第9話 ナイトメア
「僕は人形を抱きしめたかったんじゃない、締め潰そうとしてたんだってね!!」
そう叫ぶと、先輩は構えたハンマーを私に向かって思いきり投げつけた。
「カル!!」
何処からともなく私の名前を呼ぶ声。そして、目の前でゴンと何かがぶつかる音がした。
「あっ……!」
私の前には、魔物の姿になったトトさんがいた。
トトさんは必死な形相をしながら、両手で巨大なハンマーを受け止めている。
更に此処で周囲に結界を張ったらしい。空が異様に暗くなり、町から更地の景色に変わった。
「おやおや君は羊屋さんの友達の夜上さんじゃないか!こんな所で会うなんて奇遇だね!」
「奇遇?何言ってんだい!あたしがカルと別れた後、先輩がカルの後を尾けて歩く姿を見たもんだから、こっそり後を追ってみればこんな事に……!ふん!!」
トトさんは掴んだハンマーを先輩に投げ返した。
「よっと!」
投げ返されたハンマーを余裕でキャッチした先輩は、物珍しそうな顔でトトさんを眺めた。
「ナイスキャッチ!へぇ〜、君もそれなりにやるみたいだね!」
「うるさいねぇ……あんた、いつものクールぶった態度は何処いったんだい?」
「え?ああ、あれは可愛い子を集める為のやつだよ!ああやってカッコよくしてたら勝手に可愛い子が僕に会いに来てくれるからさ!ねぇ、そろそろそこをどいて羊屋さんに会わせてくれないかな?」
「断る!カルに近寄るんじゃないよ!」
トトさんは叫びながら、片手から紫色に輝く火の玉を何発も撃った。
「ほいほいほいっ!」
先輩は楽しそうにハンマーを軽々と振り回して火の玉を打ち返していく。このピエロは一見ふざけているように見えるが、中々にやるようだ。
「とんでもない奴……!こりゃ一筋縄ではいかないみたいだね……」
「トトさん……!」
「カル!手出し無用だよ!そこで見てな!」
トトさんは更に紫色の槍のような物を先輩に向けて飛ばした。
「あははっ!こんなもんお茶の子さいさ〜い゛っ゛!?」
相手が槍をハンマーでへし折った所で、先輩の足元から無数の槍が飛び出し、先輩の体を貫いた。
「よし!この隙に……カル、行くよ!」
トトさんは私を抱えて瞬間移動し、結界の外へと避難した。
「何処行くの?」
「!?」
だが、瞬間移動した先には既に先輩が待機していた。先程まで串刺しになっていたのが嘘のようにピンピンしている。
「そっちはもう終わり?じゃあお次はこっちから行くよ!!」
そう言うと先輩は、奇妙な姿勢から思い切りジャンプし、空からトトさんに飛びかかった。先輩は回転しながらトトさん目掛けて落下していく。
「ふん!この程度なら避け……」
だが、途中で先輩の姿が消えた。
「何っ!?……なんて言うと思ったかい!!」
先輩が瞬間移動した事は既に理解済みだったトトさんは、感覚で移動先を予測し、背後に向かって両手を突き出した。
「おわっと!」
トトさんの予測通り、背後に先輩が現れた。先輩は驚き焦り、両手を上げて降参のポーズを取っている。
だが、現れた先輩は両手にハンマーを所持していなかった。
「は?」
そんな呆気に取られるトトさんの背後から、回転しながら勢いを増して飛んでくるハンマーが。
「危ない!」
流石にあのハンマーを食らったら流石のトトさんも危ない。とりあえずハンマーを回避させる為に時を止めた。
時は止まり、ハンマーも先輩も停止した。
「大丈夫ですか!?」
「あたしは大丈夫だよ。すまないね、カルにはブサマな姿見せちまったね……」
「いえ、彼がトリッキー過ぎるだけです。あんなめちゃくちゃに動き回る敵をまともに相手するのは難しいですよ」
「はぁ、それにしてもあいつの正体は何だろうね……あたしはあんな魔物、見た事無いよ」
「私は覚えがあります。先輩の正体はナイトメア。恐らく、子供達が抱いたピエロへの恐怖や様々な負の感情が混じり合って生まれた存在……だから、執拗に可愛いモノを苦しめようとしていたのでしょう」
私は念の為に、此処で魔王の姿に戻った。
「なら、これ以上迷惑かける前にあのピエロを捕まえないといけませんね」
トトさんは魔王の私を見て更に気を引き締めた。
「はい。ですが、ナイトメアは一瞬で世界の隅から隅まで移動出来ます。例え瓶の中に詰められようが、金庫の中に閉じ込めようが、余裕で脱出出来ます」
「特殊な魔物なんですね……」
「はい。ですが、もしナイトメアが私達に敵わないと判断したら、あっという間に此処から逃亡されてしまうでしょう」
「げ……何処までもうざったいやつ……」
「ですが、ナイトメアの動きを封じる事は可能です。昨日、トトさんが勇者達を追跡する為に生み出した夢魔です」
「夢魔……はあ、成る程。夢をどうにか出来る奴らなら、悪夢であるナイトメアを捉える事が出来るってわけですね」
「その通りです。夢魔にナイトメアを捉えさせ、その隙に相手を完封します。ですが、その為には夢魔がナイトメアを抑えるほどの力が必要になります」
「……まさか、今から夢魔を強化する気ですか?」
「はい。時間停止は持って3日です。その間に夢魔を徹底的に強化します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます