第20話 ダンジョン作成の前に……
士野足さんから聞いたデスフラワーの話は、あまり良くないものだった。
「傷付いた仲間の魔物を他の魔物に倒させて力を……それは厄介ですね。何よりも品がありません」
「努力の結晶を取り上げる魔王さまも大概酷いとは思うけど、こっちは人間が無事だからなぁ」
「魔王様のやり方の方が遥かに良い。一度、魔物になった人を元に戻せた事はあるって風の噂で聞いたけど、その人間は組織に目を付けられてまた魔物にされたとも聞いた」
「それって知り合いから聞いたの?」
「ううん、盗み聞きした」
どうやら士野足さんは耳が良いようで、あちこちで囁かれる噂話も知っているらしい。
「しつこいなぁ、そんな1人をずっと狙うより別の人間探して次々と新しい魔物に……いや!何でもない!ウソウソ!」
先輩は、私からお仕置きされると思ったのかそれ以上言うのはやめたようだ。
「私、デスフラワーのアジトを探して回ったけど、どこに行っても、どの結界を覗いても発見出来なかった。デスフラワーの事は、他の冒険者やデスフラワーの下っ端の話でしか知らない」
「そうなると、私でも探すのが困難かもしれませんね……もしかして、士野足さんが結界を覗いて回っていたのはデスフラワーを探す為……でしょうか?」
「うん。私がデスフラワーの魔物を倒して以来、厄介に思われたのか一度も遭遇出来てないけど……それでもたまに、何処からともなく現れた喋る魔物が転生者を襲ったって話を聞くから、まだあの組織は解散してない筈……多分」
「そうでしたか……」
恐らくデスフラワーの関係者は、独自の異次元を住処としているのだろう。これは一度、デスフラワーの関係者と接触する必要がありそうだ。
(確か前に、魔物討伐の経験がある冒険者が居ましたね……もしかすると、魔物に変えられた人間だと知らずに討伐してしまった方も居るのでは……?)
「成る程!だから君は魔王さまのやる事に大賛成なんだね!力を取り上げたらもうデスフラワーと会う機会は無いだろうし、勇者達の力を上げれば被害も減るし!良い事だらけじゃん!」
だが、組織を元から絶たなくては被害は増える一方だ。
「ねーねーそんな事よりさ〜、イアちゃんはどんな魔物作ったの?教えて〜!」
「分かった。ソルト、おいで」
士野足さんの影から可愛らしい獅子系の獣人の子が顔を出した。この子はどうやらオスのようだ。
「カワイー!!このソルトちゃんはどんな力持ってるの!?」
「『天賦の才』と『韋駄天』持ちの獣王です」
天賦の才と韋駄天を持つと言う事は、この獣人の子はとても素早く、最初からありとあらゆる能力を使いこなす天才なのだろう。
この能力は恐らく、拾ったジョブジェムのカケラを組み合わせて作成したのだろうが……
「……この短時間でこの子を……?」
この能力はただジェムを組み合わせただけでは出来上がらない。ダンジョンに落ちている貴重なジェムのカケラを選別し、更に目的の能力が出るまでずっと粘ったのだろう。
あと『獣王』の獣人を作る為には、『獣の王冠』という獣系統のダンジョンボスが落とす、物凄く貴重な物を素材にする必要がある。
つまり、士野足さんは物凄く頑張ってこの獣人を作り上げたという訳だ。
「ジェムを組み合わせるだけでも大変なのに……よく頑張りましたね……」
「レア物探すスキルはあったけど、それでも今回はかなり運が良かったから短時間で済んだ。ダンジョン何十周もした」
「……魔王さま、そのソルトって子は相当凄い子なの?こんな可愛いのに?」
「凄いってレベルではありません。この子が強くなったらその辺の勇者など赤子同然です」
「ダンジョン周回大変だった……」
士野足さんとの会話中も、ソルトさんは影に隠れながら私達を見つめていた。こんなに可愛いのに、既にオーガの群れを潰せる力を所持している物凄い魔物だ。
「2人ともダンジョンボスとなる魔物は作成しましたね?では、早速ダンジョン作成を始めましょうか」
「魔王様質問。ダンジョンボスにした魔物はダンジョンの外に出られる?ダンジョンボスにした時点でレベルは固定される?」
「ボスにした魔物は外に出られますし、後からレベルも上げられるのでご安心下さい」
「一安心」
「では、ダンジョンの素の使い方を説明します。このダンジョンの素のボタンを、ダンジョンに変えたい洞窟や部屋の中で3回押すだけです」
「以外と簡単」
「ダンジョンはこの拠点の中に作りましょう。出入り口は後から自由に繋げられるので、とりあえずダンジョンだけでも作成しておきましょうか。後から場所や細かい設定は色々と変更は効くので。では部屋に案内するので付いて来て下さい」
「オッケー!!」
「分かった、付いてく……」
私は3人と1頭を引き連れて扉が並んだ廊下へと移動した。此処はダンジョン作成と個人部屋の為に作った場所だ。
「ちゃんと部屋がある……」
「此処でスイッチを押すんだよね?」
「はい。もし後から道具が必要になった際は、この廊下の突き当たりにあるエレベーターから2階に上がった先にある『道具置き場』から道具を持って行って下さい」
「道具置き場?」
「ショッピングモールのような場所です」
「ショッピングモール!?楽しそう!!」
2人は部屋から飛び出して廊下を走り、エレベーターに吸い込まれるように入って行った。2人の魔物も付いて行った為、廊下には私1人になってしまった。
『あっ、いたいた!お〜いカル様〜!アルラウネのラウネちゃんをそれなりに強くして来ましたよ〜!』
『ラウネちゃんつよくなった!』
私が呆然とエレベーターを眺めていると、レベル上げから帰って来たメエさんがアルラウネを引き連れて戻って来た。ラウネさんは喋れるようになり、最初見た時より2回り程成長していた。
『皆んなはもうダンジョン作成に入りましたか?』
「……向こうのエレベーターから2階に上がった先にある『道具置き場』に行ってしまいました」
『道具置き場!?』
『どーぐおきば!!』
メエさんとラウネさんは大声を上げて廊下を走り、エレベーターに入って2階へと上がっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます