第12話 ナイトメアが仲間になった

 ナイトメアを捕獲して数日後……


 今は夜の9時。魔王姿の私は編みぐるみのメエさんと一緒に、町のビルの上でトトさんの到着を待っていた。


『……へぇ、あの認識阻害の印には特定の行動をした時に罪悪感を倍増させて悪さ防止をさせる効果もあったんですね!力使って小さな悪さする勇者もこれで大人しくなりますね!悪さを制限出来る上にレベル上げもさせられる、これが『一石二鳥』って奴ですね!』


「ですが、妖魔だけでレベル上げさせるのは限界があるので、そろそろダンジョンの導入を検討しているんです」


『ダンジョン!楽しそうですね!』


 私は誰にも話を聞かれないよう小さい結界を貼りながら、今後の勇者の育成方法についてメエさんと協議していた。


「その通りです。ただレベル上げさせるだけではいずれ飽きが来ます。ですがダンジョンならいつでも好きな時に入れて、レベルも上げられて道具も手に入り、更に経験も積めます」


『ではまずはダンジョンの素とボスとなる魔物を用意しないといけませんね!』


「ダンジョンの素は既に4個所持してます。後は魔物だけ……魔物に関してはこのカードを使用して作成しましょう」


『あ!そのカードは確か、素材と自身の魔力を込めれば簡単に使い魔となる魔物が作れる道具ですよね!もし使い魔が倒れても所有者がカードに魔力を込めれば何度でも復活する便利なカード……確か、最初に魔力を込めた人がそのカードの魔物の所有者になれるんですよね?』


「その通りです。試しにメエさんに一枚差し上げます、これで強そうな魔物を作成してみて下さい」


『いいんですか!?やったー!!じゃあ早速その辺の雑草と組み合わせてマンドラゴラ作ります!!』


「もう少し考えて作成して下さい」


『えー、その辺のしぶとい雑草からなら物凄いマンドラゴラが生まれると思うんですけど……あっ、トトさん!』


 メエさんが遠くから飛んでくるトトさんに気付いた。トトさんはスーッと飛んでビルの上に降り立った。私は結界を解除してトトさんを迎えた。


「魔王様、お待たせしました……」


「トトさん、こんばんは……おや、如何なさいました?」


「あの、実は……」


 トトさんは申し訳無さそうにしながら、遠くのビルの天辺を指差した。


「……ナイトメアですか」


『向こうに青いピエロが見えますね!』


 そこに居たのは魔物姿の江里牧先輩だった。先輩は私達の視線に気付くと、両手を力一杯振りながら此方へと飛んでやって来た。


「えへへっ!魔王さま!会いたくなかったけど会いたかったよ!」


 やがて私達が立つビルの上に到着した先輩は、手を後ろに回して照れる仕草をしながらこちらに駆け足で来た。


「魔王様、申し訳ございません……実は、家を出た所からずっとストーキングされてて……」


「夜上さんどこ行くの?僕も連れてって!って言ったんだよ!」


「あたしは全力で拒否しましたが、このピエロが……」


「僕ね、もし此処で無視されたらすっごく悲しいなぁ〜!こりゃ、暫くの間はテニスに行く前に編み物クラブに通うしかないなぁ〜って言ったんだ!せっせと編み物に没頭して心の傷を癒す、別に悪い事じゃ無いでしょ?」


「あんたが毎日来たらファンも勝手について来て家庭科室が賑やかになるだろ!そんなしょっちゅう大勢で編み物クラブに来られたらカルが可哀想だよ!!……まあ、そんな感じで編み物クラブを人質にされたんで、仕方無く連れて来たんです……」


 江里牧先輩は、今の所は週に一回だけ編み物クラブに寄ると言っていた。


 だが、そんな頻繁に来られたら絶対に私の心が持たない。ある意味、私のクラブ活動を止められるようなものだ。


『ええっ!?カル様が唯一、学園生活を送れる場所をこのピエロが人質に取ったんですか!?何て事を……!』


「別にクラブに寄るのは悪い事ではありませんからね……これは絶妙な所を突いてきましたね……」


「このピエロ!人が嫌がりそうな真似を平気でやりやがって!性格悪すぎるよ!」


『そうだそうだ!鬼!悪魔!』


「トトさん、メエさん、大丈夫ですよ。そんな時はコレで……」


 と、私はポケットからピエロの形をした編みぐるみを出した。


「ん?僕の編みぐるみ?」


「はい。この中に先輩の魂の一部を入れて持ち歩く事にしたんです。なので、こうやって握れば……」


 そう言って編みぐるみを手で思い切り握り締めた。


「あだだだだだっ!!やめてやめてっ!!」


 すると、先輩が両手で自身の体を強く抱きしめながら地面を転がり始めた。


「分かった!イジワル言った事は謝るって!だから止めて!!」


『どうだ!参ったか!』


「あはは、こりゃ見ていて気持ちいいね!」


「さて、これくらいでしょうか」


 ある程度の所でぬいぐるみを持つ力を緩めると、先輩はゼエゼエと息を切らしながらその場で止まり、暫くしてからやっとの思いで立ち上がった。


「はぁ、はぁ……あーもう、魔王の君はホントに可愛くないんだから!それにしても、君ってホントにいい性格してるよね……僕の魂をわざわざ僕そっくりの編みぐるみに入れて持ち歩くなんてさ」


