第3話 これは、夢……?

 朝、目覚めると、見慣れた天井がそこにはあった。

「病院……?」

 私が元の世界で嫌というほど見た白い天井。

 そして、私は病院の白いベットに横たわっている。その隣りにあるカレンダーを見ると、私の命日の1日後だった。

「それにしても、やけに暑いな。病院はここまで熱くなかったはず。なんか、まるで動物が私と一緒に寝てるみたいな……」

「くぅーん」

「く、くーちゃん?!」

「くぅーん!」

私が驚いて名前を呼ぶと、くーちゃんは嬉しそうに飛び跳ねた。

「もぉ、朝からどうしたの?」

隣には眠たそうにしているフェンリルさんがいた。

「あれ、もしかして、成功しちゃったかぁ~」

フェンリルさんは少し嬉しそうにあくびをしなが言った。

「成功って、何の話ですか?」

「玲奈ちゃんを~、元の世界に返す魔法~」

「魔法、ですか。」

いまいちわからない。魔法というと、傷を直したり、水とか火を出して戦うようなイメージしかない。どれもこれも、アニメの中の世界の話だが。

「そーそー。魔法!魔法陣っていう丸いやつ書いて、うおぉーってやると、ぽんってなるの!」

うおぉー?ぽん?何を言ってるのかさっぱりわからない。

「フェンリルさん、語彙力どこにおいてきたんですか?」

「ごいりょく……?」

「は、ハイ」

「魔法使ったらきえちゃった~!」

「えぇ?!?」

「まぁ、じょーだんだよ〜!」

「本当ですか…?」

「うんうん♪」

語彙力がなくなってないなら良かった。いや、それよりも、どうして私を元の世界に戻したのだろうか。

「玲奈ちゃん、元の世界に戻れた感想は?」

「嬉しいけど、少し寂しいです。というか、どうして急にこんなことをしたんですか?」

「私のことを、思い出してもらうため☆」

「フェンリルさんを?私達、前に会ったことありましたっけ?」

「やっぱり、そうなっちゃうよね」

フェンリルさんは、なにか大切なものをなくしてしまったときの子供のような顔をした。

もしかしたら、少し忘れてしまっていただけですぐに思い出せるかもしれない。

「昔の記憶…」

そして私は、この世界にいたときのことを思い返してみた。

病院にいた時の記憶

学校に通っていた時の記憶。

そして、小さい時の記憶。

(小さい頃は、あの公園で女の子と遊んでたなぁ)

たしかあの子の名前は─

 思い出せない、あの子の名前だけ。いや、顔も思い出せない。あの子にだけ白い煙のようなものがかかって見える。

だけど、とっても優しい顔をしているということだけはわかる。雰囲気がフェンリルさんに似ている。

あの子は、フェンリルさん…?



「あの子…」

「玲奈ちゃん?どうしたの?うなされてたよ?」

フェンリルさんが心配そうに私のことを見つめている。

そして、私は嫌な感じの汗をかいてしまっている。

「フェンリルさん!ここはどこですか?」

「私のお家だよ?」

じゃあ、さっきのは、夢?

でも、夢にしてはリアルすぎた。

「とりあえず、お水でも飲んで落ち着いて?」

フェンリルさんが半分くらい水が入っているコップを渡してくれた。

「ありがとうございます。なんか、すみません。」

「謝ることなんてないよ~!」

フェンリルさんは、いつも通りやさしい。

「まだ少し眠いので、寝ててもいいですか?」

「もちろんだよ〜!くーちゃんのお世話は任せてね〜!!」

そして私は再び眠りについた。

さっきの夢の続きを見ることはなかった。


窓の外を見ると、もう夕日が沈みかけていた。

ぐぅ〜

あ…

そういえば、今日は何も食べていなかった。

「ご飯、食べに行にいく?」

隣でずっと見守ってくれていたフェンリルさんがそういった。

「食べなきゃ死んじゃいそうです。食べに行きたいです!」

「わかった!!今日はそうめんでもいい?」

「そうめんもあるんですか!?もちろんです!」

「今日はどこに取りに行くと思う?」

「うーん。そうめんと言ったら流しそうめんだから、川とかですか?」

「だいせーかい!」

フェンリルさんが手で大きな丸を作ってくれた。

「早速、川にいこ~!」

「はい!行きましょ行きましょ♪」


家を出てからほんの数分。川はすぐ近くにあった。頑張れば家も見えてしまいそうな距離。

そして、川の中に白くて太くて長いものの集団?があるように見える。

「この白いのが、そうめんですか?」

「そーだよ〜!」

どうやら、この世界のそうめんは私のいた世界よりも太いようだ。うどんと同じか、それ以上にくらい太い。

「でもね、このまんまじゃ食べられないんだ〜」

「茹でたりするんですか?」

「ごめーとー!」

「茹でるもの、持ってきてるんですか?」

フェンリルさんが目を泳がせ始めた。

「フェンリルさん…?」

「ちょっと、家に戻るね。玲奈ちゃんはここで待ってて!」

やっぱり持ってきてなかった。

フェンリルさんが走って家に戻っているとき、それなりに年をとったおじいさんがやってきた。

その人は大きな荷物を背負っていて、杖をついていた。

(旅してる人かな?)

