第31話 デスフラワーの塔、攻略中
「くそっ!何でだ!!」
グラスは握り拳を震わせ、作り出した透明な手で床を思い切り殴りつけている。
「この塔には冒険者を阻む罠を沢山設置したんだぞ!!」
「グラス、落ち着いて……」
「罠を踏まないのはまだ分かる……だがコイツらはまるでこのダンジョンの事を予め理解してたかのような動きをしてんじゃねぇか!!誰だ!誰が塔の情報を流しやがった!!」
グラスはモニターに映る冒険者を睨みつけながら叫ぶ。
『おらっ!潰れろ!!』
『ゴーレム全部潰したから、この辺に散らばる呪いもじきに消えるよ!』
モニターの中の冒険者達は、ダンジョン内をうろつくダークゴーレムやナイトゴブリンを次々と討伐していく。
『元人間の回収も完了しました!これでこのフロアは安全です!』
『皆んな大掃除してくれてありがとね〜!はいはい!傷の手当てするよ〜!』
『人間さーん!順番に並んでね〜!』
そして完全に占拠したフロアにキュウ、ナイトバットウィッチ達が登場して道具を広げ、冒険者達を治療し始めた。
『ありがとう!助かったよ!』
冒険者達は治療を受けて次々と元気になり、ウィッチから貰ったドリンクを飲んでバフが掛かり更に元気になる。
「表でうじゃうじゃしてる冒険者をぶっ潰す為に育ててた塔だ……なのに!何で!塔にそのゴミ共がうじゃうじゃ沸いてんだよ!!星屑!おい星屑!!会議に呼んだ戦闘員を塔に送れ!!」
グラスは通信道具のスイッチを押して何度も星屑を呼ぶが、星屑が来る気配は一切無い。
「こんな時に何してやがる!役に立たねぇな!!おいリザード!外出て戦闘員呼んでこい!!」
『無理です!何故か外に出れません!!しかも通話が此処にしか繋がらないんです!!』
「んな訳無えだろ!もういい俺が行く!お前らは後で処刑だからな!!」
グラスは外に出ようと扉を押すが、全く動かない。押しても蹴ってもびくともしない。魔法で外に出る事すら出来ない。
「何なんだよクソッ!!塔の雑魚共を黙って見過ごせってのかよ!!」
「グラス落ち着いて!どうせあの冒険者達は全員20階で全滅するわ!」
「それじゃあ遅えんだよ!!」
イライラが募るグラスはついにローズを怒鳴った。ローズはびっくりしてその場で固まっている。
グラスが何の対策も出来ないまま塔は攻略され、冒険者達はあっという間に20階まで登ってきた。
『ん……?此処はさっきの階と違うな……」
『あっ、奥に何か立ってる』
『あれは……魔物型のロボット?』
このロボットの正体は魔導リザードマン。これはグラスが異世界から無理矢理呼び出した魔導技術学者に作らせた魔法兵器だ。人間や魔獣を遥かに凌ぐ腕力に圧倒的な火力を誇る火炎魔法、そして受けた傷を完全に回復する自動修復機能。
「クソッ……これなら冒険者に大打撃与えるだろうが、こっちの損失も馬鹿に出来ねぇ……!」
グラスはリザードマンが動き出して冒険者を完膚なきまで叩きのめすのを今か今かと待ち侘びた。だが、リザードマンはいくら待っても動き出す気配が無い。冒険者達が持つ魔力を感知して動き出す筈だが、彼らはピクリとも動かない。
『呆気無い』
そんなリザードマンの陰から獣耳を生やしたミステリアスな美少女が現れた。その美少女の両手にはリザードマンの動力源であるコアが握られていた。
『イアさんあれ全部片したんですか!?すげぇ!』
イアさんもとい士野足さんは、時折ダンジョンに入ってレベル上げをしていたので、それなりに知り合いが出来ていた。
だが、皆んなは印の影響で『イアさんはイアさん』だと認識し、彼の正体についてはそれ以上深く理解する事が出来ない。彼を士野足さんだと認識出来ないのだ。
『此処から出てくるロボットは全部私に任せて。この魔導兵器には魔力感知センサーがあるから、この階からは特に魔法使いは前に出過ぎないで。基本は後方待機でお願い』
『分かりました!イア姉さん!』
「クソが!!」
頼りにしていた兵器が軒並み壊されたグラスは更に激昂し、透明な鉄球を振り回して周りの物に当たり散らす。
「何なんだあの女!大事な兵器を全部ぶっ壊しやがって!」
