第1章第1話

erase erase erase me erase, Jesus.,







* * *




機械仕掛けの部屋にうずくまって心を寄せる。


優しい世界。


永遠に午後の島。


くるみこまれる。


埋葬。




僕は息をひそめ。


目を覚ます。









……あれは過去の扉。


くぐれば追憶は潰されて、ゼンマイは金切り声をあげて逆回転を始める。


過去は止められないと、僕を責めたてながら、ヒステリックにぐるぐる回る。




『さあ、儀式を始めよう』







* * *





黒い僕がまどろみから解き放たれ、あの庭に立つ。


大きな大きな、一枚の鏡がそこにはあった。人ひとり映しても余る鏡が。


黒い僕が鏡の前にいる。


鏡は景色を映し出し、目の前にいる黒い僕を映しはしない。黒い僕は不思議そうに鏡の景色を指でたどる。


風が騒いだ。僕は動き出す。


黒い僕は、もう一人の僕ですらないと知っている。


だから、見えている今、消さなければ。


僕は──自分は二人もいらない。


自分はただ、自分一人があればいい。


自分が自分であるために互いに喰らいあう現実はいらない。


だから、彼の背後に身を寄せた。


そうして、言葉を紡ぎながら抹殺の手を伸ばす。


「……お前はここには映らない」


色素の落ちた彼の髪からは僕と同じ匂いがした。僕の手は髪をかすめて彼の首に絡む。


「この世界には、お前なんてどこにもいない。……お前は、ここでは生きてなんかいない」


言葉を失う彼の代わりに風は問いかける。


どこにも居ないものが生きてもいないものなら、まだ生きていないものはどこに居るのだろう、と。


僕は全てを黙殺して、彼をも殺す手に力を籠める。


「……だから、もう消えないと」


黒い僕は呼吸を握り潰されて力を失う。


風は僕の正面からぶつかり、けれど僕に傷ひとつつけることはできずに疑問だけを遺す。


それが今ここではないのなら、ここは一体何だというのか、と。


「……バイバイ」


僕に答はないから、僕はただ、僕に別れを告げた。僕を脅かすかもしれない僕に。僕の代わりに愛されるかもしれない僕に。


黒い僕が死に至らしめられた世界は唄う。




『子どもたちに祝福を』




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