第32話 崩壊寸前デスフラワー

『ワイバーンです!明らかに魔導技術で作成された機械仕掛けのワイバーンが我々のアジトを襲撃してます!!』


「……は?」


 リザードマンの男の報告に思わず固まるグラス。


「ワイバーン……だと?」


『私が作った魔導リザードマンよりも遥かに高性能なワイバーンです……!高速で飛ぶし雷は吐くし、装甲は硬過ぎる上にありとあらゆる魔法は無効化され、更に身体は大破しコアが多少欠けてもあっという間に再生出来る高性能な自動修復機能……』


「はぁ!?何で関係者以外入れないアジトでそんなバケモンが暴れてんだよ!?」


『しかもそのワイバーンが3機も飛んでます!アジトの仲間が次々とやられているみたいです!!』


「映せ!アジトの内部をモニターに表示しろ!」


『はっ、はいっ!!』


 モニターがリザードマンからアジト内部の映像に切り替わった。


「何がどうなってるのよ……!」


 そこには、明らかに人ならざる者の手によって破壊し尽くされたアジトの内部が映し出されていた。


 辺りには既に部下の気配は無いが、それ以上に不可解な事があった。


「このアジト……部下が抵抗した跡が一切無いように見えるわ……」


「下っ端は成す術も無くやられたってのかよ……!?」


「抵抗した跡すら無いように見えるんだけど……」


「ザコ共は骨すら残さず消されたんだろ。トップ10に関してはワイバーンには敵わないと判断して外に逃げたって所か?」


 トップ10とは、デスフラワーの中で特にグラスへの忠誠心が高い上に実力がある部下の集まりである。


「あいつらにはいざという時のためのテレポート装置を渡してたからな。多分大丈夫だろうが……くそっ!こんな事なら俺も持っとけば……あっ!」


 誰も居なくなったギルドに、明らかに機械で構成された小型のドラゴンのような物体が姿を現した。これがリザードマンが言っていた魔導ワイバーンだろう。


 ワイバーンはその場で停止し、背が開いてそこから人が姿を現した。



「ギル!?」



 ワイバーンから姿を現したのは『チームレオ』でトップの実力を持つ冒険者だった。


 更に他のワイバーンから『竜殺しのドウ』、『魔物バスターのレツ』が現れた。彼らはチームレオが誇るトップ3だ。


『あっというまだったな』


 ドウは辺りを見回しながら感慨深そうにそう呟いた。


『とある物好きな野郎が魔導ワイバーンを俺達のギルドに寄付してくれたからなぁ』


 レツは綺麗に手入れされた髭を軽く撫で、呑気な様子でそう答えた。


『俺は正直アイツの事は気に入らないんだけど……』


 ギルだけは不服そうで、先程からずっとワイバーンを睨みつけている。


『だが、魔導ワイバーン10機提供してくれたお陰で、私達は様々な地に速やかに赴いて魔物討伐ができるようになった』


『そうだぞギル、このデスフラワーの本拠地も教えてくれたあの魔王にはとりあえず感謝したらどうだ?』


『それが嫌だって言ってんじゃん……』


 冒険者達は一通り話し終えると、ワイバーンを小さくしてポケットにしまって本拠地内を歩き出した。




「魔王……?まさか何処かの魔王がデスフラワーを潰す為に冒険者をけしかけて来たってのか……?」


 グラスがそんな事を言ってる間に、勝手にモニターが操作されてデスフラワーの塔内部に切り替わった。



 そこにはドラゴンの戦利品や周りに落ちている素材を拾い、丁寧に袋に入れていく冒険者達の姿があった。


『おっ、この刃が飛び出す罠いいなぁ』


『ここの呪いは吸引するとヤバい物のようだな……よし、この装置も持ち帰るか』


 技術師や呪術師の類いが辺りの罠も解体して袋に詰めていく。次第にダンジョン内は殺風景になっていく。


「ちょっと!その罠にどれだけの価値があると思ってるのよ!」


 ローズがヒステリックに叫んでもダンジョン内部の冒険者の耳には一切届かない。



 やがてデスフラワーのダンジョンは、冒険者達の手によって何も無いシンプルな塔になってしまった。


『いやー楽しかったねー!』


『事前情報さえあればこんなの楽勝だよな〜!』


『逆に言えば情報収集は非常に大事であると言う事でもあるね、肝に銘じないと』


 ダンジョンを一通り荒らし終えた冒険者達は、和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気のまま最下層にあるゲートを潜り、あっという間に何処かへと帰っていった。




「クソッ!クソッ!クソーッ!!」


 ダンジョンをダメにされて更に荒れるグラス。もはやローズですら声を掛けられない程に酷い有様だった。


『ボス……!』


 モニターに再びリザードマンの男が現れたが、もはやグラスにとってはどうでも良かった。


「てめぇ今まで何してやがった!ただ無駄にそこにいるだけでてんで役に立たねぇ!魔導技術者であるお前が作った魔導具が軒並み潰されるしドラゴンは全部死んだ!お前には何の価値があるってんだよ!クビだ!お前はもうゴミだ!楽に死ねると思うな!!」


 切れたグラスはリザードマンにまで当たり散らした。



『え、普通に嫌です』



 だが、リザードマンはそんなグラスの言葉をあっさり否定した。


「あ?何だ?今になって反抗か?お前の首に巻きついてるチョーカーが何なのか忘れたんじゃねぇだろうな?」


 グラスはリザードマンの首にあるチョーカーを指差しながら話を続ける。


「その奴隷の証を着けてる限りは俺からは逃げられない、どんな要望だろうが俺の指示に従う俺の操り人形……お前は永遠に俺の下僕だ」


『いや〜そもそもボクはグラスさんの部下じゃないので……』


「あ?」


『だ〜か〜ら!ボクはグラスさんの部下のリザードじゃないって言ってるんです!!』


 そこでモニターに映っているリザードマンが突然ボンと爆発した。



『グラスさんと喋るのはもう飽きました!』



 爆ぜたリザードマンの中から丸々太ったダイコンのような編みぐるみが現れた。


「……誰だテメェは……」


『ボクの名前はメエです!今日はデスフラワーを潰すためにやって来ました!宜しくお願いします!』


 メエはグラスを相手に呑気に自己紹介をする。そんなメエの後ろから新たに人が現れて画面に映り込んで来た。


『ねえ、そろそろ会話やめてこっち来たら?』


 画面に現れたのはグラスの部下だった。アジト壊滅と共に消えたと思われていた部下が無傷で、しかもボスであるグラスを無視して編みぐるみのメエに話しかけている。


「おいフーラ!アジトが襲われてる時に何してやがった!何で無傷なんだよ!」


『うるさいなぁ……』


「あ゛ぁ゛!?今何て言いやがった!!」


 グラスはひたすら怒鳴るが、部下であるシルフのフーラはどこ吹く風といった感じだ。


『あんたのギャンギャン吠える声がうるさいって言ったの!とりあえず私達デスフラワーの皆んなはほぼ全員無事でーす!!』


「ならなんでアジトがあんな酷い有様になってんだ!?お前らはアジトを荒らされてるのをただボーッと突っ立って眺めてたのかよ!!」


『いえ、眺めてないです!私達はチームレオと一緒に動き回ってアジト破壊してました!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る