第28話 星屑兄、解放
「私……1人で行ってみます!」
「……分かった!本当にダメだったら遠慮なくあたしを頼ってね!」
「は、はいっ!」
トトさんに背中を押された私は、怯え緊張しながらも何とか教室に入った。
「ぐぎぎぎぎぎ……あーもう!全然動かない!これって時間そのものが止まってんのかなぁ……」
室内では、停止したクラスメイトを無理矢理引っ張り、どうにかして動かそうとする星屑さんの姿があった。
(大丈夫……!トトさんやその友達、上級生の江里牧先輩に、更には初対面だった士野足さんにも声掛けれた私なら、普通に話せる……!)
「あの……」
私は勇気を振り絞って星屑さんに声を掛けた。
「あっ!君は確か羊屋さん!ねえどうしよう!周りの人が急に止まっちゃったんだよ!!これはもう動ける私達だけで何とかするっきゃないかな!?羊屋さんって何か特技とかある!?」
「えっ?!えっ?!」
星屑さんの怒涛の台詞と迫力に私は思わず困惑し、頭が真っ白になってしまった。
「できれば補助系の特技があればいいんだけど……あっ、でもその前に武器を調達しなくちゃ!羊屋さん、とりあえず手分けして校内を回って使えそうなものかき集めようよ!」
「え、えっと……」
(しまった、あまりの衝撃に何話すのか忘れちゃった……!星屑さんの会話もよく聞こえなかった……えっと、まずは私も何か話さなくちゃ……!)
「あの……星屑さん。今日はいい天気ですね……」
「えっ?ああ……うん。今日は割といい天気になったよね」
「は、はい……良かった……です……」
「…………」
「…………」
会話が終わってしまった。
「(カルちゃん!呪い!)」
「(あっ!そうだった!)」
トトさんの声掛けで本来の目的を思い出した私は、思い切って星屑さんに掛かっている呪いの話を切り出す事にした。
「えっと……星屑さん、最近体におかしな所はありませんか?」
「えっ……?」
私の発言を聞いた途端、先程まであんなに喋っていた星屑さんが言葉を詰まらせた。
「例えば、足に何か妙な事になってたりとか……」
「!?」
更に細か指摘されて驚く星屑さん。どうやら心当たりがあるらしい。
「……分かるの?」
「はい。私、そういうのがなんとなく分かって……」
「えっ、もしかして霊感とかある?それで分かったとか?」
「そんな所です。あの、私ならそれを何とか出来るかもしれないので、もし宜しければその体の悪い所を教えて貰えませんか……?」
星屑さんは私の説得に対し、何やら深く考え込んでいたようだが、やがて顔を上げて私を真っ直ぐ見つめた。
「……分かった。羊屋さんならいい子だし、ある事無い事言って変な噂広めないだろうし、きっと大丈夫!私は羊屋さんを信用するよ!」
私を信用し、覚悟を決めた星屑さんはその場でしゃがみ、長い靴下をゆっくり下ろして私に見せた。
「これは……」
星屑さんの足に謎の模様が浮かび上がり、一部に羽毛のようなものが生えていた。
どうやらこの魔物化の呪いはじわじわと進行していくタイプのようだ。
「最近こんなのが足に出来て……これ、明らかに病気の類いじゃ無いなって思って、兄貴はこの事は知ってるけど親には中々言えなくて……呪いっぽいから、ちゃんと霊感ある所に見てもらおうかと思ったけど、お祓いって結構お金掛かるイメージあるでしょ?だから私のお小遣いじゃお祓い料払えないかなって……どう?何か分かる?」
「分かりました、これは随分とたちの悪い呪いですね。誰かが星屑さんを妬んで掛けたものだと思います」
「誰かが私を……?あっ、これって後でお代とか請求したりする……?」
「請求しないので安心して下さい。星屑さんの一大事なのに、そんな弱みにつけ込むような真似はしません」
「羊屋さん……!」
「……では早速お祓いをします。星屑さん、少し失礼します……」
私は星屑さんの足に手をかざし、力を込めた。すると星屑さんの足の模様が徐々に消えていき、やがてごく普通の足に変わった。生えていた謎の羽毛も抜け落ちて消えた。
「終わりました」
