第22話 ダンジョン『初心者の森』完成

 次の日の朝から、本格的にダンジョン作成に取り掛かった。



 ダンジョンの素でダンジョンを作り出し、出てきた本に情報を書き込んでダンジョン内を操作し、理想のダンジョンに近付けていく。


 途中で休憩を挟みつつ作業を続け、午後になって大体のダンジョンの形が出来てきたようだ。



 そして今は3時の休憩中。ファミレス風の部屋に集まった皆んなはお菓子とジュースを片手に、作業の途中経過を話し合っていた。


「私のダンジョンはほぼ完成」


「イアちゃん速いね〜!僕はインテリアを飾るのに夢中でギミックとかその他もろもろが全然出来てないよ!」


『ボクも殆ど完成しましたよ!後は魔物が湧くのを待つだけです!』


「魔物……そうだ、ダンジョンに魔物を作る際は『妖魔の種』をご使用下さい。この種をダンジョンの中で蒔くと、そのダンジョンに因んだ意思のない敵を沢山作る事が出来るんですよ」


「魔王様、魔物はダンジョンに自然発生しないの?」


 士野足さんはクッキー片手に、不思議そうに尋ねてきた。


「はい。この世界には魔物が生まれる為の特殊なマナが空中に漂ってないので、種を使って魔物を発生させる必要があるんです」


「じゃあ妖魔の種も補充しとかないとだね!魔王さま!後で妖魔の種ちょーだい!!」


「ああ、それなら店の奥にある妖魔すくいで補充するといいですよ。ほら、あちらの白い容器が見えますか?」


 私は部屋の隅に見える白い容器を指差した。


「あれかな?えっと……妖魔の種、すくい放題?」


 [妖魔の種、すくい放題]と書かれたプラカードが付いた大きな容器の中を覗くと、中には妖魔の種が山ほど入っている。近くには種をすくう為のスコップが置かれている。


「私達が普段使用している、妖魔の種と同じ物があの箱の中に沢山入っています。これからダンジョンで沢山使用すると思い、あのようなものをご用意しました」


「こんなの勇者が見たら泡吹いて失神するでしょ」


「……これ、世界中にばら撒いたら世界終わるんじゃ……」


「イア!滅多な事言うんじゃないよ!大根頭!あんたも何か言ったら……」


『さてと、ボクはそろそろダンジョン作成に戻りますね!では失礼しまーす!!』


「なんだいあの大根頭の態度は……まさか、本当にこの種で滅ぼした国があるとか……」


「いや、そんな筈は……」


「「…………」」


 トトさんと士野足さんは妖魔の種を見つめたまま無言になってしまった。


「あの、そんな物騒な真似はしませんから……そんな無言にならなくても……」


 この後も、色々とありながらも平日と休日の暇な時間にダンジョン作成を続けていき……




『出来たーっ!!』


 数日後、ついにメエさんのダンジョンが完成した。細かい所はおいおい修正していくらしい。


「とりあえず簡単にお店部分を作った」


 士野足さんも出入り口付近にある村を完成させ、一部のフロアだけ人が入れるようにしたらしい。


 トトさんと先輩のダンジョンはまだ完成してないが、後で完成させ、冒険者達がダンジョンに慣れてきた頃に新ダンジョンとして追加しようという流れになった。


『早速此処に誰か放り込みましょう!!』


「ですね。では……」


「あーーーーーーっ!!」


 私が人を呼ぼうとしたその時、突然先輩が叫び出した。


「あの時の勇者!!僕すっかり忘れてた!!」


「あっ、インテリア……」


 ……どうやら2人は、前に私が捉えた勇者達を今になって思い出したようだ。


「どうしよう!魔王さま!あの勇者達ってまだ飾りっぱ!?」


「いや、流石に家に返しましたよ……」


(1日だけ放置してしまいましたが……)


