第19話 デスフラワー

 皆んなが異世界で素材集めをしている間、私は外で妖魔を蒔く仕事をしていた。


(今日はこれくらいで終わりましょうか……)


 ある程度蒔いたので、そろそろ戻ろうと軽く支度をしてると、周りから冒険者の気配が。数は4人、どうやら私に用があるらしい。



「動くな!」



 そして私の背後に4人組のパーティーが現れ、私を取り囲んだ。見た目からして、彼らは全員学生のようだ。



「あははっ!びっくりした?君の作った結界の罠に掛かってない勇者を間近で見るのは初めて?」


 背の高い優しそうな男性がヘラヘラと笑いながら長い杖を振り回している。


「わたし達がこんな見え見えの罠に掛かるワケ無いじゃ〜ん?ねえ悔しい?こんなわたし達を罠にすら掛けれなくて泣いちゃいそう?雑魚魔王様〜?」


 髪を2つに縛ったピンク髪の女性は、優しい声で私を煽っているようだ。


「貴様、デスフラワーのリーダーだな……?」


 2人がヘラヘラと笑う中、リーダー格の男が開口一番にそう尋ねてきた。


「デスフラワー?」


「とぼけるな。お前、勇者撲滅計画とかふざけた計画掲げて俺達のような転生者を潰して回ってる組織のボスだろ」


 そんな計画は初めて聞いた。今まで結界に掛かった冒険者達の中に、そのような情報を持つ人も居なかった。


「何ですかそれは……」


「いやいや、聞きたいのはこっちなんだって……」


「え?もしかして言葉が理解出来なかった?わたちたちのことば、むずかちい言葉ばかりで分かりまちぇんでちたか〜?」


「はい、さっぱり」


「……あくまでしらを切り続けるつもりか。まあいい、どちらにせよ貴様は此処で切り伏せるつもりだからな」


 そう言ってリーダー格の男は剣を構えた。彼らは私と話し合いをするつもりは一切無いらしい。


「リーダー、此処にあの甘ちゃん勇者が居なくて良かったね〜。もしあんなのが此処に居たら絶対に「喧嘩はやめて話し合おうよ〜」なんてふざけた事言ってたよね〜!」


 ピンク髪の女性は誰かのモノマネをしながら、私に狙いを定めながら鉤爪を装備した両手を振り回した。


「ふん、俺はあんな奴と違って優しくないからな。そんな舐めた真似はしない」


「リーダーだって獲物で遊ぶ癖に……」


 優しそうな男性は杖を両手に持ち、私をじっと見つめた。


「ひいぃ……ついに魔王との戦闘が始まっちゃう……」


「新入り、お前は遠くから観察しとけ。お前では荷が重すぎる」


「はっ、はい!」


 新入りと呼ばれた初々しい女性は、剣を構えたまま慌ててこの場から離れた。



「じゃあな、魔王様」



 こうして勇者達は、それぞれの必殺技を携えて私に襲い掛かって来た。





 数時間後……




「ただいまー!!」


 先輩が異世界から溜まり場に戻って来た。肩に提げた鞄から色んな素材が飛び出している。


「まさか本当に帰りたいって願っただけで帰りのゲートが開くなんてね!魔王さまって本当に……ん?」


「先輩、どうしました?」


「その後ろにある物体はなーに?宙で止まった人が浮かんでるけど……インテリア?」


「ああ、これは勇敢にも私に襲い掛かって来た勇者達ですよ」


 私は先程襲い掛かって来た勇者達の時間を止め、わざわざアジトまで運んで来たのだった。


 勇者達は勇敢な顔で今にも動き出しそうな姿のまま固まっている。


「大変でしたよ、手加減するのは。危うく床のシミにしてしまう所でしたから」


「ふーん……で、そのオモチャはどうするの?要らないなら僕にちょーだい!」


「この人達は新しく作るダンジョンの実験体にしようかと思って連れて来たんです。この人達に作ったダンジョンを体験させ、リアルな感想を貰おうかと。間違えても玩具にしてはいけませんよ」


