第13話 魔法少女?と獣耳少女?
私は先輩に『勇者育成計画』についてしっかり説明し、所持していた『妖魔の種』が入った袋を先輩に手渡した。
「へぇ〜!これをその辺に蒔くと妖魔ってヤツが生えてくるんだ〜面白そ〜!」
先輩は種袋を眺めながら楽しそうにはしゃいでいる。
「では早速仕事を……と、行きたい所ですが……先輩に仕事を頼むのは色々と不安なので、とりあえず貴方の仕事ぶりを観察させて下さい」
「え〜?仕方無いなぁ〜いいよ!」
……この魔物に仕事を任せるのはかなり不安だ。
「うーん、たった1人に仕事任せるのも不安だね」
『じゃあ僕が付いて行きますか?本当はカル様から離れるのは嫌ですが……』
「大根頭じゃちょっと不安だね。だから新人のピエロには、この『それなりに仕事慣れしたリリス』を付けてあげるよ!ありがたく思いな!」
トトさんは、よく妖魔を蒔く仕事を任せているリリスを呼び出した。
「あの、トトさん……それはやめた方が……」
「えっ?何でですか?」
この先輩に『小さくて可愛い』リリスを貸してもいいのだろうか。凄く不安だ。
『アハハッ!アタシがしっかり面倒見てあげる!』
「……」
先輩は先輩風を吹かすリリスをじっと見つめている……
『ちょっと〜、この先輩が声かけてんだからうんとかすんとか言いなよ〜!』
「……なんて可愛い子……!この小ささ、この愛らしさ、この適度な生意気具合……!何もかも最高じゃないか!ちょっとその尻尾掴ませて!そのままグルグル振り回していいかな!?」
『キャーッ!何コイツ!?』
リリスが飛び上がって悲鳴を上げる一方、先輩は大喜びで今にもリリスに飛び掛かりそうだ。
「しまった!コイツに可愛いヤツ見せたらダメなんだった!!こらピエロ!リリスから離れな!!」
トトさんは素早くリリスを回収し、先輩を睨んだ。
「コイツが子どもの不安や恐怖を好むナイトメアだって事を忘れてたよ……!あんた!このリリスは魔王様の魔力で生まれたのと同然の大切な魔物だよ!」
『因みにリリスを作ったのはトトさんです!』
「……ああ、つまりその子は夜上さんと魔王との」
「黙りな!!!!そのリリスはあたしにとって大切な仲間だよ!リリスにちょっかいかけるのはやめな!!代わりにあたしが付いてくよ!!」
結局、新人の先輩にトトさんがついて行く事になった。
「トトさん、今後の為にリリスを強化する必要がありそうですね……後で魔物達のレベル上げについて考えておきます」
「ありがとうございます……そうですね、いつか成長した勇者の手でリリスがやられる前に強くしておかないと……」
「はいはい、お喋りはそこまで!じゃあ早速仕事を始めよっか!まず手始めに、向こうの駐車場にいた魔法少女にちょっかい掛けに行こーっと!」
「ちょっと待った!!」
いよいよ仕事を始めようと動き出した先輩をトトさんが止めた。
「魔王様!多分このピエロが言ってる魔法少女って奴は精霊と契約した人です!精霊と契約し、ある程度力を持つと精霊の力を衣類として身に纏うことが出来るんですよ!」
「ほう……!それはぜひ一度、直接この目で確認したいですね……」
『精霊使い』はずっと探し求めていたが、今日の今日までずっと見つからなかった珍しい職業だ。
「その方がいいです!例の魔法少女は魔王様が直々に向かい、私達は他所で妖魔ばら撒いてきます!」
「えーっ……ま、いっか。あの子は僕の好みとは違うし……魔王様、例の魔法少女はあっちに居たよ」
「ありがとうございます。では行ってまいります」
『ボクもついていきます!!』
私は、はやる気持ちを抑えながら魔法少女のいる現場へと向かった。
人気の無い駐車場にて……
(あれが精霊使い……!)
私は車一つ無いだだっ広い駐車場を歩く、ゴスロリ姿に『銃口が針になっている銃』を構えた少女を発見した。
どうやら彼女は今、戦闘の練習をしているようだ。
(彼女からもの凄いエネルギーを感じる……さて、どれくらい戦えるか確かめてみましょう……)
私は急いで駐車場の周辺に妖魔をばら撒いた。妖魔はあっという間に地面から出現し、魔法少女を取り囲んだ。
「……!」
魔法少女は急に現れた妖魔に最初は戸惑ってはいたが、直ぐに状況を把握して武器片手に戦闘を始めた。
銃から放たれた雷で敵を貫き、近寄ってきた妖魔に銃口の針を直接差し込んで電撃を放ち、最後には乱射により全ての妖魔を討伐した。
(雷を操る精霊使い……実に素晴らしい……!)
彼女はこれからもっと妖魔を倒して強くなり、ジェムを育てていくだろう。ああ、収穫する日が待ち遠しい。
だが、その前にダンジョンの導入についても計画を進めておかなくては。
(……?誰かに見られている?)
ふと、遠くから視線を感じた。
(……猫耳?)
視線の先を見つめると、遠くの建物の上で静かに双眼鏡を構える獣耳ロングヘアのミステリアスな美少女がいた。
衣類は深緑を基調としたゴシック系で、耳をピーンと張りながらこちらを双眼鏡で見つめているらしい。
「…………!?」
獣耳少女は私が見つめ返したのを理解したらしく、大慌てでその場から姿を消してしまった。
「あれは一体……」
『ボクも一瞬見えました!あの獣人、カル様をじっと見つめていたようですが……』
メエさんとそんなやり取りをしながら遠くを眺めていると、トトさんと先輩の2人がこっちに向かって飛んで来た。どうやら無事に仕事を終えて戻って来たようだ。
「魔王様、無事に仕事が終わりました。ピエロは何もトラブルを起こさなかったので一安心です」
「ねーねー魔王さま〜、さっき何見てたの?」
「ああ、先程向こうの建物で獣耳を生やした子が私を見ていたので、その人を見つめていました」
「……まさか、魔王様に敵意のある魔物では?……いや、まさか魔王様に一目惚れした子……恋のライバル……?」
「悪魔ちゃんったら何言ってんのさ。もしかしたら魔王さまのストーカーなんじゃない?面白そうだし、その子追いかけてこよっか?」
「いえ、彼からは敵意も何も感じませんでした。ただずっと私を観察しているようでした」
「彼ねぇ……」
『……彼?いや、ボクが見たのは女子……』
私は何か言いかけたメエさんの口をそっと塞いだ。
「皆さん、今は彼をそっとしておいてあげましょう」
「魔王様、本当にいいんですか?」
「はい、とりあえずは大丈夫です」
私は彼の正体は直ぐに分かった。先程私を見つめてきた相手は同じ学校、同じクラスの同級生『士野足(しのあし)』さん。髪が長くて顔が整った無口な少年だ。
(わざわざあんな可愛らしい女装をして私を見つめてくるとは。しかも、私と仲間になりたそうな目をしていたような……いつか話し合いが出来るといいのですが……)
一方、士野足さんは……
(ひぃ……さっき絶対『推し』に目視された……もしこれで推しに認知されてたらもう生きてけない……)
建物の裏に避難した士野足は、獣耳をぺたんと下げ、尻尾を掴みながら何やらぶつぶつと呟いている……
(私は壁や天井として推しを見守るつもりだったのに……でも、さっきの推しカッコよかった……)
ミステリアスな獣耳美少女……の姿をした少年は、数時間の間ずっと膝を抱えたまま此処から動かなかったのだった。
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