第17話 ダンジョンの説明

 夜9時頃、百百乃公園にて……


「魔王様、お待たせしました」


「魔王〜お待たせ!待った?」


 1番初めにトトさん、少し遅れて先輩が待ち合わせの公園にやってきた。


『皆さ〜ん!お待たせしました〜!』


 最後にメエがパタパタと走ってやって来て、ようやく仲間全員が揃った。


『あっ!貴方がイアさんですね!物凄く可愛いですね!』


「カワイ〜!ま、羊屋さんには遠く及ばないけどね!」


「ふーん……あんたが例の新人かい?もっとこっちに来たらどうだい?」


 トトさんが遠くから私達を見つめるイアさん、もとい士野足さんをこっちに呼んだ。


「駄目、まだ推しに慣れてないからそこまで行けない……耳が良いから此処で大丈夫」


「推し……?」


「ああ、実は……」


 私はこれまでの経緯を説明した。


『また魔王様のファン……か』


「ファンなのに見られたくないの?握手とかサインとかねだらないの?」


 メエさんは呆れ、先輩は不思議がって士野足さんを見つめている。


「魔王様のファン……!まさか、あんたも魔王様を狙って……!?」


 そんな中、トトさんは何故か焦り出して士野足さんを睨んだ。


「違う。私は魔王様を推してるだけのファン」


「はっ!どうだかね!最初はファンかもしれないけど、ファンとして魔王様に接していく内に恋心が……」



「違う」



「……!?」


 士野足さんの重圧のある声にトトさんは思わずたじろいだ。無表情なのに圧が凄い。


「私は例えるなら壁や埃、だから推しとは一生絡まない。そもそも私は夢は地雷だから、間違いは絶対起こらない」


「わ、分かった……」


 何を言っているかはよく分からなかったが、遠くから飛んでくる圧にたじろいだトトさんは大人しく頷いた。


「さて、とりあえず話をする為に場所を移しましょう。少し失礼します」



 私は全員を対象に瞬間移動した。


 飛ばした先はそこそこ大きいファミリーレストランの店内のような空間だ。




『おぉーっ!!レストランだー!!』


 メエさんは真っ先に厨房に飛び込み、大型の冷蔵庫の中身を確認した。


『大きな肉が沢山あります!!』


 メエさんは大喜びだ。


「あっ!ドリンクバーあるじゃん!ねえねえ魔王さま〜、ドリンクバーのジュース取っていい?」


「ご自由にどうぞ」


「いやったー!!」


 先輩は大喜びで綺麗なグラスを取り、レモンスカッシュを注ぎ始めた。


「凄い……!設備も充実してるんですね……!」


 トトさんは見事な夜景が映る外を眺めながら感心している。


「そろそろ皆さんが自由に集まれる拠点が欲しいと思ってたので……この機会に作成しました」


「至れり尽くせり……」


 士野足さんは角のソファのある席にちょこんと座り、ご満悦の様子だ。


『皆さーん!!ステーキ食べますか!?デザートも作れますよ!!』


「メエさん、とりあえず先に作戦会議しましょう。皆様、中央のテーブルにお集まり下さい」


『はーい!』


 メエさんはコック姿のまま厨房から飛び出し、そのまま席に座った。


 他の皆んなもテーブルに集まる。最後に士野足さんが恐る恐る近付いて、誰もいない角の席にそっと座った。


 少しはましになったようだが、まだ私と顔を合わせられないらしく、ずっと見当違いの方角を向いている。



「では早速、会議を始めさせていただきます。内容は『勇者の向上心について』です」


 私は中央に下げられているモニターの電源を点けた。画面には様々なタイプの勇者の姿が映し出されている。


「私達は日々、ジェムの為に勇者を育成しています。今の所、私達が蒔いた妖魔を狩らせる事で力を蓄えさせている状況ですが……」


『確かカル様は、このままじゃ育てるのに限界があるからダンジョンを作ると言ってましたね!』


「ダンジョンねぇ……そりゃ楽しそうだね」


「はい、ただ妖魔を狩るだけでは飽きが来ますからね。妖魔は蒔く手間もありますし、不規則に現れる妖魔をわざわざ探しに行く勇者達にも負担が掛かります。なので、勇者達が好きな時間に自由にレベル上げが出来る施設を作るつもりなんです」