「良かった〜!じゃあ昨日の勇者達をお迎えしに行く?こんにちはー!ダンジョン作ったから遊びにおいでよ!って感じで」


「いえ、大丈夫です。彼らから直接ダンジョンに出向いてもらいますよ。返す前に彼らには、他の人同様に印を付けましたから」


「印?あれはあたし達の正体を見抜かれないようにする為の物ですよね?」


「それ以外にも、印を付けた人を特定の場所に自然に誘導する事も出来ます。試しに彼らを、メエさんの作った『初心者の森』のダンジョンに誘導しましょう」


「えっ、あれって人を操作する事が出来んの!?凄っ!!」


「ある程度なら自由に操作できます」


「流石魔王様……」


「メエさん、イアさん、ダンジョンの準備は整ってますか?」


『バッチリです!!』


「大丈夫」


「分かりました。では今から勇者達をお呼びします……」




 数十分後……




 メエさん作『初心者の森』に、前に私に襲ってきた4人の冒険者が集まった。


「何だ此処は……」


 リーダー格の男は、動揺しながら辺りを見回している。優しそうな子、ピンク髪の子、初心者の子も同様に周囲を観察している。




『おーっ!ボクのダンジョンに人が来ました!!』


 私達はその4人組を、ファミレス風の部屋にあるモニターで観察している。


「彼らを操作して無意識に転移魔法を使わせ、ダンジョンに来て頂きました」


「凄いですね……流石は魔王様……」


「もしダンジョンが上手く機能したら、冒険者達に『暇が出来た時にダンジョンに向かう』よう指示を入れれば勝手に集まるようになるでしょう」


「上手くいくといいな……」


 私達はモニターに映る、ダンジョン内を探索し始めた勇者達を見つめた。




 モニター越しの勇者達は、初心者の森を静かに歩いている。


「まさか俺達、異世界に飛んだんじゃ……」


「そんなまさか……」


 勇者達は、怪訝そうな顔をしながらダンジョン内を見回している。


「こ、怖い……」


 と、足元を碌に見ずに歩いていた初心者の子が、地面に埋まるマンドラゴラをぎゅっと踏んでしまった。



『キャーーー!!!!』



「ぎゃーーー!?!?」


「うわっ!?何だ!?」



 マンドラゴラのけたましい悲鳴に驚く勇者達、特に悲鳴をモロに喰らった初心者は完全に怯えてしまい、耳を塞ぎながらこの場から逃げ出した。


『キャーーーー!!』


『イヤーーーー!!』


『ぐぇーーーー!!』


「うわーーーーん!!」


 次々とマンドラゴラを踏み、真下からの叫び声をモロに喰らい続けて精神を削られた初心者の子はとうとう泣き出した。完全に戦意を失ってしまったらしい。


「待て!」


 ようやくリーダーが初心者に追いついた。咽び泣く初心者の肩を掴み、お互いの顔が見えるように向き直らせた。


「もう無理です!!家に帰らせて下さい!!


「落ち着け、今は冷静になれ」


 リーダーは初心者の精神を安定させようと言葉を続けるが、初心者は全く落ち着く様子が無い。


「めんどくさいなぁ……泣いてる暇があるなら武器取りなよ」


「はぁ……そもそも、リーダーが最初に異世界の歩き方とか色々と説明しなかったからこんな事になったんじゃないの?」


 マンドラゴラの悲鳴によりイライラしている優しそうな子とピンク髪の子が、初心者の子とリーダーにきつく当たる。チーム内に不穏な空気が流れる。



「……今回は完全に俺の采配不足が原因だ。皆んな、本当に申し訳ない」


「謝る暇があったらこの状況何とかしてよ!虫はいるし魔物の気配もするし、おまけに雑魚助は泣き出すし!やんなっちゃう!」


「お前が黙れよ!その煽り倒すクソみたいな性格のせいで何度もピンチになってる癖にさ!」


「おい、気持ちは分かるが今は……」


「リーダーは黙れよ!毎回毎回偉そうに口出しやがって!!」


 精神がギリギリの優しい子とピンク髪の子の口調が更にヒートアップし、ついに仲間割れが起こってしまった。



 こんな魔物だらけの森で大声出して騒げば、勿論魔物も寄ってくる。


『ギィ、ギィ』


「……あっ、ゴブリン……?」


  マンドラゴラの悲鳴と人の騒音により、数匹のゴブリンが勇者達に寄って来た。


「げっ……コイツら、まだ出てくるんだけど……」


「……囲まれたな」


 ゴブリンは周りの草むらや木の影からどんどん現れる。


「やば……これ物凄くヤバいやつじゃん……!」


「俺達に気付かれないよう、静かに寄って来たんだろうな……」


 遠くからどんどん現れるゴブリン、どうやら勇者達は完全にゴブリンの群れに囲まれてしまったらしい。




 そんな光景をモニター越しに見る私達は……


「あーあ、この人達チームワークめちゃくちゃじゃん?よくこれで魔王さま倒そうと思ったよね〜」


 先輩は呆れながらレモンスカッシュをストローで飲んでいる。だが、勇者を見る目は妙に楽しそうだ。


『うーん……もっと先まで進んでくれると思ったんですけどね……浅い階にしては難し過ぎましたかね?少し速いかもですけど、次のステップ進みますか?』


「……うん。じゃあこの勇者達に『助け』を出す」


 士野足さんは手に持った通信装置のボタンを押し、何処かに繋げて話し始めた。


「キュウ、そろそろあの冒険者達を助けてあげて」


『リョウカ〜イ!じゃあサクッと助けに行ってきます!』

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