第24話 集まる冒険者達

『ありがと!なんて良い人達なんだ……!協力してもらうからにはボクも全力で手助けするからね!ヨロシク!』


 キュウはとびきりの笑顔で冒険者達を歓迎した。


『あっ、そうだ!今から村の施設を案内するよ!ついて来て!』



 キュウは冒険者4人を引き連れ、村の中を歩き始めた。



 最初に訪れたのは、赤い屋根のそこそこ大きなお店だ。


『此処は道具と工房のお店!道具は勿論、武器や防具も買う事が出来るよ!ダンジョンで拾った物も此処で売る事が出来るよ!』


『あらいらっしゃい。キュウちゃん、ひょっとしてその人達は冒険者かしら?』


 大きなお店の外側にあるカウンターから、山羊系の獣人女性が顔を出して挨拶した。


『うん!ついにこの島にも冒険者が来たんだ!今は村を案内中だからまた後でね!』



 キュウは楽しそうに歩いて道具屋を後にし、次はお洒落なお店に移動した。



『お次は食堂『木の実』だよ!村の外やダンジョンで獲った食材をふんだんに使用した美味しい料理が楽しめるよ!』


「村の外……?」


『あっ、そうそう……あっちの大きな道を歩いていくと広い場所に出るよ!草原や森、遠くには山が見える、まさに大自然って感じの場所なんだ!素材が沢山あるけど、ここにも魔物は出てくるから注意してね!』


 このフィールドワークが出来る空間は、ダンジョンの階に使用出来る部屋を全て並行に繋げ、広大なフィールドにしたものらしい。手前から奥に進むにつれて敵も強くなる、自由度の高いダンジョンとの事だ。


「楽しそうですね!行ってみたいなぁ……」


『この案内が終わったら行ってみてよ!魔物は少ないし楽しく歩けるから、初めての人ならまずは此処に行くべきだね!ボクもオススメだよ!そうそう、後はあの緑の屋根のお店が回復屋さん。あそこで働いてるお姉さんから回復をしてもらうと、たった数秒で一睡分出来るし体力も回復出来るんだ!』