「ここじゃ見ない顔だねぇ…」

いきなり話しかけられた。

「えっと、あなたは…?」

「すまんすまん。まずは自己紹介をしなければだめじゃな!わしは旅をしている妖精じゃ。」

 妖精と言われると羽が生えてて、もっと小さくて、可愛い女の子っていうイメージがあった。

 しかし、この妖精はどこからどう見ても年老いた人間だ。でも、おかしいとは感じない。なぜなら、ご飯が歩いちゃうような世界だから、なんでもありだと思ったからだ。

「お名前は?」

「名前はないぞ?」

「では、なんとお呼びしたら…?」

「妖精さんでも、おじいちゃんでも何でも良いぞ?」

妖精さんと呼ぶのはなんか抵抗があるな…

「で、では、おじいちゃんで…」

「お、おじいちゃんと読んでくれるのかい?!」

「まぁ、はい。」

「わしはうれしいぞ!」

おじいちゃんは無邪気に飛び跳ねた。

グキグキッ

「いてててて…」

「…大丈夫ですか…?」

「少しここで休ませてもらってもいいかい?」

「もちろんです。」

「そういえば、お主の名前を聞いていなかったのぉ」

「私は玲奈です。」

「玲奈か。かわいい名前じゃのぉ」

「えへへ。ありがとうございます。」

ずさぁー

「いま、誰かがこけた音がしたような...」

後ろを見ると、フェンリルさんがなにもないところでこけていた。

「おねえさん、だいじょうぶかの?」

「フェンリルさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。玲奈ちゃんと、そちらのおじいさん、心配してくれてありがとうございます」

フェンリルさんは服についた砂埃を払いながら立ち上がった。

「それならよかったです。」

「一応わしは、応急手当ができるものくらいは持っているから、必要だったら言うのじゃよ?」

「親切にありがとうございます。私はフェンリルって言います。あなたは、妖精ですか?」

「わしが妖精だってことか分かるのか?」

「妖精独特の雰囲気を放っていたので。」

「フェンリルさんは、もしかしなくても、ものすごくすごい人ですか?」

「ものすごくすごい人だよ!」

「ところでフェンリルさん、茹でるための容器は持ってきてくれたんですよね?」

「勿論!」

「おぬしたちは今から食事なのか?」

「そうです!おじいちゃんも食べますか?」

「お言葉に甘えてもいいかの?お腹が空いて、今にも倒れてしまいそうなんじゃ」

「そ、それは大変ですね!玲奈ちゃん、急いでそうめん茹でるよ!」

「はい!」

「私が火を起こしてる間に、網でそうめん取っといて!」

「了解しました!おじいちゃんはゆっくりしててくださいね!」

「ありがたいのぉ。」

「えっと、網で取るんだよね」

川の中にそっと網を入れた。そして、そうめんがたくさん集まったところで編みを引き上げた。これで3人前くらいは取れたのではないだろうか。網いっぱいにそうめんが入っている。

「───────」

フェンリルさんが呪文のようなものを唱えている。

もしかして、火を起こす魔法でも使っているのだろうか。

ぼっ........ぱちぱち、ぱちぱち.....

「そんなふうに火がつくんですね!」

「そうだよ!すごいでしょ〜。玲奈ちゃんの方は大丈夫そう?」

「バッチリです!…ほら!」

そうめんがたくさん入った網をフェンリルさんに見せた。

「お!ちゃんと3人分はあるね!じゃあ早速この鍋の中に川の水を入れて…」

フェンリルさんは川の水を鍋の半分くらいまで入れた。

「そして次は火の上に置く!」

「どのくらい待つんですか?」

「このそうめんは太いけど、新鮮だから、1分くらいでいいと思う!」

(新鮮な、そうめん....)

今までに聞いたことがない言葉だった。


〜だいたい1分後〜

「そろそろ大丈夫そうだね〜」

「お皿ってありますか?」

「お鍋と一緒に持ってきたよ〜!あと、お箸も!」

「ではさっそく取り分けましょう!」

「そうめんができたのかい?」

「そうです。どのくらい食べますか?」

「1人前はほしいかのぉ」

「わかりました!」

お皿に1人分のそうめんを手で盛った。フェンリルさんが水につけてくれていたため、少し冷たくなっていた。

「どうぞ!」

「ありがたいのぉ。」

そして、私とフェンリルさんの分のそうめんも盛った。

「「いただきます!!」」

つるつるっ…

もぐもぐ…

「ツルッとしてて、もちもちしてて、とっても美味しいです!」

「ここのそうめんは美味しいのぉ」

「でしょ!ここはね、あんまり人が来ないから穴場なの!」

「こんなに美味しいなら、もっと人が来てくれてもいいと思いますが…どうして来ないのですか?」

「そもそも、ここらへんの森に近づいてくる人はあんまりいないの。」

「そうだったのですね。でも、どうして近づく人があまりいないのですか?」

「それは、ちょっと言えないかな…?」

「そうですか…」

「そんなに落ち込むでない。誰にでも、言いたくないことの1つや2つはあるじゃろ?」

おじいちゃんが肩に手を乗せ、優しい口調でそう言ってくれた。

「たしかに、そうですね。」

私は、なぜ人があまり近づかないのかは気にしないようにすることにした。


「ごちそうさまじゃ。わしはそろそろ出発することにするかのぉ」

「ごちそうさまです。おじいちゃんはこの後は何処へ行くのですか?」

「暫くの間は、この森の近くにいようと思っておるぞ。」

「それなら、また会えるかもですね!」

「そうじゃな。ふたりとも、親切にしてくれてありがとう」

おじいちゃんは微笑み、一礼してから私達に背を向けて歩いていった。

「お気をつけて〜!」

「また何かあったらきてください!!!」

おじいちゃんは少し振り向き、大きく手を振ってくれた。

グギッ゛

「いてててて....」

「「あ......」」

「おじいちゃんを、家に連れていきましょうか。」

「そうだね〜......」

フェンリルさんと私の二人で肩を貸しながら、おじいちゃんを家に連れて帰った。








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『ご飯』が歩く異世界に行ってしまいました коко @koko_099

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