第25話 チームレオ(前編)

「魔物ばら撒きのボスさん、俺を楽しませるくらいの強さだといいなぁ……」


 謎の男は不敵に微笑んだ。


 この男の名前はギル。彼はこの星にあるギルド『チームレオ』に所属する、トップの実力を持つ冒険者だ。


 このギルドに来る前のギルは、魔王討伐を掲げて各地を渡り歩いていた。魔物に怯える人を助けて周り、着実に力をつけた彼はついに魔王を討伐。更に異世界に飛んでは魔王退治を繰り返した『真の勇者』である。


(力が有り余り過ぎてライバルが全く居ないのも困りものかな?)


 一仕事終えたギルはそんな事を考えながら、装備を頑丈そうな服から私服に一瞬で変え、路地裏を後にする。


 だが、路地裏を出て人気の無い道を歩き始めた所で通信道具から着信が入った。ギルは再び道具の電源を入れた。


「所長?何か忘れ……」


『助けてくれ!悪魔だ!ギルド内に悪魔が現れた!』


 ギルが言い終える前に道具越しからギルド所長の悲痛な叫びが聞こえてきた。


「は?何言ってんの?そこって独自の異空間に作られてるから侵入者なんて……」


『言葉通りだ!今俺達のギルドは敵に襲われ、チームレオのメンバーが次々とやられている!さっき『竜殺しのドウ』がやられたのが見えた!奴らは化け物だ!』


「何、言ってんの……?」


 ギルは混乱した。そもそも所長がいるギルドの建物は関係者以外入れないはずだ。それ以前に、ギルド内にはその辺の冒険者より強い強豪が沢山居る、竜殺しのドウだってそんな簡単にやられる奴では無い。


 

『話は終わりましたか?』


 ギルが混乱していると、道具の向こうから聞き覚えの無い謎の声が。


『ああっ!?お前何で此処に来れ……』


 所長が喋り終える前にガシャンと何かが壊れる音がして、所長の声が途絶えてしまった。


「所長……?所長!?大丈夫ですか!?」


『所長なら無事です』


 道具から再び謎の声。妙に透き通った綺麗な声だ。


「おいお前!所長に何をした!」


『少し大人しくするよう説得しただけです。状況が気になるなら貴方もギルドに来てみては?』



「は……?」



 道具越しの人物がそう告げた途端、ギルはいつの間にかギルドの建物の中に立っていた。一瞬だった。


「な、なんだよコレ……」


 ギルドの広い施設内は見るも無惨な姿に変わっていた。あんなに綺麗にされていた壁や床は割れて汚れ、カウンターや椅子は原型を留めない程にバラバラだ。


 しかも、壁際にはボロボロになった冒険者達が転がっている。


「……あっ!ドウ!」


 ふと、視界の隅に見慣れた鎧の女性が映った。鎧も武器も体もボロボロだが、致命傷にまでは至ってないらしい。


「うぅ……ギル?来たのか……?」


「大丈夫か!?誰にやられた!?」


「……逃げろ」


「は……?」


「あれは……無理だ……」


 あの常に厳しくも逞しいドウが、ギルに逃げろと言った。ギルの次に強いあのドウが弱音を吐くなんてあり得ない。


「今、無理だって……俺に逃げろって……そう言ったのか……?」


「……あれは、力でどうにか出来るような……相手じゃない……」


「何言ってんだよ!そんな弱音、あんたらしくないって……!」


 ギルは必死になってドウを回復魔法で治療するが、その間もドウは逃げろとうわ言のように繰り返していた。




「しっつれーい!お取り込み中の所悪いね!」




 そんな所に突然、ピエロのような格好をした大きな人型の魔物が現れた。


「……!」


「あははは!魔王さまが面白い所に連れてってくれるって言うからのこのこ付いてったらさぁ、こーんな楽しい場所に連れて来られるなんて!此処ってまるで遊園地みたいだよね!」


「……お前、ナイトメアだな……?」


「おっ、あったりー!自己紹介の手間が省けたね!それよりも見て見て!此処で転がってるヤツらはほとんど僕が片したんだよ!凄いでしょ!」


「!?」


 ギルは装備を戦闘服に変え、武器を構えてナイトメアを睨んだ。


「仲間が心配?でも安心して!魔王さまが「人間は生かして返す」って言うから致命傷は避けて倒したよ!君の仲間は皆んな生きてる!抵抗しない子はそっとしたけど、暴れる子はみーんな虫の息!さっきのやる気いっぱいの元気な姿はどこ行ったんだろーね!あっははは!!」


