第27話 デスフラワーの一員

「と、言うわけでこの星に拠点を置いているギルド『チームレオ』と同盟を組んできました」


「えっ?何ですかそれ?」


 数時間後、皆んなが集まる拠点に戻った私は、早速持ち帰った戦果について簡単に報告した。


「ダンジョンに印が付いていない謎の不審者を追ったら、冒険者を束ねているギルドを発見したんです。なのでそのギルドと交渉して仲良くなり、更に様々な情報提供もして頂きました。デスフラワーの関係者や、この地球で活動する冒険者の集まりについて等々……」


「へぇ……よく私達のような魔物と同盟を組んでくれましたね……」


「しかも結構重要そうな話。デスフラワーの事知れたのは凄い……流石魔王様、交渉上手。


 トトさんと士野足さんは手放しで私を褒めるが、ナイトメアは変な顔をしながら皆んなを見つめている。


「いや、あれは「今のギルドでは魔王に勝てないからとりあえず従うしかない」って感じだったよ。知能でスムーズに交渉したとかじゃなくてかなりゴリ押しだったよ?それに、ギルドは最終的に『アレ』欲しさで同盟組んだ感じだったし……」


「アレ?」


「さてと、デスフラワーに繋がる情報を聞いたので、次にやるべき事は決まりました。私のコレクションを減らそうとする厄介な組織、デスフラワーを潰しに行きます」


「人に迷惑掛けてる組織、見過ごせない。私も参加する」


 士野足さんは、前にデスフラワーによる犠牲者を出してしまった為か、いつになく真剣な面持ちだ。


『勿論僕だって参加しますよ!』


「僕もやりたい!」


「魔王様、あたしも参加します」


 メエさんやトトさん、先輩も参加してくれるらしい。


「皆さん、ありがとうございます」


「あたしは魔王様の為なら何だってやりますよ!所で……デスフラワーは今、何処で何をしているんでしょうか。探っても中々情報が出ない所からして、表立って活動したがらない慎重な組織だとは思いますが……」


『デスフラワーって恥ずかしがり屋なんですかね?』


「これについては情報屋との話し合いで詳細が判明しました。どうやらデスフラワーは「表に出てこない」のではなく、「出たくても出られない」ようです」


『出れない?』


「はい、この星に想像以上に冒険者が多すぎるせいで、デスフラワーが少しでも活動したらあっという間に冒険者達に袋叩きにされているそうで……」


「……何でこの地域って、冒険者がこんなに集まってんだろうねぇ……」


「寧ろ冒険者が飽和し、冒険者の所属するチーム同士でいざこざが発生している事態になっているそうで……今観測出来ているチームは『ブレイブ』『モンスターキラー』『魔法少女クラブ』『冒険部』……」


「そんなにあるの!?でもその集まりって本来は魔物倒すために集まったチームなんでしょ?本末転倒じゃん?」


「まあともかく……今判明しているのは、デスフラワーは思うように活動出来ず、冒険者に対抗する為の力を静かに蓄えている事くらいですね。関係者もある程度分かっているので、彼らと接触してアジトの場所を探りましょう」


「成る程……じゃあこれからデスフラワーの部下に殴り込みに行くんですね?あたしはいつでも行けますが……」


「いえ、明日辺りにデスフラワーの関係者に交渉します。上手くいけば、デスフラワーをもっと楽に潰せる上に私達の協力者が増えるかもしれません」




 そして次の日の朝……




「カルちゃんおはよー!」


「おはようございます」


 人間の姿でいつものように学校の通学路を歩く私達。


「(カルちゃん、本当に私達の通う学校にデスフラワーの関係者が居るの?)」


 トトさんは周りに誰も居ない事を確認しながら、小さな声で私に尋ねてきた。


「(はい、情報屋さんが見せてくれた関係者の写真には、私達の同級生『星屑鉄河(ほしくずてつが)』さんが写っていました)」


「(星屑……ああ、あの双子の男の方のね。へー、あの人も前世持ち?同じクラスなのに気付かなかったなぁ)」


「(事前に確認しましたが、どうやら前世は相当力のある魔物だったようで……ですが、今は誰かの能力によって力を制限され、更に彼の双子の妹にも奇妙な呪いが掛かっていました)」


「(呪い……?)」


「(はい、掛かった人を異形の魔物に変えてしまう厄介な呪いです。恐らくデスフラワーの関係者の誰かが掛けたんだと思います)」


「(……もしかして星屑兄、妹を人質に取られてる?)」


「(その可能性があります。なので、妹の呪いを解除して関係者に接触し、交渉をしてデスフラワーの情報を聞き出します。あわよくば仲間に引き入れられたら……とも考えています)」


「(それいいかも!もし仲間に出来たらデスフラワーをもっと楽に潰せるもんね!)」


「(もし交渉決裂し、最悪戦闘になってしまったら……その時は何とかして相手を倒し、無理矢理聞き出すまでです。学校に到着したらすぐに任務を開始します、時間を止めている間に2人と接触しましょう)」


「(分かった!)」




 そして学校に到着後、屋上に飛び上がってメエさんを除く他の仲間とも合流する。



「羊屋さんおはよう!今日も相変わらず可愛らしいね……」


「ひいぃ……」


 人の姿の江里牧先輩はどうも苦手だ。先輩の魂を掴んでるとはいえ、つい身構えてしまう。


「羊屋さん、そんなに怖がる必要は無いよ。それとも……屋上は風が強いから寒いのかな?おいで、僕が抱き締めてあげるよ」


「ひいっ!」


「先輩!後輩をいじめるのはやめて下さい!」


「夜上さん、僕は別に羊屋さんをいじめているわけじゃ無いよ。ただぎゅっとしたくなっただけさ」


「それをやめろって言ってんです!!」


 トトさんは私に代わって江里牧先輩を注意している。



「あっ、あの……お、おはよ……」


「士野足さん、おはようございます」


 耳が生えていないと自信が出ないのか、士野足さんは私から目を逸らしながら挨拶している。


「士野足くん、普段は他の人と普通に挨拶とか会話とかしてるよね?何でカルちゃん相手にだけそんなキョドるの?いつもみたいに普通にしてればいいのに」


「これは羊屋さんだからこそって言うか……とにかく、無理なものは無理だって……」


「ふーん……ま、いっか。えーっと、まずは時間を止めて妹の方の星屑さんに会いに行くんだっけ?」


「はい、では早速……」


 私は早速時を止めた。周りが一瞬にして静かになり、グラウンドを走る学生の動きも止まった。


「さて、早速双子に会いに行こっか!」


「はい!」



 こうして、私は勇み足で妹の星屑さんがいる教室へと移動した。


 教室の中には同級生に混ざって停止する星屑妹の姿が。見た目は何処かキリッとした活発な子で、長い髪をポニーテールにしている。


 私は魔法を操作して星屑妹の時間停止を解除した。


「でさ〜!この間なんか……あれ?ミラちゃん?……って周りも?皆んなどうしたの?ひょっとしてフラッシュモブ?」


 再び動き出した星屑さんは、停止した同級生に困惑している。


「(羊屋さん、声を掛けるなら今だよ)」


 先輩にそう促されるが……


「…………」


 当の私は、まるで時が止まったかのように硬直してしまった。


「……カルちゃん、どうしたの?」


「……なさい」


「……えっ?」


「ごめんなさい!!」


「カルちゃん!?って足速っ!?」


 私は全力疾走で廊下を駆け抜け、窓から這い上がって屋上へと避難した。


「カルちゃんどうしたの……?」


「無理です……!初対面の人との会話なんてハードルが高すぎます!」


「……カルちゃん、そう言えば極度の人見知りだったね……」


「で、でも……羊屋さんは前に、初対面の俺に声を掛けてたけど……」


「私に用がある人ならまだ大丈夫です!ですが、私の都合で声を掛けるのは初めてで……どう話し掛けたらいいか分からなくて……」


 それにあの時はトトちゃんの友達との会話によって謎の度胸が付いていたので、初対面の士野足さんにも話し掛ける事ができた。


 ここに来てまさかの人見知りが発生し、デスフラワー殲滅作戦は暗礁に乗り上げてしまったのだった……


「いやこれで諦めたらモヤモヤするって……」


「羊屋さん、そんなに怖がる事は無いよ。もし怖いなら僕もついて行って……」


「江里牧先輩……そんな事言って恩売って、後で何かしてもらおうとしてますよね?」


「そんな事はないよ、流石に後輩のピンチを放ってはおけないって思っただけさ」


「本当ですか……?」


「あ、あの……もし会話が無理そうなら、俺も付いてくから……えっと、皆んなで行けば怖くない、と思う……」


「士野足くんの言う通りだよカルちゃん!それに、時間は止まってるんだから私達以外に誰も見てないって、大丈夫だよ!」


「そ、そうですが……」


 時間は止まっているし、もし会話に失敗したら記憶を消してもう一度やり直せばいい。だが、どうしても足がすくんでしまう。


「……カルちゃんちょっとごめんね!」


「うわっ!?」


 トトさんはたじろぐ私をお姫様抱っこで持ち上げると、瞬間移動で1年生の教室前の廊下へと移動した。


「カルちゃん」


「は、はい……」


「もし1人で星屑さんの所に行けないなら、代わりにあたしが行くよ!」


「……えっ?」


「誰にだって嫌な事の1つくらいあるもんね!で、ある程度話して入りやすい雰囲気にするから、そこにカルちゃんが来ればいいよ」


「トトさん……」


「あたし達友達じゃん?本当に大変な事があったら遠慮なく頼ってよ!」


 そう言ってトトさんは満面の笑みで私を見つめた。この優しさは今の私にとって本当にありがたかった。


「……トトさん」


「なーに?」


「私……1人で行ってみます!」


 トトさんの寄り添いに勇気を貰った私は、思い切って1人で星屑さんに話し掛けに行く事にした。

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