第29話 デスフラワーと垣さん

 そして放課後……


「失礼する」


 再び時が止まった学校の屋上で星屑兄と再会した。彼は朝に見かけた時より具合が良くなっているように見えた。


「星屑さん、朝より元気になってる?」


 トトさんも星屑さんの具合に気付いたらしく、不思議そうに見つめている。


「前世の頃から夜型でな……何はともあれこれで本調子を取り戻せた。では、早速本題に入ろう」


「分かりました」


「あ、ちょっと待って!一つ質問していい?」


 本題に入る前に、唐突にトトさんが手を挙げた。


「何で星屑くんは……」


「私の名前は『かき』だ。これからは名前で呼んでくれると私としては助かる」


「何で垣くんはここまであたし達に協力してくれるの?カルちゃんが呪い解いてくれたとは言え、あまりにもスムーズに進みすぎかなって……」


「……実は、朝に呪いを解いてくれた羊屋を見つめ、羊屋の記憶を全て覗かせて貰った」


「えっ!?垣くんカルちゃんにそんな事してたの!?」


「すまない、敵かどうか判別する為にどうしても見ておきたかったんだ。だが羊屋も記憶を覗かれている事に気付き、逆に俺が記憶を覗きやすいよう記憶の整理までしてくれたんだ」


「そんなフォルダ管理みたいな事できるんだ」


「で、記憶を覗いた結果……少なくとも悪い奴では無い事は分かった。自らの趣味の為にデスフラワーを潰そうとしている事も分かった。だから、俺も協力する事にした」


「ありがとうございます、垣さん」


「……では早速、デスフラワーに関する私が知りうる全ての情報を話すとしよう」




 そして鬼流さんはデスフラワーのアジトの場所から今までの悪行、更にはボスから部下への理不尽な暴力の数々を全て打ち明けた。




「は?少しでも要望通りにならないとすぐ暴力とか……それ、本当にボスなの?」


「そして、使えなくなった部下も最終的に魔物の餌に……ボスは味方にすらそのような酷い真似を……」


「機嫌が悪いと本当に酷くてな……俺も理不尽な嫌がらせを散々受けた」


 ボスの話をする垣さんは本当に辛そうだった。恐らく、想像以上に酷い嫌がらせをされてきたのだろう。


「ボスの名は『グラス』、前世が魔王だった男だ。奴は各地から無理矢理集めた魔物や人材の弱みにつけ込み、最後に奴隷魔法で目当ての人材を無理矢理支配下に置いて死ぬまでこき使う奴だ。中には喜んでボスに従う奴もいるがな」


「変わった人も居るんですね」


「特に、常にボスの隣にいる『ローズ』は厄介な人物だ。弱体化、奴隷化、魔物化……奴の呪いは様々な悪事に多く使われている」


「成る程……妹に付いていた呪いはローズって人がつけた物だったんだね?」


「そうだ。もし命令に従わなかったら妹はすぐに魔物に変え、死ぬよりも酷い扱い方をした末に亡骸をお前の前で無惨に捨ててやるとも言われた」


「そんな酷い事言われたの!?マジ許せない!!」


 トトさんは怒りをあらわにし、顔を赤くして怒っている。


「これ以上被害を出さない為にも、奴らは速やかに排除しなくては……だが、デスフラワーのアジト内はダンジョンになっている。約30階程ある塔の一つ一つの階に魔物が生息しており、中には魔物に変えられた人も混ざっている」


「30階!?」


「しかも元人間の魔物まで……」


「デスフラワーのボスは、きっと丹精込めてこのダンジョンを作ったんでしょうね。裏で力を蓄え、準備が出来たら表に出られるように……私ならアジトの場所さえ分かれば最上階まで一直線に向かえますが、折角ですしこの塔も全て攻略してしまいましょう」


