第2話 私と友達になりたい人が現れた
私の名前は
折角だから学園生活を満喫しようと意気揚々と学校へと向かったのですが、教室手前で私自身が『極度の人見知り』である事が急に発覚しました……
『カル様、とりあえず教室に移動しましょ?早く行かないと授業始まっちゃいますよ?』
「そ、それもそうですね……」
メエさんの必死な説得に応じて屋上から降り、魔法で時が止まった校内をビクビクしながら歩く。
「ひ、人が沢山いる……」
『教室の前までは平気でしたよね?いやはや、まさか人と会うのが嫌だからって時止めて歩くとは……カル様がその気になれば、こんな人間なんかあっという間でしょ?何故そんなに人間に怯えるんですか?』
「ダメなものはダメなんですぅ……」
『……カル様、例え1人でも学校生活は送れるでしょうし、無理に友達を作ろうとしなくても大丈夫だと思います。ですが、せめて挨拶は返せるようになった方がいいかと……今のカル様ではまともに返事出来ないでしょうし……』
「は、はい……確かに、挨拶が返って来なかったら悲しいですもんね……」
『その通りです!と、言うわけで……』
メエさんは廊下を走って私のクラスに入り、会話をしたまま停止した女子グループの輪の中心に入り込んだ。
『とりあえずこの止まった人達を相手に挨拶の練習をしてみるのはどうですか?ボクが一般人のふりをして挨拶するので、カル様はそれに挨拶を返してください!』
「わ、分かりました……」
私は恐る恐るクラスに入ると、メエさんがいる女子グループに恐る恐る近付いた。
『あ、カルさんおはよー!』
「お、おはよう……ございまじゅ……」
まともに声が出せない上に噛んでしまった。
『……それだと声が小さ過ぎて相手に聞こえませんね』
「うぅ……」
途端に恥ずかしくなった私は、魔法で自身の存在感を極限まで消して時間停止魔法を解除した。
周りが再び動き出し、辺りが騒がしくなる。だが、周りの皆んなは私の事を一切気に留めていない。今の私は存在感が薄いので周囲の人間は誰も気付けないのだ。
「今日はこれで過ごす事にします……」
『えぇ……』
私はずっと存在感を消したまま学校生活を送り、そして放課後となった。
私はメエさんと一緒に帰りの通学路をとぼとぼと歩く。
「た、大変だった……」
魔法は簡単にこなせるのに、人の群れの中で生活するのがこんなに大変だったとは……
『……カル様、ボクは魔法でも何でも使って安全に学園生活を送るのはありだと思ってます。ですが、学校に通う事でカル様に不要なストレスがかかる事だけはどうしても看過できません……今からでも遅くありません。もう田舎に戻りましょう』
「いえ、頑張れる所まで頑張ってみます……!」
『カル様ったら……変な所で頑固なんだから……』
と、メエとそんなやり取りをしていると、後ろから忍び足で歩いてくる女子高校生が1人。
女子高校生は何故か私に向かってゆっくり進んでいる……
「わっ!!」
「ひゃいっ!?」
突然、女子高校生が大声を出しながら私の肩を叩いた。こちらに来ると分かっていたが、思わず変な声を上げて驚いてしまった。
「あはは!ごめんごめん!かわいかったからつい驚かしちゃった!」
私と同じ学生服で、髪はセミロングの元気そうな女子がケラケラ笑いながら話しかけてきた。
「だっ、誰ですか……!?」
「あ、初めましてだったね!あたしの名前は
「えっと……よ、宜しくお願いします……」
「宜しく〜!で、そっちの名前は?」
「あっ、わ、私の名前は羊屋可留です……」
「カルちゃんだね!宜しく〜!」
「よ、宜しくお願いします……」
何故この人は私に話しかけてきたのだろう……
「あー、カルちゃんと話せて良かった!学校でめちゃくちゃ可愛い子が居るな〜って思ってさ、友達になりたいから急いで追いかけて来たんだよ!」
「えぇ……?」
この人は何が狙いなのだろうか。私は思わず身構えてしまった。
『カル様!これは学校の友達を作るチャンスですよ!』
「(いや、この人はちょっと……)」
『まだビビってるんですか!?貴方は魔王国に攻めて来たドラゴンの群れを討伐する為に軍を率いて戦いに赴いたものの、結局カル様1人でドラゴンを全滅させたので兵士達が手持ち無沙汰になった結果、後の予定をドラゴン討伐からピクニックに変更した伝説を作った人が、一般人相手に何故怯えているんですか!?』
「(そもそも、この人はどう見てもカースト上位……いわゆる一軍女子って奴です……私とは住む世界が違いすぎます……!)」
『軍を率いていた貴方が何今更一軍相手にビビってるんですか!?一軍なんてどうって事ないでしょ!?』
メエさんは必死になって私を説得するが、私はこの人がただ友達になりに来たようには見えなかった。
今の私は気配が薄いから人には認識出来ない筈なのに。
何故この人は私が見え、話ができているのだろう。そして何が狙いなのだろう。
「ねえねえ、握手していい?」
「えっ……何故ですか?」
「何となく!ね、いいでしょ?あたし、カルちゃんの可愛い手、触ってみたいな!」
「え、えっと……わ、分かりました……」
私は軽く頷き、私に伸ばしてきた手をそっと掴み……力強く握りしめた。
「あだっ!?」
夜上さんが手を離した隙に、私は後方に飛び退いて夜上さんから距離を取った。
『カル様!?一体何を……うわっ!?何か地面が光ってます!』
夜上さんから離れた瞬間、私が立っていた場所が急に輝いて地面に魔法陣が現れた。
(これは誘惑魔法……?随分と威力が弱いから発動前まで気付かなかった……)
恐らく、私と握手してその場から離れられなくなった瞬間に誘惑魔法を発動させようとしたのだろう。
私はこの程度の魔法なら一切効かないが、念の為に罠を避け、相手の様子を見る事にした。
「……あたしの罠に気付いてたね?まさかあんたも前世持ち?」
先程まで満面の笑顔だった夜上さんから笑顔が消え、真顔で話し始めた。
「そんな所です」
「何処で気付いたの?」
「最初からです。何故、貴方が私に話しかけられたのかずっと疑問でしたが、今ようやく理解しました」
今の私は存在感が薄いから、『普通の人間』ならまず私に気付く事すら出来ない筈だ。
「魔法陣から滲み出る魔力でようやく理解しました。貴方、魔物だったんですね」
私がそう告げた途端、夜上さんが目に見えて不機嫌になった。ため息を吐きながら私を睨みつけている。
「はぁ……気弱でチョロそうなぼっちかと思ったから声かけたのに……随分と面倒な奴に声かけちゃったかも」
「私も随分と舐められたものですね。あの魔法陣と今の貴方の状態から察するに、私から魔力を搾り取ろうとしたのですよね?」
魔力から察するに、夜上さんは魔人系の魔物だろう。しかし、魔法を扱える魔物なら必ず所持している筈の魔石の気配が無かった。
魔石は魔力を作り出す装置のようなもの。恐らく魔石の無い彼女は、自分で魔力を作れないので他人から搾取するつもりだったのだろう。
「……うざ」
「その態度から察するに、どうやら図星のようですね」
「あーあ!あんた弱くて馬鹿そうな見た目の割に魔力持ってるから格好の餌だと思ってたのに!」
「ありがとうございます、褒め言葉として受け取っておきます」
「くそっ!ムカつく!!」
『この魔王、相手が魔物だと分かった途端ペラペラと喋りだしたよ……』
ボソリと呟くメエさんを尻目に、私は幾らか力を解放して身構えたのだった。
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