第21話 施設内探索

 私は皆んなを追いかけて廊下の突き当たりにあるエレベーターに乗り、2階の『道具置き場』に移動した。


「うわー!!こんな良さそうな毛布をダダで持って行っていいの!?凄っ!!」


「このお菓子、美味しそう」


『あっ、このおもちゃ懐かしー!昔はよくこれで遊んだなぁ……』


 ショッピングモールそっくりの施設の中、皆んなは大喜びで品物を物色していた。


「ここ、まるでお店みたい」


「皆んなの溜まり場であり、遊び場を本気で作ったんです。私なら大体の物なら作れるので……」


「全部作ったの!?」


「このお菓子も魔王様手作り……?魔王様、手先器用……」


『その通りです!カル様は昔から物作りが大得意だったんですよ!』


 士野足さんの褒め言葉に、何故かメエさんが得意げになっている。


「因みに3階は食糧庫、4階は宴会場、最上階は大浴場になっています」


「大浴場!!!!」


 先輩はその場で大ジャンプし、棚からタオルを数枚取って来てエレベーターに突撃……する前にはっと我に返り、その場に留まった。


「いや、まずはダンジョンが先だよね……」


 先輩は珍しくしゅんとして、寂しそうにタオルを置いた。恐らく魂を握られている以上、下手な事したらまた魂を握り潰されると思ったのだろう。


「いえ、先輩方は先程異世界で暴れ回った後ですし、先にお風呂に入って大丈夫ですよ。魔物も一緒に入れるので是非」


「いいの!?やったー!!ってか、何で僕達をこんなに優遇してくれるの?何か目的とかあるでしょ」


「普段から私の趣味に付き合わせているお礼のようなものです、ご自由にお使い下さい。勿論、新人であるイアさんも此処を大いに利用して頂いて大丈夫ですよ」


「マジ……?こんな高待遇なら、僕なら喜んで魔王さまの部下になるんだけど?靴舐めよっか?」


「やめてください」


「魔王様素敵……一生付いてく……」


「イアさんはこの仕事が終わったら別の星に飛ぶんですよね?」


「将来の夢が異世界暮らしか魔王様の部下になるかでぐらついてる……とりあえず私もお風呂行っていい?」


「どうぞ、異世界探索お疲れ様です」


「おぅ……ありがとうございます……」


 士野足さんは何故か私を拝んだ後、タオルを何枚か持って先輩と一緒にエレベーターに入って行った。





「魔王様、ただいま戻りました」


 約1時間後、少し疲れた様子のトトさんがファミレスの拠点に戻って来た。


「トトさん、お帰りなさい」


「魔王様……あの、他の3人はどちらに……?」


「メエさんは道具置き場、残りの2人はお風呂に入ってます」


「お風呂?」


「実はこの拠点の最上階に大浴場があるんです。大きくてのんびり出来て、素晴らしい景色も拝めるいい所に出来たと自負しています」


「魔王様お風呂作ったんですか?」


「皆んなが楽しく騒げる所にしようと頑張りました。そうだ、トトさんも少しお疲れのようですしお風呂入りますか?」


「はい、折角なので……あの、魔王様……」


 トトさんは急にしおらしくなり、言いにくそうにしながらも何かを伝えようとしている。


「もし……もし宜しければですが、ご一緒にお風呂に……いや、何でもないです!!今のは忘れて下さい!!」


 途中で言い掛けた所でトトさんは首を振った。だが、今のが聞き間違いで無ければ私はお風呂に誘われたと言う訳だ。


 まさか学校で友達が出来た上に、その友達からお風呂のお誘いが来るとは夢にも思わなかった。


 友達とお風呂なんて、人見知りの私とは一生無縁の行事だと思っていたので、この提案を聞いた話は本当に嬉しかった。


「ご一緒にお風呂ですか?ええ、喜んで」


「えっ……あっ、ありがとうございます……!」


 私達は道具置き場からタオルを数枚持ってくると、トトさんと一緒に大浴場へと向かった。




 大浴場の階はゲームセンターや休憩施設も充実した場所だ。私達はお風呂に入る為に、道中にある休憩施設の横を通り過ぎる。


 その休憩施設にある小さな和室で、牛乳瓶を持った士野足さんとソルトさんがゆったり寛いでいた。今の士野足さんは簡易な浴衣を着用しており、猫耳も女装もしてなかった。


「士野足さん、湯加減はいかがでしたか?」


「ひっ!?まっ魔王様!?」


 士野足さんは風呂上がりですっかり油断していたのか、私の接近にその場で飛び上がって驚いた。声がひっくり返っている。


「……士野足、あんたさっきの性格は何処に置いて来たんだい」


「えっと……その……!」


 士野足さんは私達から目を逸らしながら慌てたかと思うと、すぐに土下座の姿勢を取った。


「……士野足さん?」


「すいません……この姿で魔王様と対面はまだ早すぎるって言うか、マジで無理と言うか……」


 先程の余裕は何処に行ったのだろうか。士野足さんはすっかり初対面の時の、物凄く緊張した喋り方に戻ってしまっていた。


「あの……お、お風呂ありがとうございます……」


「どういたしまして。これからもお気軽にご使用ください」


「はっ、はい……!!」


 士野足さんは私達が通り過ぎるまで、驚くソルトさんの前で土下座をし続けていた。




「おや?夜上さん達もお風呂に入るのかい?」


 脱衣所に近付くと、入れ違いで人間の姿になった先輩が出て来た。隣にはナイトメアのリリーさんもいる。


「お風呂は最高の一言に尽きるね。2人もゆっくり堪能していくといいよ」


 先輩達は私達に軽く手を振ると、上機嫌のまま歩いて寛ぎコーナーに向かっていった。




「さて、私達も……」


「魔王様!お先に失礼します!」


 私が脱衣所に入る前に、トトさんは物凄い速さで脱衣所に入って高速で着替え、タオルを巻いた姿で先に浴場に入って行った。トトさんはお風呂がそんなに楽しみなのだろうか。


(さて、私も……)


 私も同じように着替え、バスタオルを巻いて浴場へと向かった。


 人間の姿になって浴場に入り、近くにある洗い場で身体を洗ってからお風呂に近付いた。



「お待たせしました!」



 私は先にお風呂に入っていたトトさんに声を掛け、ゆっくり湯船に浸かった。



「…………」


 魔物姿のスタイルの良いトトさんは、人間の姿をした私を無言で見つめたまま固まっていた。


「(……まあ、普通はそっちか……)」


「えっ?トトさん何が言いましたか?」


「何でもないよ。ま、こっちも楽しいからいっか!」


 いつの間にかトトさんも人間の姿に変わり、その後は色んなお風呂に入ったり会話したりと、2人きりで入浴を楽しんだ。


 この後私達は疲れを取る為に、個別にあるホテル並みの豪華な仮眠室で眠りについた。トトさんと先輩は一人暮らし、私と士野足さんは特殊な家の都合で簡単にお泊まりが出来た。


 明日は休みなので、次の日の朝からダンジョン作成に取り掛かれるだろう。


(あれ?何か忘れてるような……)

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