「おおーっ!私の足が元に戻った!しかもおまけに身体が軽い!気がする!!」
星屑さんは先程よりも更に元気になり、辺りをぐるぐると走り始めた。
「羊屋さんありがとう!お陰で力も戻ったかもしれない!ちょっと見てて!」
星屑さんは開いた窓に向かって手を伸ばし、手のひらから眩しい閃光弾を打ち出した。
閃光弾は物凄い勢いで飛んでいき、ある程度飛んだ所で爆発した。物凄い威力だ。
「あー良かった!これでこの時が止まった学園を何とか出来るかも!」
事前に調べた結果、彼女は前世持ちでは無い事が分かった。どうやらこの地球上で珍しく膨大な魔力を持って生まれ、自力で魔法を編み出して使用している非常に珍しい人間らしい。
「霊能力のある羊屋さんと組めばあっという間にこの時が止まった学校の謎を解き明かせるかもね!ちょっと不謹慎かもしれないけど、こんな感じの不思議な事件に巻き込まれてみたかったんだ〜!……あっ、でも探検の前にもう一つ羊屋さんに頼みたい事が……」
「もう一つ?」
「最近兄貴がずっと大人しいんだよ……朝も全然元気が無いし、いつもみたいに大きい声で挨拶しないし……私が呪い受けた日から兄貴もどうにもおかしくて……羊屋さんの力で兄貴もどうにかならないかな?」
「成る程……分かりました。では星屑さんのお兄さんの所に一緒に行きましょう」
「兄貴の所に行ってくれるってことは……もしかして兄貴を何とかしてくれるの!?ありがとー!なんていい子なんだ……!羊屋さん!もし今後、誰かに嫌がらせされたら遠慮なく私を頼ってね!絶対に力になるよ!」
「か、考えておきます……」
この人に頼んだら一般人にも遠慮無く魔法打ち込みそうで怖い。
そして、元気になった星屑さんに仲間の3人を会わせ、全員で簡単に自己紹介をした。
「凄い!こんなに無事な人が!ねえねえ、役割分担どうしよう!私がアタッカーなのは確定として……」
「ちょっと、今はそんな事より兄の方が最優先なんじゃないの?」
「あっ、そうだったね!じゃあ兄貴のいるクラスにレッツゴー!!」
「はい!」
「到着!」
「はい!」
行き先はすぐ隣なのであっという間に目的地についた。
1年3組の教室内を覗くと、本を読む姿勢で停止している星屑さんの兄の姿があった。見た目は妹と少し似ているが、それなりにガタイが良く知的に見えた。
「どうしよう!兄貴も停止したままだよ!!」
「落ち着いてください!私が問題を全て解決します!首元少し失礼します!」
「首?」
私は星屑兄の学生服の首元を開け、首に巻かれた銀色のチョーカーに手をかざした。
「えっ?何これ?アクセサリ?」
「このチョーカーから呪いの気配がします!はあっ!」
私は掛け声と共にチョーカーと兄に掛かっている奴隷の呪いを解いた。チョーカーがパチンと音を立てて外れ、そのまま落下して床に落ちる。
それと同時に星屑兄の時間停止の魔法も解除された。兄は困惑しながら周りにいる私達を見回している。
「……これは一体?」
「兄貴ー!!」
何が起こっているのか確認しようと立ち上がった兄に、星屑妹が思い切り飛びついた。
「気楽(きら)!一体どうしたんだ……!?」
「兄貴!私の呪い解けたよ!ほら見て!」
妹は長い靴下を下ろし、生足を兄に見せた。兄は綺麗になった足に驚いている。
「これは……!?」
「羊屋さんが直してくれたんだ!あと兄貴に付いてた呪いも消してくれたって!!」
「何っ!?」
星屑兄は私と首周りを確認し、最後に床に落ちたチョーカーをじっと見つめる。
「……本当だ、呪いが真っ二つにされている。まさかこれほどの呪いを解ける者か居たとは……」
兄はチョーカーを拾い上げ、鋭い目で私をじっと見つめる。彼の目からは敵意を一切感じない。
「羊屋、呪いを解いてくれて感謝する……」
「いえいえ、無事に解けて良かったです!」
「……」
私がお礼を述べている間も、彼は私から一切目を逸らさない。
「……羊屋、2人きりで話をしないか?」
星屑兄は個別での会話を提案してきた。この様子からして彼は、私の正体とデスフラワーに用がある事に気付いているようだ。
