第23話 キュウと始まり村

 ダンジョン『初心者の森』にて、ゴブリンの群れに囲まれて絶体絶命大ピンチの元勇者達。


「とりあえず一点突破で行くぞ!俺の後について来い!」


「無理です!動けません!!」


「今更何言ってんのさ!動かなかったら此処で死ぬだけだよ!」


「あーもう!何でこんな雑魚助なんか仲間にしちゃったの!?てんで役に立たないじゃん!」


 こんな時まで言い争いをする冒険者達、すると……


『グェ……』


『ギィ……?』


 周りのゴブリン達の動きが急に鈍り出した。そして群れの1匹が倒れたのを皮切りに、次々とゴブリンが地面に倒れていく。


「な、何だこれ……?」


「……ゴブリン、寝てる?」


 冒険者達が不思議そうにゴブリンを眺めていると、木の上から1人の猫系獣人の女性が飛び降りてきた。全身迷彩模様で、背中にはリュックを背負っている。


『間に合って良かった……!』


「うわっ!?獣人!?」


「お前は……」


『(シーッ……キミたち、とりあえずボクの後について来て!)』


「(これ全部お前がやったのか?)」


「(何処に行く気?)」


『(話は後だよ!近くにボク達が暮らす村があるからそこまで避難するんだ!さあ早く!)』



 冒険者達は何も分からないまま謎の獣人の後についていく。


 森のダンジョンを抜けた先に続く道を歩き、やがて1つの小さな村に到着した。


『はいとうちゃーく!此処は始まり村だよ!』


 そこそこの大きさの土地に、ファンタジーな雰囲気のお店が幾つか建っている不思議な場所。


 此処は士野足さんが作成したダンジョンの一部『始まり村』だ。


 此処では道具の売買や、集めた素材から武器や防具を作る工房、更には料理を食べられる休憩場や回復施設まである。つまり此処は冒険者の拠点となるよう設計された場所なのだ。


 この拠点から他のダンジョンに行ければ色々と好都合だろうと思い、全てのダンジョンと行き来出来るよう道を繋いだのだった。


『あっ、自己紹介がまだだったね!ボクの名前はキュウ!ダンジョン内を歩き回って素材を拾って生活してる一般人だよ!』


「キュウ……」


「人……?」


『二足歩行で言葉も喋るし何処からどう見ても人間でしょ。ってか、君達さっきから元気無いね……あっ、キミ達もしかして森でマンドラゴラ踏んだ?この回復薬飲みなよ、だいぶ楽になるから』


 キュウは背負っているリュックから液体が入った瓶を取り出し、冒険者達の前に差し出した。


「…………」


『飲まないの?……もしかして毒入ってるかどうか疑ってたりする?もー!将来のお得意様になるかもしれない冒険者達にそんなもの渡すわけ無いでしょ!ちょっと見てて!』


 キュウは瓶の蓋を開けると、中の液体を一気に飲み干した。


『はい!これで信用した?』


「「「……」」」


 リーダーを除く3名はまだキュウを信じ切れていないようだ。


「……俺に1つくれないか」


『はいはい!どーぞ!』


 そんな中、覚悟を決めたリーダーはキュウから回復薬を受け取り、瓶の中の液体を少し口に含んだ。


「懐かしい……俺が前世の頃に飲んだ回復薬と似た味だ。この薬は大丈夫そうだ」


 リーダーが安全性を確かめると、他のメンバーも無言でキュウから回復薬を受け取り、中身を飲んだ。



「……ゴメンナサイ……」



 暫くの沈黙の後、ピンク髪の子が仲間に頭を下げて謝った。回復薬が効いたのか、先程の余裕の無さはすっかり消えて少し素直になっているようだ。


「いや、僕もさっきは切れて冷静な判断出来てなかった……皆んな、ごめんなさい」


「いや、あの……さっきはあんな大変な時に取り乱して、本当に申し訳ございませんでした……」


 それに続いて優しそうな子も謝罪し、初心者の子も謝罪。


「……皆んな、本当に済まなかった。あの時は突然の状況に碌に指示を出せなかった。次からはしっかり指導する」


 最後にリーダーも謝罪。結果、チーム内の空気がだいぶ良くなった。


『あー良かった!みんな仲直り出来たみたいだね!』


「マンドラゴラの悲鳴でどうかしてたみたいだ。所で……キュウ……だったか?」


『うん!』


「キュウ、此処は一体何処なんだ?」


『此処?いやね、ボク達は遠くから船でこの土地にやって来た移民なんだよね。此処って近くに色んなダンジョンがあるから、そこで素材集めて暮らせば良い感じじゃん?って思って』


