第3話 私と友達になりたい人の正体は魔物でした

「夜上さん、降参するなら今の内ですよ」


 力を解放して身構えた私を見た夜上さんは、嫌そうな顔をして再びため息を吐いた。


「はぁ……ま、いっか。こっちには奥の手があるし……ねっ!」


 夜上さんは指先から鋭い爪を伸ばし、背中から黒いコウモリの羽のようなものを伸ばすと、その場から一気に羽ばたいて私に突撃してきた。



 私はスーツ姿の魔王の姿に戻って世上さんを素手で迎え撃った。


「はぁ!?あんたも魔物!?しかも男だったの!?」


「この姿の時の私は、どちらかと言うと性別は無いに等しいですね……少々ガタイがいいので男性だと思われる事は度々あります」


 私は返事を返しながら手に軽く力を入れ、夜上さんを押し返した。


「ぐっ……!」


 夜上さんは後方に吹っ飛び、姿勢を崩しつつ地面に着地した。


「力で勝てないなら魔法で……!はあっ!」


 周囲に漂う僅かな魔力と、夜上さんの体内から滲み出た魔力が両手に集まっていく。集まった魔力は紫色に輝く火の玉に変わり、私目掛けて飛ばしてきた。


「高難易度の魔法……なのにこの威力ですか。どうやら今の貴方は本調子では無いようですね……」


 私は音を立てて飛んで来た火の玉を手で軽く払った。火の玉は地面に着弾し、コンクリートが焼けて穴が空いた。


「あたしの魔法が……!?あんた一体何者なの……?」


「名乗る程ではありません。夜上さん、失礼ですが何故私を襲ってきたのか……」


「うるさい!あたしにはもう時間が無いの!!」


 どうやら彼女はかなり切羽詰まっている様子だ。


「あたしが所持する魔力よりもあんたの魔力が上……なら、こうするまで!」


 夜上さんは体内から放出した魔力を自身の両手に集め、先程よりも更に大きくて輝きの強い火の玉を作り出した。


「これが今のあたしの全力……!後であんたから魔力を回収すれば十分お釣りが帰ってくる!」


「必死ですね。貴方にはどうしても魔力を集めないといけない理由があるようで……」


「悪く思わないで!これもあたしが生きる為!」


 そう叫ぶと夜上さんは、両手から生み出した火の玉を全力で私にぶつけてきた。


 火の玉は螺旋を描きながらこちらに向かって高速で飛んでくる。


「そのまま吹っ飛べ!!」


「実に素晴らしい魔法ですね」


 精密に練られた綺麗な魔法だ。この魔法を先程のようにその辺に捨てたら周囲は大変な事になるだろう。


「失礼します」


 なので、私はその魔法を脚で思い切り蹴り上げた。


 蹴られた火の玉は空へ空へと昇っていき、やがて眩い光を発しながら爆散した。


「そ、そんな……!?」


 渾身の魔法を弾かれ、体内に蓄えていた魔力も全て失い翼も爪も消えてしまった夜上さんは、へなへなと力無く地面にへたり込んでしまった。


「今まで蓄えた魔力全部消えた……目先の魔力に釣られて全部……こんな事なら最初から戦わなければよかった……」


 夜上さんは完全に戦意喪失したようで、ずっと後悔ばかりを口にしている。


「夜上さん、失礼を承知の上で尋ねたいのですが……」


 私はどうしても夜上さんの目的を知りたかった。しゃがんで夜上さんに目線を合わせ、人を襲って魔力を蓄えていた理由を尋ねようとした。


「……と、思いましたが、どうやら先程の花火で虫が集まって来てしまったようですね」


 強い魔力を持つ人間がこちらに向かって走ってくる気配がする。この魔力からして相手は只者では無い事は確かだ。


『カル様、この世界には微力の魔力しか無いから、魔物やそれを狩る冒険者も居ないんでしたよね?なのに、遠くから歴戦の冒険者の気配がするんですが……』


「十中八九、冒険者と見て間違い無いでしょう」


「冒険者……きっとあいつらだ……殺される……」


「アイツら……?」


「前世が魔物だからって理由で、あたしを殺そうとした前世持ちの人間……『勇者エス』だ……」

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