 ナイトメアはハンマーを振り回しながら楽しそうに喋り続ける。


「でも、ギルドの冒険者はもう残り僅か、次呼び寄せた子で最後だってさ」


「呼び寄せるだって……?」


 ギルがそう呟いた所で、ギルの前に冒険者が3人現れた。このギルドにに所属している剣士、魔術師、ガンマンだ。


「どこだここ……って、あれ?此処ってギルド……?」


「建物もみんなもボロボロじゃん!?」


「2人とも落ち着いて。ギルさん、これは一体……」


 ガンマンと魔術師の男性2人が驚き戸惑う中、剣士の女性は2人を落ち着かせながら冷静に質問する。


「話は後ね、とりあえず俺らであのナイトメアを片付けるよ!」


「了解」


 ギルの指示に剣士含む冒険者達も同意する。


「おー!まるで主人公みたいでカッコイー!」


「君、随分と余裕だね!」


 魔術師は雷魔法を発動させ、鋭い雷をナイトメアに何発も飛ばした。ガンマンも無言のまま両手に構えた銃から弾丸を何発も撃ち出す。


「どこ狙ってんの?」


「!?」


 だが、ナイトメアが冒険者の前から姿を消し、魔導具を構える魔術師の真正面に急に現れた。


「君カワイーね!思わず顔面を握りつぶす所だったよ!」


「ひっ……来るな!!こっちに来るなぁ!!」


 ナイトメアに見つめられた魔術師は異常に怯え出し、金切り声を上げて敵味方構わず強力な魔法を放って攻撃し始めた。


「しっつれーい!」


「がはっ!?」


 間髪入れずにナイトメアはガンマンの背後に移動し、ガンマンの背中に思い切りキックをかました。


 更にガンマンが飛んだ先から物凄い勢いで飛んでくるハンマーが現れた。だが、ハンマーがガンマンにぶつかる寸前でギルが間に割って入り、斬撃波でハンマーを受け止めた。


「レレイ、ごめん!」


 剣士は暴走する魔術師を魔法で気絶させ、急いで状態異常を治してから無理矢理叩き起こした。


「レレイ、大丈夫?」


「……あっ、あああ……」


 だが魔術師はまだ不安定なままだ。これではまともに戦えそうにない。


「ほらほら!もっと果敢に攻め込まなきゃ!」


「ぐっ……!?」


 剣士は真横から現れたナイトメアの攻撃を受け止めるが、魔法で強化した剣士の腕よりナイトメアの腕力の方が遥かに強く、あっという間に押し負けてしまった。剣士は後方に吹き飛び、弾かれた剣が壁に突き刺さる。


「さてと、後は君だけだね!」


 ナイトメアはくるりと振り返ってギルを見つめた。


「君、本当にこのギルドで1番強いの?さっきからまともに攻撃してこないし、反応も遅いし……なんか拍子抜けしちゃったな〜」


「……」


 ギルはナイトメアの愚痴に何も言わずに黙り込む。


「……君、何してんの?」


 ただ黙りこくるギルに異常を感じたナイトメアは、先程の楽しそうな雰囲気から一変して真面目になる。ハンマーを構え、いつでもギルに飛び掛かれるよう準備している。


「え?ナイトメアにバレないようにコレ作ってたの」


 そう言ってギルは左手を大袈裟に掲げてナイトメアに見せつけた。手のひらには魔法の輪が浮かんでいる。


「げっ!?それは……!?」


 ナイトメアはその光の輪に思わず目を見開いた。これは光の輪に触れた仲間を状態異常含めて完全に回復させる、回復の最大級魔法だ。


「何で俺がまともに攻撃しなかったか分かる?ギルドの皆んなを起こす為にこれ作ってたから」


 ギルはナイトメアの猛攻を防ぎつつ、人知れず最大級の回復魔法を頭の中で詠唱していたのだった。


「『天の輪』……!ギルさん、いつの間にそんな魔法を……」


「ゴメン、回復魔法はあまり得意じゃないから時間掛かった」


「うわっ!マズい!そんなの使われたら……!」


 ナイトメアは慌ててギルを止めようとするが時既に遅し。


「『広がれ、天の輪!』」


 ギルが最後の節を唱えた瞬間、手の中で輝く光の輪が周囲に広がった。光の輪は辺りに転がる冒険者達に触れ、傷付いた身体を完全に癒していく。


「あ……身体が軽い……!」


「腕が治ってる……!これならまだ戦える!!」


 周りの冒険者が次々と起き上がり、武器を構えて戦闘体制になっていく。中には完全に回復した『竜殺しのドウ』の姿もあった。


「ドウも治ったんだ。これで治らなかったらどうしようかと思った」


「助かった。先程は弱音を吐いてしまい申し訳無い」


「いいって、謝罪はナイトメア潰した後で聞くから」


「分かった。あ、そうだ。魔力回復にこれを」


「ありがと」


 ギルはドウから渡された薬を受け取って飲み干した。


「げっ……魔力まで回復された……」


「よし、結構戻った」


 ギルはナイトメアを睨みつけながら剣を構えた。


「あ、あわわ……なんてこった……まさか全員復活するなんて……個別に戦ってたから余裕だったのに、いっぺんに来られたら……」


「余裕綽々で戦った仇が此処にきて帰ってきてどんな気持ち?さ、反撃開始!」


 ギルの合図と共に冒険者はナイトメアに飛びかかった。冒険者は全員完全回復し、ギルも魔力が回復している。ナイトメアにとって、まさに絶対絶命の大ピンチだ。


「……」


 だが、こんな状況であるにも関わらずナイトメアは、口端を僅かに吊り上げながら冒険者達を見つめていたのだった。

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