 とりあえず此処は、異世界にあるダンジョンだらけの島という設定にしたらしい。


「色んなダンジョン……?まさか、さっきの森もダンジョン?他にもダンジョンがあるの?」


『うん!でも今は『初心者の森』しか入れないようにしてるんだよね。他のダンジョンは通行止め。他のダンジョンがあまりにも奇妙で危険だからね』


「は?そもそも何でこの地球にダンジョンがあるわけ?それとも此処って異世界?」


『チキュウ?イセカイ?よく分かんないけど、ボク達は船使ってこの島にやって来たよ。キミ達も船使って此処に来たの?』


「……どうなってんだ?」


 突然の訳の分からない状況に戸惑う冒険者4名。


『ん〜……ん?まさか……ボクが『船に乗って冒険者の1人でも来てくれないかな〜』なんて呑気に考えたせいで、キミ達をこの島に呼び寄せてしまったんじゃ……』


「んな訳無いじゃん……バカなの?」


『バカって何さ!そうかもしれないじゃん!ねえ、試しに今から『家に帰りたいな〜』って願ってくれない?もし帰れたら『またダンジョン行きたいな〜』って考えて此処に戻って来てみてよ!』


「いや、そんな簡単に帰れたら……あれ?新人は何処行ったの?」


「ん?新入りなら先程まで俺の隣に……居ない?」


 会話の途中で突然初心者の子が消えた。仲間が周りをキョロキョロと見回していると……



「うおっ!?」



 先程まで消えていた初心者の子が再びこの場に姿を現した。皆んなの前に急にパッと現れた。


「ちょっ!?急に何!?何処行ってたの!?」


「帰れました!帰りたいって思ってたらいつの間にか家に居ました!」


「……マジ?」


「マジです!またダンジョン行きたいって思ったら此処に戻って来れました!」


「そんなバカな……」


 これも印による操作だ。ダンジョンに行きたい、家に帰りたいと願った時に転移魔法を使わせる設定にした事で、いつでも世界を行き来出来るようにした。


 これにより、印が付いた冒険者はいつでもこのダンジョンに入れるようになった訳だ。


『やっぱり!ボクの予想通りだね!良かった〜、此処に冒険者が寄って来なかったらどうしようかと思った!無事に行き来出来るようになったってワケで、キミ達冒険者に1つお願いがあるんだけど……いいかな?』


「……何だ?」


『あのね!キミ達にもこの島のダンジョンを攻略して欲しいんだ!で、ダンジョンで手に入れた素材やアイテムをこの村に売ったりしてくれると村のみんなも助かるなぁ〜なんて思ったり……』


「成る程、つまりこの村を発展させる為にもダンジョンの素材が色々欲しい、と言う事だな?」


『そうそう!素材が増えれば、この村のお店にもっと色んなアイテムを置けるようになるし、もっと色んな設備も作れるようになると思うんだよね!冒険者達にもプラスだと思うんだけど……どう?』


「ふーん……ま、わたしは別にダンジョンに行ってもいいけどね〜?力も付けたいし」


「僕も賛成かな。デスフラワーのボスらしき魔王を仕留め損なった所だったし、今の僕は前世の頃よりも弱い事がよく分かったしさ」


「えっと……私も成長したいのでダンジョン行きたいです!」

 

「そうだな。デスフラワーの為にも、少しでも力を付けたい所だったんだ。俺達もキュウの村おこしに協力しよう」


『ありがと!なんて良い人達なんだ……!協力してもらうからにはボクも全力で手助けするからね!ヨロシク!』

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