第10話 夢魔育成と将来の話

「時間停止は持って3日です。その間に夢魔を徹底的にレベル上げします」


「……3日もあればそれなりに強化出来そうですね……」


 トトさんはあまり焦った様子は無く、余裕そうにそう呟いた。


「折角ですから、これを使いましょう」


 私はポケットから妖魔の種袋を取り出した。


「昨日、様々なタイプの妖魔を生み出せる種を作っていたんです。夢魔達に妖魔を倒させて力を付けさせましょう」


 この方法なら、この妖魔の出来を確かめるついでに夢魔も強化出来るだろう。


「えっと……無理です」


「?」


「あの、夢魔は眠った相手から力を搾り取るタイプなので、物理で敵を殴ったりするのは苦手なんです。だから倒すのもだいぶ時間が掛かるかと……相手を眠らせれば何とかなるかもしれませんが、昨日の妖魔を見た感じだと、彼らは不眠のようですし……」


「おや、これは失念してましたね……私の周りに居た夢魔は皆、敵を殴っていたので、普通の夢魔は戦闘向きで無い事を忘れていました……」


 魔物にもバトルの向き不向きはある。そもそも夢魔は、表立って戦えるタイプでは無いと言う事を忘れていた。


「それならば……スライムの実を食べさせましょう」


「スライムの実?」


「はい、私の世界に生えているマナの木からごく僅かに獲れる、マナが豊富な木の実です」


「魔王様の世界にはそのようなものがあるんですね……確かにそれを夢魔に食べさせれば、あっという間に強くはなりますが……地球上に存在しない植物を、どうやってご用意するんですか?」


「一度私の世界に戻り、実家に生えている木から実を回収してきます」


「待ってください。今さらっととんでもない事言いませんでした?」


「申し訳ございません。今は話している時間すら惜しいので……一旦失礼します」


「ちよっと!?話す時間なら割とあります!3日なら余裕で……!あの、せめて魔王様のご実家にご挨拶に……!あ、行っちゃった……」



 数分後……



「お待たせしました」


 私は両手にモチモチした白い実を抱え、トトさんの元へと戻った。


「本当に異世界に飛んできたんですね……」


「はい、これが例のスライムの実です」


「見た目はまるでお餅みたい……確かに、この実から膨大なマナエネルギーを感じます。これならあっという間に強くなれます!」


「では早速食べさせてあげましょう」


「はい!夢魔、出ておいで!この実を残さず食べるんだよ!」


 トトさんは夢魔を5匹作り出し、夢魔にスライムの実を食べるよう指示を出した。私は出て来た夢魔達に大きな実を手渡した。


『はぐ……はぐ……』


『むっちゃむっちゃ……』


「そうそう、この実は味がシンプルなので調味料も持って来ました。醤油ときな粉と餡子です」


「合う調味料まで餅と同じなんですね」


 そして私達は、ただひたすらスライムの実を頬張る夢魔を静かに見守り続けた。


「……勇者達も、こんな風に簡単に育成出来たら楽なんですけどね……人間はあたし達と違ってマナや魔法を一気に吸収出来る身体じゃないからね……」


「人間にこんなマナの塊を食べさせたら破裂しますから、少しずつ魔力を吸わせて育てないといけないのは分かってるのですが……」


 勇者を育てるには時間が掛かるので、下手したら学校を卒業した後も続く可能性がある。


「かと言って、流石にトトさんに高校卒業まで勇者育成に付き合わせる訳にはいきませんから……トトさんにも人生がありますからね」


「人生ねぇ……ま、あたしは卒業したら宇宙飛び出して異世界へ行くって決めてるので」


「異世界……ですか?」


「はい、この星から出て、魔法がある異世界でまずは好きに暮らしたいんです。今のあたしなら宇宙空間を飛んでも平気だし……」


 どうやらトトさんはこの世界に留まる予定は無いようだ。


「魔法のある異世界ですか……なら、私の所に来ますか?」


「……へっ?」


 トトさんは私の言葉に呆然とし、次第に表情が崩れ出して顔が赤くなった。


「ええっ!?そんな!?あの、それって、その……プロ……」


「私の居た世界は魔法が存在するので、トトさんの要望に当てはまる世界かと思って……」


「あ、世界ですか……」


「はい、私の力なら一瞬でその世界まで飛べるので、トトさんの身体に負担が掛からないかと……」


「魔王様……!ありがとうございます!魔王様のご指示なら喜んで従います!何なら今すぐにでも……!」


 トトさんは大喜びで、食い気味に私の話に乗ってきた。


「いえ。これは私の指示ではなく、あくまでも一つの提案です」


「えっ?」


「最終的にどうするかはトトさん自身が決めて下さい。トトさんの人生はトトさんのものなので……」


「私の……人生……」


 私の話を聞いたトトさんは暫くの間、無言のままじっと空を眺めた。


「……魔王様は、あたしの意思を尊重してくれるんですね」


 トトさんはそんな一言を呟くと、笑顔になって私に向き直った。


「……はい!今はとりあえず限りある学園生活を過ごしながら、今後の事を色々と考えてみます!」


「はい、その方が宜しいかと」


「まあ、あたしの最終目的が目的なんで、きっとあたしは魔王様の提案に乗るとは思いますけどね!」


「最終目的?」


「あははっ!魔王様にはまだ秘密です!」


 そんな感じで、この後はずっとトトさんと2人で、何の取り留めの無い楽しい会話を続けた。



 数時間後……



「だいぶ大きくなったね……」


「無事に成長して何よりです」


 スライムの実を食べた夢魔はあっという間に成長し、『ドリームサキュバス』という個体に進化した。


 彼女達は相手を魅力して精神力や魔力を吸ったり、一瞬で相手を眠らせ、夢の中で一方的に殴る戦法も出来るようになった。


 相変わらず表立ってのバトルは苦手だが、その辺の勇者ではまともに太刀打ち出来ない強い魔物に育ったのだった。


「これなら十分ピエロを足止め出来るね……あんた達!このピエロが逃げないようにくっ付いときな!」


『はーい』


 サキュバス達は眠そうにしながらゆっくり飛び、停止している先輩に次々とまとわりついた。これでもう先輩は逃げられないだろう。

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