「いーじゃん!で、ダンジョンはどうやって作るの?僕が居た世界では自然発生だったけど、この世界にはダンジョンは自然発生しないよね?」


「はい、先輩の言う通りです。なので此処ではこちらを使います」


 私はテーブルの上に四角い物体を4個置いた。


「魔王様、これは……?」


 トトさんは四角い物体を不思議そうに見つめている。


「これはダンジョンの素です。これを使用すれば、誰でも自由にダンジョンを作成出来ます」


「えぇーっ!?何て面白そうな物体……!!」


 先輩は目を輝かせながら楽しそうに物体を眺めている。


「素は此処に四つあるので、皆さんにもダンジョンを作成して貰おうかと思ってます。ダンジョンに必要なボスモンスターを作る為のカードも配布します」


『やったー!じゃあ早速……』


「ですが、その前に作成するダンジョンについて幾つか説明があります。イアさん、此処で説明をお願い出来ますか?」


「分かった」



 士野足さんはその場で立ち上がり、ダンジョンの説明を始めた。


「ダンジョンの作成は簡単じゃない。さっき魔王様が言った通り、このダンジョンは勇者のモチベ上げとレベル上げの為の施設。ただダンジョンを作るだけじゃ駄目、つまらないダンジョンにしたら本末転倒」


 ダンジョンの話になった途端、士野足さんはハキハキと喋り出した。


「ダンジョンに入った勇者達はまず、その辺の環境や魔物から素材を取り、手に入れた素材から強い防具や武器を作り、更に強い敵に挑戦し、勝利して素材を入手。これの繰り返し」


 士野足さんの真剣な喋りに周りも感化されたらしく、メエさんは真面目に士野足さんを見つめ、トトさんはノートとペンを取り出して話を書き留めている。先輩は相変わらず楽しそうにしながら士野足さんを見つめている。


「理想は[楽しいギミックでそこそこの難易度。遅延行為、理不尽が一切無い、ストレスフリーなダンジョン作り]、その為には魔物にもダンジョン自体にも工夫が必要」


「ふーん……じゃあまずダンジョンの基本を教えて!どうやって作ったら良いの?」


「基本は低い階層に弱い魔物、階層が深くなるにつれて魔物を強くしていく。奥に進むにつれて更に良いアイテムや素材が落ちるようにする」


『なるほど、深いと難しい……でも良いアイテムが落ちてる……』


「深い層になればなるほど魔物も強くて難しくなるけど、良いアイテムや素材が欲しい勇者達はこぞってダンジョンを攻略する」


「アイテムは勇者達を誘き寄せる為の罠ってワケだね……」


「あくまで勇者のレベル上げの為、とことん勇者を甘やかす。勇者を育てる為ならダンジョン内に商人も欲しい。回復アイテムの販売は勿論、ダンジョンの探索に役立つ道具、食料やダンジョンの素材……」


「それならダンジョン探索もグッと楽になるね!」


「後はお遊び要素も欲しい。隠し部屋の宝箱、倒すとお得なレアな敵、ダンジョン内ごとの限定レアアイテム……とりあえず基本から始めて、後々から工夫していけばいいと思う。私からの話は以上」


 士野足さんは一通り話し終えてその場に座った。


「成る程、それなりに為になる話だったよ。さぞかし様々なダンジョンを歩いて回ったんだろうねぇ……」


「と、言うわけで……とりあえず皆様にはダンジョンの要となるボスモンスターの作成をして頂きます。ボスモンスターはダンジョンの環境にも関わってくるのでじっくり考えて作成して下さい。こちら、魔物を作成する為のカードと素材によって出来る魔物一覧です」


 私は4人にカードと魔物の本を渡した。


「素材を集める為の世界は私が繋げます。そこで作成したい魔物の素材を集めて来て下さい」

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