「えっ!?2人きり!?兄貴、もしかしてこんな状況で羊屋さん口説いてんの!?もー!そう言うのは事件を全部片付けた後でしょ!?ほら、羊屋さんも困惑してるでしょ!」
「話し合いですか?はい、是非。その会話に仲間もご一緒しても宜しいでしょうか?」
「構わない」
「分かりました。それでは……」
「ちょっ!?羊屋さんまで!?今は……」
私は星屑妹をその場で停止させた。大慌てで叫ぶ瞬間のまま止まっている。
「……羊屋、目的はデスフラワーだな?」
「何故そう思ったんですか?」
「何も知らない奴が『呪いが解かれたと術者に気付かれないよう細工しながら解呪する』とは考えにくい。気配では分からなかったが、妹の足をこの目で見て、ようやく妹に掛かっていた呪いが解けたと理解出来た」
兄は停止した妹を見つめながら話を続ける。
「それに、妹と私の呪いを解いて得をするのはデスフラワーに恨みがある奴だ。羊屋の様子からして、私の身に起こっていた状況も既に理解していたのだろうな」
「状況って……星屑さんが妹を人質にされてデスフラワーに脅されてた事?」
「士野足、その通りだ。やはりそこまで理解済みだったか」
「では、私が次に何を言うのかも既に理解していますね?」
「勿論だ。その問いに関する答えは一つ、デスフラワーを潰す為に私も協力しよう」
「ありがとうございます」
どうやら彼はそれなりに頭がいいようだ。すぐに状況を理解し、更に私達に力を貸すと約束してくれた。
「……とは言え、私は先程呪縛から解放されたばかり。それと朝があまり得意ではなくてな……放課後になったらもう一度、詳しく話し合いをしないか?そこでデスフラワーの情報も渡そう」
「いいですよ。では、今回はこのまま解散し、また放課後に……」
「ありがとう、恩に着る」
とりあえず今は解散する流れになった。のだが……
「そうだ、羊屋さん……折角ここで会ったんだし、この後屋上で僕と2人きりで会話でもどうかな?」
解散の空気の中、江里牧先輩は私の肩を軽く掴んで会話のお誘いをしてきた。
この姿の私と2人きりになれる状況はそうそう無い。なので、この状況を機に会話を試みようとしたのだろう。
「え、遠慮します……」
「先輩!これ以上カルちゃんに何かしたら承知しませんよ!」
「僕、そんな事言われたら悲しいなぁ……聞きたい事もあったけど、羊屋さんも多忙だろうし仕方無い、また後で聞く事にするよ。昼休み辺りにでも羊屋さんのクラスに寄ってみようかな?」
「ぐっ……!またそうやって変なちょっかい出して……!」
「……」
またいつものイタズラだ。だが、私もやられっぱなしで終わるわけには行かない。
「分かりました」
私は一瞬で魔王の姿に変わり、先輩をお姫様抱っこして屋上に瞬間移動した。
「えっ……?」
「江里牧さん、これで2人きりですよ」
先輩が求めているのは人間の姿の私だ。ここであえて魔王の姿になれば、先輩はガッカリするだろう。
「……残念だったね、こんな僕にお姫様抱っこした所でいい反応は返って来ないよ。こういうのはもっと小柄で可愛いお姫様にするものだよ?」
「私から見たら貴方も可憐なお嬢様ですよ?」
これに関しては仕返しと言うより、ただ正直な感想を述べただけだ。実際、先輩の顔はキリッとしているが可愛いらしい所もあるので嘘は一切無い。
きっと先輩は「それは僕のセリフなんだけどね……」なんて言いながら不貞腐れるだろうと私は予想していた。
だが、帰って来た反応は想定外のものだった。
「か、可憐だなんて……そんな……」
先輩は顔を赤らめ、恥ずかしそうに目を逸らしながら小さな声でそう返した。
だが先輩は途中でハッとして我に返ったかと思うと、瞬間移動で私の腕から姿を消してしまった。
「……私も帰るとしましょう」
この後は人間の姿で普通に学校生活を送った。そして放課後に再び先輩と会ったが、先輩は何事も無かったかのようにいつもの調子で私に話掛けてきたのだった。
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