「へぇ〜そこで回復していけば一日中動き回れるって事だね」


「此処に来たら真っ先に行くべきかもしれないな……」


 あの回復屋は変装したドリームサキュバスが運営している。人間を深く眠らせて回復させる回復魔法を使用して冒険者を癒してくれる施設だ。


『あの一際立派な建物は道場、ここで師匠から色んな技を教えて貰えるけど……あそこはまだ準備中なんだ。師匠がまだ本調子じゃないみたいで……』


 此処で言う師匠は、この始まり村のダンジョンボス『ソルト』さんだ。もう少し力をつけて成長したら人前に出す予定だ。


『で、アレがアクセサリー屋さん。あっちがギルドを模して作られた、依頼を受けれて素材も売れて食事も出来る食事処!……案内はこんな感じかな?』


「ありがとう、助かった。そうだ、キュウ」


『なーに?』


「此処に俺の仲間も呼んでもいいか?最近、俺達の住む土地に魔物が現れるようになってな……今後何かあった時の為にも、少しでも仲間を強くしたいんだ」


『うん!大歓迎だよ!是非ともキミ達の仲間にも、この村の事を宣伝して欲しいな!』


「ありがとう。えっと、初心者はまず村の外に行くのが1番だったな……皆んな、まずは初心に帰って外の探索をするぞ」


「「「はいっ!」」」


 こうして冒険者達は、意気揚々と外を探索して前世の感覚を取り戻しつつ、楽しく素材集めをしたり魔物退治をしたのだった。


 皆んなは学校が始まる前の朝には退散し、この場から姿を消した。




 約1週間後……




「すいませーん!回復お願いしまーす!」


『はーい、一回硬貨一枚ね〜』


「おばさん!この素材買い取って!」


『あらあら、また随分と沢山持って来たわね!』


 夜のダンジョン内は、地球から来た冒険者で大賑わいだった。こんなに前世持ちがいたのかと驚く程に、そこそこの数の人間が歩き回っている。




「大成功ですね」


 そんな中、今日も私達は拠点に集まってダンジョンの様子を眺めていた。


「ゲームみたいで、見てて楽しい」


 士野足さんは何やら楽しそうにしながら、携帯タブレットに映る冒険者を眺めていた。


「いや〜!冒険者が集めた素材の一部がこっちにも流れるのいいよね〜!向こうも楽しめてこっちも潤う、まさにギブアンドテイクって感じ?しかも村の住民が聞いた冒険者の話も横流ししてくれるんでしょ?超面白いよね!」


「うん。面白いし順調だけど、また新たな課題も出て来た」


 士野足さんは楽しそうにしている先輩から目を逸らし、私に顔を向けた。


「基本、ゲームには最終目標がある。魔王を倒すとか、強大な敵を倒すとか……とにかくあの冒険者にもはっきりとした敵が必要かも。それでないといつかこの空間にも飽きるかも」


「成る程……確かに、今の彼らはデスフラワーや魔物を蒔く私達の為にも力を蓄えている状況でしたね。でも、デスフラワーはあまり表立って活動してないようですし、私達がやっている妖魔ばら撒きも地味ですからね……もう少し妖魔を改良する余地がありそうです」


「ゲームや漫画みたいな分かりやすい強敵もいいかも」


 私はモニターを眺めながら士野足さんと言葉を交わす。と、私はダンジョン内にとあるものを発見した。


「先輩、突然で申し訳無いのですが……もし今、手が空いているのであれば私の仕事を手伝ってみますか?」


「それって楽しい事〜?」


「ええ。少々愉快な物を見つけたので、ちょっかいを掛けに行くんです」


「へぇ〜!じゃあ行く!」


「分かりました。皆さん、私達は少し席を外します。ナイトメア、行きますよ」


「はーい!」


 私は先輩と一緒に拠点から姿を消した。




 ……そんなダンジョン内をフラフラうろつく1人の男。彼はそこそこ頑丈そうな衣類に身を包み、辺りを見回しながら何かを探しているようだった。


 やがて男はダンジョンから退散し、薄暗い路地の裏へと移動した。そこで通信道具を起動し、何処かと連絡を取り始めた。


「戻りました」


『おおギル、最近前世持ちが行くと言う亜空間に飛べたのか』


 道具越しからしわがれた、何処か頼もしい男の声が聞こえる。


「あそこに行く人は皆んな印をつけられてたから、俺も印を偽造してみたんです。そしたら結構楽に行き来出来ましたよ」


『流石はギル、と言った所か。どうだ、あの空間にデスフラワーの関係者らしき人物は居たか?』


「ぜーんぜん。よわよわ冒険者ばっかりで変な奴らは全然居ないですね」


『そうか……』


「ってかさ、此処ってデスフラワーが作った施設にしては良心的過ぎるんだよね。あいつらが関係してるならもっと殺伐としてるだろうし……多分、魔物ばら撒いてる別の組織の奴らだと思うんですよね」


『最近新しく現れたという組織か。ならあの空間をもっと詳しく調べる必要があるな』


「所長、もし組織のボスが現れたら真っ先に潰してもいいかな?」


『勿論構わん、情報屋によれば相手は魔物との事だからな。まあ、異世界を渡り歩き、数々の魔王を討伐してきたお前ならボスもあっという間だろうな』


「まあ、今は楽しく泳がせてあげますよ……楽しみは最後に取っとくタイプなんでね」


『……被害が出る前にはしっかり倒すんだぞ、いいな!』


「はーい」


 男は通話道具の電源を切り、暫くの間道具を見つめ続けた。


「魔物ばら撒きのボスさん、俺を楽しませるくらいの強さだといいなぁ……」


 謎の男は不敵に微笑んだ。

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