エピローグ
後日譚
————目覚ましが、鳴っている。
目を開かぬまま手を伸ばしそれを止めた由梨花は、二度寝しようとした目を擦り、ベッドから起き上がった。 今日は特に予定もないけれど、早起きに損などあるはずもない。 器に盛ったグラノーラに牛乳を注ぎながら、テレビを点けた。
画面の奥では、事実を事実のまま話した単調なニュースが放送されている。 何の面白みもないけれど、日課に従って椅子に腰掛け、チャンネルを変えた。 どうでもいいものの中から、よりどうでもいいものを消去法で消していく。
窓の外に目をやると、見慣れた景色が広がっている。 由梨花が綺麗だと思う景色の中に住む人からしたら、こんな眺めも綺麗なのだろうか。 ニュースキャスターの声が耳を通り抜けているのを気にもせず、スプーンを進めた。
朝食が済めば、いつも通りに本を読む。 本と言っても物語ではなく、エッセイ本やその類で、読むだけで何かしら役に立つらしい。 これと言ってそんな憶えはないものの、淡々と読み進めた。
読書に飽きれば仮眠をとり、目覚めれば間食を摂り。 それが終わればまた本を手に取った。 完全に流れ作業化している習慣が、無機質に由梨花の行動を制御している。
昼になればキッチンへ行き、作り慣れたスパゲティを作った。 ソースも麺の茹で時間も、アレンジなど加えずそっくりそのまま繰り返している。 だから、いつ作っても、口に入れればいつも同じ味がした。
こんなくだらない生活をするようになったのは、いつからだっただろうか。 周りからは心配する声も、憐れむ声も聞こえない。 それも当然だ、無機質が無機質を批判も嘲笑もするはずがない。
そうこうしている内に、呆気なく日が暮れてしまった。 由梨花はソファに座り、携帯を片手にSNSを開いた。 こちらもあったことがありのまま記されていて、実につまらない。
けれど、昨日までこの時間にそうしていたから、今日もこの時間にそうするだけなんだ。 そこに意味も意義も最早無い。 ただ、毎日同じことを繰り返すだけ。
——ふと、窓の外がパッと明るくなり、爆発音のような、銃声音のようなものが聞こえてきた。 外に目を遣ると、次々に舞い上がる火花が空中で弾け散り、七色の光を放っている。 それは、普段の生活には無い、けれど確かに見たことのあるような万華だった。
「花火か・・・」
次々に空で咲いていくそれを眺めていると、ずっと忘れていた何かを思い出すような、懐かしい気持ちになった。 少し耳障りに感じていた音も、体の奥底まで響いて心地よい。 自然と由梨花の顔に笑みが浮かんだ。
「最後に行ったのって、もう十数年も前だっけ」
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