「ちぇ〜……ま、いっか。そんなか弱い奴らじゃ僕の遊びに耐えきれないだろうし」


 先輩は勇者達にすっかり興味を無くしたらしく、鞄から取り出した素材をテーブルの上に並べる作業に入った。先輩が入手した素材はどれも入手難易度が高い物ばかりだ。


「随分と珍しいものばかりですね、しかも質が良くて綺麗です」


「あったりまえじゃん!僕なら相手を傷付けずに簡単に素材を取れるからね!雑魚程度なら悪夢を見せたらあっという間さ!」


「素晴らしいですね……この素材の中から魔物を?」


「へへーん、魔物ならもう向こうで作っちゃったもんね〜!ほら、おいで!」


 先輩はカードを取り出し、カードに魔力を込めた。



『ヒヒン!!』



 先輩の持つカードから『ペガサスユニコーン・ポニー・ナイトメア』の幼体が現れた。


 角と大きな羽を持った夜色の可愛らしい仔馬だ。


「夢可愛い悪夢って感じで、まさに僕にピッタリの魔物だよね!」


「この子はまだ仔馬ですが、状況によってはドラゴン一体を潰せる程に素晴らしいポテンシャルを持つ魔物ですね」


 ナイトメアは眠る相手には一方的な強さを見せる。もし深い眠りについているドラゴンが居たら、運が良ければ相手を眠らせたまま発狂死させる事も可能だろう。


「弱い相手なら、この子に敵意を持った時点で問答無用で眠り、そのまま悪夢を見せてあっという間に戦闘を終わらせる事も出来ます」


「強っ!僕のリリーちゃん可愛くて強いなんて最高だね!」


『ヒヒン!プルル!』


 先輩は満面の笑みでよしよしとナイトメアのリリーさんを撫でた。リリーさんは嬉しそうに先輩に顔を寄せた。




「魔王様、ただいま」


 先輩がポニーを愛でている間に士野足さんも帰って来た。士野足さんは私の顔をしっかり見ながら挨拶をしていた。


「イアさん、おかえりなさい」


 ようやく私に慣れたようで良かった。私は笑顔で士野足さんを出迎えた。


「ひぇ……ありがとうございます……」


 まだ何もしていないのにお礼を言われた。


「……魔王様、そこで浮いているのは……インテリア?」


 士野足さんにもインテリアだと思われた。彼らはそんなにおしゃれだろうか。


「ああ、これはダンジョンの実験体の勇者達です。外で私に襲い掛かって来た所を捕獲しました」


「…………えぐりますか?」


 何を?


「ちょっとちょっと〜!折角魔王さまが無傷のまま生かしてあげたのに、そんな事したら可愛そ〜でしょ?」


「うん……分かった……」


 士野足さんは眉間に皺を寄せた無表情のまま、ゆっくり頷いた。危うく勇者達が大変な事になる所だった。


「そうだ、イアさん。デスフラワーという言葉に覚えはありませんか?」


 先程襲い掛かって来た勇者達を調べても、ただ前世持ちを潰して回る組織である事以外何も分からなかった。同じ冒険者であるイアさんなら何か分かるかもしれない。


「デスフラワー……うん、知ってる。此処からそれなりに離れた地域に生息してる、魔物中心の物凄く危ないグループ」


 士野足さんはデスフラワーの名を聞いた途端、真剣な面持ちになった。


「デスフラワーは前世持ちの人や魔力を持ってる人、とにかく才能のある人を攫って魔物に変えてる所。魔物に変えた元人間は転生者と戦わせてレベル上げしてる」


「人間を魔物に……?」


「へぇ、名前の割に面白……えげつない事するじゃん。で、レベル上げした魔物は何に使うの?」


「デスフラワーの下っ端は「この魔物を使って勇者をこの星から全員消し、魔物が住みやすい星に変える」って言ってた」


「それは厄介ですね」


「うん、私も前に魔物に変えられた元人間と戦った事あるけど、その人は人間に戻らなかった」


「あー、一度魔物にされたらもう元には戻らない感じ?」


「少し違う。私がボロボロにした魔物を、別の魔物に倒させて力を吸収させたから。だからもう元に戻せなくなった」

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