第37話 名探偵もビックリの、名推理!
また眠気が戻ってきたのか、レティのまぶたが重そうに落ちかける。
何度もまばたきをするまぶたをぼんやり見つめていると、まるで寝言のようにレティは言った。
「おかしいですよねぇ。勇者様はいないのに、使者を迎え入れるなんて」
「そう、ね……」
「だから私、調べてみたんです」
「えっ」
「そうしたら、どうやら勇者様はすでに見つかっているようで……」
「ええっ」
「やっぱり、驚きますよねぇ。それならそうと、追放を撤回するべきじゃないですか。なのにどうして、誰も何も言ってこないんでしょう?」
「どうしてかしらね? でも、私は困っていないから構わないというか、なんというか……」
「んもう。そんなこと言っていると、一生ここで暮らすことになりますよ? って、ああ、そうか。姫さまはそれがいいんでしたね」
「ええ、そうね。できれば」
急転直下の展開に、ベルの気持ちが追いつかない。
なぜ、どうして、と馬鹿みたいにそればかり繰り返し思って、先の見通しを立てる余裕さえなかった。
(水くさいじゃない)
一周回って、怒りすら湧いてくる。
もう見つかっているといううわさが流れているということは、すでにケイトと接触しているということに他ならない。
せめて、帰る前には相談というか、それが無理でも、そういうことがあったよ、くらいの報告をしてくれるものだと思っていた。
(それさえも、私の思い違いだったっていうの?)
馬鹿だなぁと思った。
とんだ勘違い女だなぁ、とベルは自嘲の笑みを浮かべた──のだが。
「……んん? 姫さま、大丈夫ですか?」
いつも自信満々に生きているようなベルのはじめて見る表情に、レティはギョッと目を剥いた。
「え、どうして?」
答える声は、まるで震える小鹿のように心許ない。
一体なにが彼女をそうさせるのだろう。
感染するみたいに、レティも不安な気持ちになってくる。
「どうしてって……だって姫さま、すごく不安そうなお顔をしていますよ?」
「気のせい、じゃないかしら」
気丈に振る舞っていても、レティの姫さまはまだ年若い。
時折魔王城を見ては寂しそうにしていることを、レティは見ないフリをしていた。
「んもう……そんなわけ、ないじゃないですか。一体どれだけ一緒にいると思っているんです? 私には、姫さまの考えることが手に取るようにわかりますよ」
「え……あの……うそ……本当なの、レティ⁉︎」
レティの言葉に、ベルは挙動不審に慌てふためいた。
こんな姿も、初めて目にする。
「ずばり! 人の国からの使者と貿易の交渉をして、人の国の食材が地の国でも流通するようにするつもりなのではありませんか⁈」
名探偵もビックリの、名推理!
仁王立ちして胸を張るレティに、ベルは「はは」と乾いた声で笑った。
(バレたかと焦って損したわ)
見当違いだ。
ベルは、そんなに高尚なことを考えていない。
(そうよ、私はそんなこと考えてもいなかった。魔王城にいた頃の私だったら、まっさきに考えていたでしょうに。それが今は、こんな、こんな……!)
ベルは制御不能になった感情のまま「あ────‼︎」と叫んだ。
耳をつんざくような叫び声に、レティは悲鳴をあげて獣耳をふさぐ。
「やっぱりさっさと逃がしておくべきでしたわ!」
そうは言っても、もう手遅れだ。
わかっている。わかっているけれど、でも。
「今からでも、やってやる!」
ベルは全身をブルブル震わせながら、決意に満ちた目でレティを見た。
ゾワリと背中を這い上がる怖気に、レティは姿勢を正す。
「レティ。悪いけれど、もう一度魔王城へ行ってきてちょうだい。そして、人の国の使者の中で一番偉い人を見繕って、私が会えるようにセッティングしてきて。そうね、もしも勇者の仲間がいたらその人が一番いいわ。いなかったら、一番偉い人で。わかった?」
「ひゃいっ!」
ベルの背後から、強烈な魔力がもやとなって吹き出している。
怒った時の魔王さまそっくり、とレティは震え上がった。
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