第30話 デスフラワーの塔、攻略開始

 ここはデスフラワーのアジト。


 高い塔の最上階にある玉座の間。その禍々しい玉座に1人の青年が座り、その隣にはドレスを着た謎の美女が佇んでいる。


「グラス様」


 そこにチョーカーを付けた1人の男が現れ、青年の前で膝をついた。


「……報告」


 グラス様と呼ばれた青年は、つまらなそうにしながら男に向かって一言投げた。


「デスフラワーの関係者を全員集めてきました。トップ10は部屋で待機中、後は会議を始めるだけです」


「……下がれ」


「分かりました」


 男は素直に頷き、立ち上がって出入り口に向かってゆっくり歩く。謎の美女は男の後ろ姿をただじっと見つめた。


「……星屑、こっち来い」


「はい」


 グラスは唐突に立ち上がって男を呼んだ。星屑と呼ばれた男は素直に従いグラスの前に立った。グラスは星屑の綺麗な顔を思い切り殴りつけて吹き飛ばした。


「……ッ」


「テメェ、ローズに色目使ってんじゃねぇよ」


 グラスは倒れた男の胸ぐらを掴んで持ち上げる。男は一切抵抗せず、ただ流れに身を任せている。


「謝れ」


「申し訳……ございません、グラス様……」


「ちょっと!私はただその子をちょっとだけ見つめただけでしょ!貴方だってこの間、吸血鬼の子に……!」


 と、謎の美女『ローズ』が何か言い掛けたが途中で止められた。グラスがローズに急接近し、キスをして口を塞いだのだ。


「俺が惚れた女はお前だけだ。それ以外はただの遊びだ」


「もう……火遊びは程々にして欲しいのに……」


 男が倒れている横で構わずに抱きしめ合う2人。


「……無駄に動いたから腹減った」


「軽く何か作る?」


「頼む」


 ローズとそんなやり取りをした後、グラスは床で倒れている男に視線を向けた。グラスは魔法で生み出した透明な手で星屑の頭を力一杯掴む。


「星屑、会議は9時に変更だ。関係者全員に伝えて来い。少しでもモタついたら妹を即魔物に変えるからな」


「分かりました……」


 透明な腕から解放された星屑は何とか起き上がると、フラフラと歩いて玉座の間から姿を消した。


「……アイツの顔、やっぱ気にくわねぇな。次此処に来る時は顔全部覆えるマスクでも着けて貰うか」


「やめなさいよ、可哀想」


「真っ先にアイツの妹人質にしたお前がそれを言うか?」


 グラスとローズは他愛も無い話をしながら玉座の裏にある扉のドアノブに手を掛けた。



『ボス!大変です!!』



 グラスが扉を開けようとした瞬間、壁に付いているモニターの電源が点き、リザードマンの男が映し出された。


「……しょうもない事だったら殺すからな」


『一大事です!!ボス、コレを見て下さい!!』


 モニターの映像が切り替わり、次は塔の内部が映る。そこには部屋の中を彷徨く魔物が映し出されている。


「……何が一大事だよ。何も起こって……」


 と、グラスが文句を言おうとした次の瞬間




『おらー!!出てこいデスフラワー!!』



 謎の怒声と共に部屋中に強風が吹き荒れ、モニターに映る魔物が次々と吹き飛ばされていった。


「……は?」


『よし!とりあえず此処も制圧出来たぞ!』


『次行くぞ次!』


「なっ……!?何なんだコレは!?」


 謎の怒号と共にモニターに映し出されたのは『冒険者』だった。


 1人や2人の侵入ならまだ分かる。だが、このモニターには既に何十名もの冒険者が映っていた。


「な、何が起こってやがる……!?」




 遡る事1週間前……




 ダンジョンの『始まり村』に、いつものように大勢の冒険者が集まる。


『うぅ……』


 そんな始まり村に傷だらけのキュウが現れた。身体中ボロボロで、辛そうに足を引きずっている。


「……あれ?キュウ、どうしたんだ……?」


 最初に出入り口近くにいた数人の冒険者がキュウに気付き、心配そうに声を掛けた。


『と、塔……』


 キュウはたった一言呟くと、その場に力無く倒れてしまった。


「おい!大丈夫か!?」


 冒険者達はこぞってキュウに近付き、応急手当てをして急いで回復施設に連れて行く。


 ダンジョン内で道具販売をしたり、毎回無償で回復し、更には話相手にまでなってくれるキュウは冒険者達にとって非常に有り難く、いつしかキュウはアイドル的な存在になっていた。周りの冒険者はほぼ皆んな集まり、キュウが目覚める瞬間を今か今かと待ち続けた。