「ありがとうございます」


「褒めてないよっ!遠回しに趣味悪いって言ったの!!」


「そうですか。まあ、私もこれは悪趣味だとは思いますよ。非道な事をする人間や魔物の魂をちょろまかし、編みぐるみに入れてコレクションしていた時期もありましたが……」


「えぇ……」


「……ピエロ、何だいその顔は。魔王様の趣味に口出しする気かい?」


「いや、魂集めてコレクションするってよく聞く設定だな〜って思うけどさ、いざ自分が当事者になるとよく分かるよ。君、凄くヤバいね……」


 あの江里牧先輩に引かれてしまった。



「で、何でピエロはあたしを追いかけてたんだい?くだらない事だったら怒るよ!」


「お?もしかして僕との勝負を希望してるのかな?君がボロ負けする未来が見えるけど、喜んで再戦してあげるよ?」


「減らず口を……!」


「トトさん、落ち着いて下さい。先輩、貴方は何故此処に来たのですか?」


「ああ、それはね……おととい君達がやってた面白そうな事について詳しく知りたいなーって!何か前世持ちの人に何かしてるのは分かったけど、あの時はバレないように遠くから眺める事しか出来なかったからさ!」


『アレ見られてたんですか!?』


「遠くからバッチリ見てた!でも、今なら僕にも教えてくれるかなって!僕達、もうトモダチみたいなもんだよね?」


「はぁ?あんた、何言ってんだい?あんたとは友達になった覚えは無いよ!」


「君達じゃなくて魔王に聞いてるの!マオーサマッ♪あの時、何してたのか教えて欲しいな〜」


『ダメです!さっきカル様を脅そうとした魔物に僕達の計画なんか教えられません!!』


「……大根頭の言う通りだよ。あんたみたいなやつを仲間として認められないよ」


『大根じゃないです!!』


 2人はナイトメアを受け入れる気は無いようだが……


「……いいでしょう、貴方にも教えます」


『ええっ!?カル様正気ですか!?』


「いやったー!!ありがとー魔王様!!」


 先輩は両手を上げ、その場で飛び跳ねながら喜んでいる。


「魔王様!こんな奴を仲間に引き入れるつもりですか!?あたしは反対です!カルにちょっかい掛けた奴がまともに仕事するとは思えません!」


「トトさんの意見もよく分かります。ですが、此処で仲間に引き入れて、先輩の動向を制限しておかないと後々面倒な事になりそうなので……」


「おー、魔王ってばそこの2人より分かってんじゃん?」


「何言ってんですか魔王様!?そもそも魔王様はピエロの命握ってるし、その魂で常に動向を把握……待てよ?コイツの事だから行動を把握されてるのをいい事に、嫌がらせ目的で毎日変な時間に周囲にちょっかい掛けに行くかも……」


「きっと彼の事ですから、私に怒られないギリギリの悪戯をして困らせてくるでしょうね……」


「ご名答〜!そこの悪魔ちゃんもやっと気付いたね!やっぱ僕達はいい親友になれそうだ!」


 先輩は大喜びでその辺を走り回り、肩を組んだりしてきたりとやたら上機嫌だ。一方、トトさんはかなり不機嫌だ。


「魔王様……アレが元先輩だからって、流石に甘すぎませんか?」


「いえ、これは先輩に最後のチャンスを与えたんです。この世で生き永らえる最後の希望を……ね」


「……えっ?」


  私の一言を聞いた瞬間、先輩は真顔になってその場で固まった。


「ナイトメア。もし、貴方が余りにも目に余る行為をしたら、貴方の魂は直ぐに握り潰します」


 私は先輩の前で再び編みぐるみを取り出した。


「……いやいやいや、あの優しい羊屋さんならそんな事しないよね?ね?」


「出来ます。面倒になったらこうやって……」


 と、先輩の編みぐるみを両手で掴み、思い切り握り……


「わーっ!待って待って!その目はガチでやるやつじゃん?!分かった!大人しく従うから!!」


 編みぐるみを握り潰す前に先輩が慌て出し、服従の意を示した。


「もし僕を仲間に引き入れてくれたら、魔王様の為にいーっぱい活躍しちゃうから!!」


「……との事ですが、お2人はどう思いますか?」


「あっははは!そういう事ならあたしは文句無いよ!ピエロ、魔王様から頂いた最後のチャンス、無駄にするんじゃないよ!」


『せいぜい、カル様に愛想を尽かされないよう頑張って下さいね!』


「あざーす……(くっ……!舐めて掛かって大火傷だよ……!)」


 この後、私達がやっている『勇者育成計画』について説明すると、先輩は手を叩いて大笑いし、「大喜びで参加する」と二つ返事で計画に乗ってくれたのだった。

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