グラスが叫んでいる間も士野足さんは待機中の兵器に接近しては、兵器の自動修復が追いつかない程に素早い手捌きで装甲を引き剥がしてコアを引き抜いていく。
「ふざけんな!あれにどれだけ時間と金を掛けたと思ってやがる!」
「グラス……」
「お前もボケっとしてねぇで何かやれよ!!」
「やってるわよ!さっきからありとあらゆる魔法を試してるけど効かないのよ!!」
グラスとローズとの空気が悪くなっていく中、モニターの冒険者達はついに27階まで到達した。
『そろそろてっぺんか……』
冒険者達は27階へと続く階段を眺めている。
だが、この階の次にある28階には呪いを撒き散らすダークドラゴンが10体程居る。27階で少しでも物音を立てるとすぐにドラゴンが目を覚まし、下のフロアに飛び込んで来る。
更に29階はダークドラゴンの巣となっており、他の個体より遥かに強いドラゴンの親玉が眠っている。一旦目を覚ましたらグラスでも中々宥められない程に厄介で、疲れ果てるまで塔全体を荒らし回る乱暴者だ。
「はぁ……せめて此処で冒険者の数減らすしかねぇか……ドラゴン、せめて1匹10人くらいは食ってくれよ……!」
だが、冒険者達は一向に27階に向かう気配は無い。
『じゃあ、そろそろアレやってくる』
士野足さんは意味ありげな発言をすると、無言で魔物でひしめく27階へと移動し、魔物を無視して更に階段を登って29階へと到達した。そこではドラゴンの親玉とダークドラゴンの群れが丸くなって熟睡していた。
士野足さんは部屋の中央に立つと、袋を逆さにして謎の緑色の塊を大量に出した。やがて山のようになった緑色の塊に火を点けた。
28階に降りて先程と同じ動作で緑色の山を作って火を点ける。一仕事終えた士野足さんは無言のまま27階まで降りた。
『とりあえず此処もお掃除しないと……』
士野足さんは人の侵入に気付いていない魔物の群れの中央に立ち、その場で軽やかにステップを踏みながら一回転した。
次の瞬間、士野足さんの姿がパッと消えた。数秒後に再び階段付近に現れたかと思うと、27階にひしめいている魔物が全て音も無く倒れ、素材を残して消えてしまった。
『つまらない相手に大技使っちゃった……』
士野足さんは無表情のまま眉間にシワを寄せながら下の階へと降りていった。
「なんだよアイツ……!あの一瞬で魔物共に何しやがったんだ!?」
グラスは魔物を一瞬で葬り去った士野足さんを睨みつけながら吠える。
『イアさんお疲れ様です!どうでしたか?』
『上手くいった。あの安眠草のお香を焚いて数分待てば、ドラゴン達はめったな事では起きなくなる』
「は?」
冒険者達が『初心者の森』で大量に摘んだ安眠草を、道具屋の主人が全てお香に加工したものである。これも全てドラゴン対策の為に作った道具だ。
「そんなものを部屋で焚いたら大変な事になるわよ!」
「うるせぇ黙れローズ!おいリザード!塔の中を換気しろ!ドラゴン共を叩き起こせ!」
『無理です!そんな機能ありません!』
グラスはリザードマンに指示を出すが、リザードマンは必死になって首を振って否定する。
「グラス、塔の中を呪いで充満させる為に窓を無くしたんじゃなかった?窓があったら冒険者に割られて呪いが外へ舞って薄くなるかもしれないからって……」
「くそっ!」
グラスが握りしめた拳を床に叩きつける。その間も28階と29階は煙で充満し、やがてドラゴン達は深い眠りについてしまった。
『おーっ……ぐっすり寝てるな』
因みに冒険者達はクリーンマスクのお陰で『安眠草のお香』の効果を一切受けていない。この場に眠そうな冒険者は誰1人として居なかった。
『この間にドラゴンにトドメ刺すか』
冒険者達は音を立てないよう慎重に28階に入ると、手に持った武器でドラゴンを次々と仕留めて回った。ある者は剣で斬り、またある者は槍で一突きしてドラゴンを潰していく。
その間もドラゴンは目覚める事は無く、やがて親玉ドラゴンも冒険者達の手によって呆気なく仕留められてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます