジト、部下をくだらない理由で一瞬で消されたのだから、この反応になるのはもはや当然なのかもしれない。


「殺す!お前だけは絶対に殺してやる!!」


 グラスはもう本来の目的すらどうでもよくなるくらいに、目の前の人物が憎くてたまらなかった。




「勝手に異世界から攫った人物を脅して奴隷として働かせ、地球の人間に迷惑を掛けたお前が今更何を言ってるんだ」


「今度は誰だ!?」


 羊屋の背後から現れた1人の男が、怒るグラスの目に留まった。


「私の妹を人質に取ったお前に、そんな被害者面ができたとはな……」


「星屑……!?」


 そこには身勝手なグラスの言葉に怒り震える星屑垣の姿があった。


「お前も裏切ったのか!?」


「裏切った?私を勝手に奴隷にしたの間違いだろう。勘違いも甚だしい……」


 顔を赤くして大声を出すグラスと冷静に受け答えをする星屑、同じなのはどちらも怒りが頂点に達しているという事だけだ。


「星屑さんはデスフラワーのアジト襲撃に積極的に力を貸してくれた功労者です。彼のおかげで楽に貴方のアジトを潰す事ができましたよ」


「はぁ!?」


「当たり前だ。今まで私を散々な目に遭わせておいて、このような結末を全く想像できなかったのか?おめでたい頭だ」


 星屑に正論を投げられたグラスは静かに俯いた。だが、次第にワナワナと震え出したかと思うとバッと顔を上げて星屑を睨みつけた。


「あ゛ーーーっ!!テメェみてぇなバカなんか仲間にしなけりゃよかった!!」


 ついにグラスが爆発した。


「ちょっと力があるだけでつけ上がりやがって!!ふざけんな!!決めた!!お前らはまとめて絶対に殺す!』



 そう叫んだ瞬間、グラスの体が一瞬で大きく膨れ上がった。身体中がいかつくなってトゲやツノが生えていき、やがて禍々しい悪魔のような顔をした魔王が羊屋達の目の前に現れた。


『今まで蓄えた力を全て使ってお前らを潰す!!』


 魔王グラスは両手から巨大な斧を生み出して構え、更に見えない武器を周囲に漂わせて羊屋と星屑に狙いを定めた。


「おや、中々強そうですね」


 グラスの実力も相当あるようだ。蓄えた魔力を全て力に変えているので更に力が上乗せされているので、その辺の魔物や冒険者はこの魔王グラスの前に立っただけで気絶してしまうだろう。



「いいだろう。では私も本気を出そう」



 星屑は目を閉じて深呼吸をしながら全身に力を入れ、真の力を解き放った。


 身体が数十倍にまで大きくなり、グラスの背を余裕で超えてしまった。全身は宇宙のように真っ暗だったが、それを感じさせない程に身体中に無数の星が輝いていた。


『宇宙……?』


 グラスは此処まで大きくなるのは想定外だったらしく、口をポカンと開けたまま星屑を見上げていた。


『魔王グラス……貴様だけは簡単には終わらせんぞ……』


 顔らしき部分に輝く両目のようなものが現れ、その輝く目でグラスをギロリと睨みつけた。


『なっ……何なんだお前……!?』


 未知の力で溢れる星屑に思わずたじろぐグラス。


「私も先程聞きましたが……彼はかつて異世界の宇宙に漂っていた、星一つをも容易に消し去れる程の力を持った魔神だったそうで……周りからは『破壊神』と呼ばれていたそうですよ」

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