「羊屋さん正気?こんなダルそうな塔を1から登る物好きなんて……あっ」


 そこまで言いかけて何かに気付いた士野足さん。確かに普通ならこんな塔を地道に攻略はしないが、私はこんな塔をこぞって登りたがる人材は既に知っている。


「大丈夫です。垣さんも散々酷い目に遭ったようですし、嫌がらせ目的でこの『デスフラワーの塔』を完全攻略してしまいましょう。ぺんぺん草も生えない綺麗な塔に変えてやりますよ」


「塔にぺんぺん草は生えないでしょ、ってマジレスしてる場合じゃないか」


「カルちゃん、目が本気だ……」


「当たり前です。垣さん、デスフラワーの関係者全員をアジト内に上手く集められたりしませんか?集まった所でアジトの所有権を上書きして乗っ取り、敵を誰1人逃げられなくしたいんです」


「殺意マシマシじゃん」


「羊屋は頼もしいな……ああ、敵なら一堂に集められるだろう。デスフラワーは数ヶ月おきに部下を集めて会議を開いていて、今から丁度1週間後に次の会議が開かれる予定なんだ」


「1週間後ですね、分かりました。それまでに塔を攻略してくれる人を集めてきます」


「えっ……たった1週間でどうやって塔を攻略する人を集め……あっ、わかった!カルちゃん、もしかして最近同盟を組んだチームレオをデスフラワーにぶつけるつもりでしょ?」


「勿論チームレオにも声を掛けます。更に、今現在我々が運営しているダンジョンを利用している冒険者達もデスフラワーの塔にけしかけます。正義感が有り余っている彼らならきっと、素晴らしい結果を出してくれると思います」


「成る程!」


「中にはデスフラワーを憎んでいる冒険者も居たし、きっと楽しい事になるだろうね!」


「……そんな事だろうと思ってた。でもそれいいね、面白いよ」


 トトさん含む仲間達も私の提案に納得している。


「ありがとう……では、1週間後に再びアジトの前で落ち合おう。最後に私に質問がある者はいるか?」


「じゃあ一つ僕から質問いいかな?」


 先輩は垣さんに向かってゆっくり手を挙げた。


「君はそれなりに賢そうだし強そうなのに、何であんなデスフラワーの罠に掛かったのかな?その気になれば相手を騙して妹を何とか元に戻したり出来そうなものなのにさ」


「……実は、俺の力が覚醒したのは奴隷魔法を掛けられた瞬間だったんだ。覚醒する前の私はお世辞にも賢い人間では無かった、そして力を得た頃には既に奴の奴隷となっていた……」


「それは気の毒に……」


 先輩は垣さんを気の毒そうに見つめている。


「あ、俺もいい?あの……記憶を覗いたって事は俺達の活動も知ったって事でしょ?この勇者育成の件は垣さん的にはどう思ってるの?」


「……あまり宜しい事では無いと思っている。だが、私の力では魔王は止められない。今の私に出来る事は、これ以上状況が悪くならないようただひたすら見守る事……」


「見るだけなんだ」


「……ひょっとして垣さん、勝てないから仕方無く羊屋さんの指示に従ってるとかじゃ……」


「江里牧先輩、誤解しないで頂きたい。デスフラワーを潰したい思いは私も同じだ。ただ私は時の流れに身を任せているだけで……羊屋が悪者で無い事は分かっているので、ただその力に従うまで……」


「垣さんそれ言い訳出来てなくね?」


 どうやら垣さん的には私の勇者育成については良く思っていないようだ。このまま放置したら、後々に面倒な事になるかもしれない。


「なら、この件が片付いたら垣さんも私達の仲間になりませんか?」


「何?」


「貴方のようなストッパーも私の仲間に必要だと思うんです。私達の仲間になって意見を述べれば、きっと最悪の状況は避けられるかもしれません」


「……その件についてはしっかり考えさせてくれ。また新しい情報が出たら追って報告する。今日はこれで解散する事にしよう」


「分かりました」


 私達は一旦垣さんと別れ、急いでデスフラワー討伐の為に動き始めた。チームレオに声を掛けたり、冒険者をけしかける為に細工をしたりと、とにかく慌ただしく動き回った。



 時間はあっという間に流れ……ついにデスフラワーとの決戦の日がやって来たのだった。

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