『こ、ココは……?』


「キュウ、気が付いたか。此処は始まり村だ」


「キュウちゃん、一体何があったの?」


 冒険者達は心配しながらキュウに尋ねる。キュウは仰向けの姿勢のまま、事の顛末を話し始めた。


『えっと、ボク……いつものように初心者の森から村に歩いて帰ってたんだけど、突然歩いてる場所が変わって……そうだ、ボクの目の前に塔が現れたんだ』


「塔?」


『うん。塔の形をしたダンジョンで、面白そうだったから入ってみたんだけど、中々に難しくて……ボロボロになって、でも頑張って逃げて……』


 キュウが塔の中に侵入したのは本当だが、身体中の怪我は余裕こいて階段付近で軽くふざけて滑って転び、派手に転倒した際に出来たものである。


「……キュウ、そのダンジョンが何処にあるか分かるか?」


『場所は分かるよ……塔の中で拾ったアイテムを元にサーチすれば行けるかも……』


 そう言うとキュウは、ポケットから花の紋様が付いた謎のパーツを取り出した。


「このマークはまさか……デスフラワーか……?」


「えっ!?デスフラワーってあの、人を魔物に変えてるやべー所か!?


 1人の冒険者がマークに気付いた。他の冒険者は驚きどよめいている。


『多分そうかも……あの城にいた人、デスフラワーが何とかって……』


「成る程……つまり、キュウが飛んだ先にあった塔はデスフラワーのアジトの可能性もあるな……」


「俺達を誘い出す為に作った罠とかじゃないか?」


「うーん……どちらにせよ、そのデスフラワーの塔には向かわねばなるまいな」


「ああ……」


 いつになく真剣なムードの冒険者達、彼らはどうやら塔に乗り込む気があるらしい。


『……君達、まさかあの塔に行くつもり?』


「当たり前だ。あの悪名高きデスフラワーが関わっているかもしれない塔をこのまま野放しにする訳にはいかん」


「それに、俺らのキュウちゃんがボロボロにされたんだぞ!黙ってられっか!!」


『ダメだよ!あの塔は普通のダンジョンと比べて難易度も悪意も高いんだよ!せめて1週間は準備期間を設けないと!』


「1週間か……」


『ボクはダンジョン探索には失敗しちゃったけど、情報は沢山持ち帰ったからね!ダンジョン攻略したい人にはとことん教えるから!』


「……分かった。キュウ、元気になったらその塔の事を徹底的に教えてくれよ!その間に俺達はこのダンジョンの事を周りに教えてくるから!」


『分かった!掲示板にもこの出来事を記事にして載せて貰うよう言っとくね!』


 こうして、冒険者は周りにデスフラワーと塔のダンジョンの話を広め、掲示板には士野足さんがデザインしたデスフラワーの塔の記事が張り出された。


『出没!デスフラワーの塔!近日公開!』


 記事の中には、デスフラワーから帰って来たキュウの一言やダンジョン内の様々な魔物や罠の情報が載っていた。


 この記事を書いた本人は「スマホアプリの限定イベントの告知みたいにしてみた」と楽しそうに言っていた。


「これってさー、ゲームのイベント告知みたいだよね」


「あーそれすごく分かる」


 この記事を見た冒険者達も同じ事を言っていた。


 何はともあれ、こうして冒険者達にデスフラワーの本拠地を教えた上に本拠地内のありとあらゆる情報を教えて対策させ、準備万全の状態で冒険者をデスフラワーの塔に送り込んだのだった。





「おい!何で罠が発動してねぇんだよ!」


「私の流した呪いの掛かりもあまり良くないみたい……」


 モニターの中の冒険者は次々とフロアを攻略していく。その光景に驚いたり怒りの声を上げるグラスとローズ。


 ダンジョンの中の罠が通用しないのは訳がある。罠は初心者の森で取れる素材『やわらか草』で作られた防具『サイレントブーツ』で回避し、呪いの類は『キレイミント』で作られた『クリーンマスク』で軽減している。


「一体何が起こってるんだ……!?」


 冒険者はフロアの魔物を綺麗に潰して周って10階目を突破した。冒険者によるダンジョン攻略は中々に順調だ。

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