第2話 天ぷらは海で泳ぎます。

 今、私とフェンリルさんは海にいる。なぜなら、フェンリルさんの思いつきで何故か連れてこられたからだ。



「玲奈ちゃん!海に行こう!!!」

「フェンリルさん!?朝から急にどうしたんですか?!」

「ほら、そんなことは気にしないで、早く着替えて!」

フェンリルさんは私に着替えを押し付けてきた。

「………」

そして、私はとりあえず着替えた。

着替え終わると、フェンリルさんはもうすでに出かける準備が終わっていた。

フェンリルさんに手を掴まれ、そのまま歩いて海まで行った。

 そして、今に至る。

「どうして急に海なんかに来たんですか……?」

「天ぷらを食べたかったからだよ?」

フェンリルさんは当たり前かのようにそういった。

「じゃあ、わざわざ私を連れてこなくったって……」

「そっかー。玲奈ちゃんは泳ぐ天ぷらには興味ないのか~」

「すっごく天ぷらを食べたくなってきました!」

上手くのせられてしまった。でも、仕方のないことだ。泳ぐ天ぷらをに興味がない人なんてきっといない。

「それじゃあ、海に取りに行こうか!」

そして、魚をとる網のようなものを渡された。

「これで泳いでる天ぷらを獲ってね」

「天ぷらが泳いでるというのは想像できませんが、とりあえずやってみます!」

「えらいえらい。その網を海に向かって投げて~!」

私は言われたとおりに編みを投げた。

「えいっ!」

すると、みるみるうちに魚のようなものがそこに溜まってきた。

「そろそろ引き上げたほうがいいかも~」

私が網をなんとか引き上げると、たくさんのカリッと揚げられた生物がピチピチとはねてた。

「大漁だねー!」

「すごく、元気ですね」

「でしょでしょ〜。ここの天ぷらは、生きがいいことで有名なの!」

生きのいい天ぷらなんて言葉、聞いたことない。

 ただ、美味しそうだとは思えた。

「すごいですね、色々と。」

「ふふん♪」

フェンリルさんは自慢げに鼻を鳴らした。

「じゃ、お皿に盛り付けるのは大変だから、このまんま食べちゃおうか!」

「え?!わ、わかりました」

お皿にもりつけずに網の中から取って食べるのには少し抵抗があったが、どうやらお皿はそもそもなさそうだったため頷いた。

(あれ、これってこのまま食べれるもんなのか…?)

「ほら、早く食べて食べて!もぐもぐ…」

フェンリルさんはいつの間にか食べ始めていた。

「そのまま食べれるんですねそれ」

「もぐもぐ………もちろん!」

「それじゃあ、いただきます」

恐る恐る編みの中に手を入れ、まだ少しだけ動いている天ぷらを取り出した。そして、しばらくの間ぶら下げていると動きは止まった。

かなり大きめの天ぷらを両手でがっしりと掴み、一口かじった。

「これは、かしわ天…?」

外はカリッとしていて、噛むたびに中から鶏肉の旨味が溢れ出してくる。とっても美味しいため、大きかった天ぷらはどんどん小さくなっていき、いつの間にか食べ終わっていた。

 そういえば、どうしてかしわ天は海にいたのだろうか。魚の天ぷらならまだわかる。しかし、かしわ天は鶏むね肉だ。

(まぁ、美味しいし、気にしないでいいかっ!)

そんなことをいちいち気にしていたら美味しいものを味わえなくなってしまうため、深く考えないことにした。

「どう?美味しかった?」

「とーっても美味しかったです。もっと貰ってもいいですか?」

「もちろんだよ~」

「ありがとうございます♪」

次は何を食べよう。かしわ天は食べたから、他のものも食べてみたい。

「これだけ小さいですね。なんの天ぷらですか?」

「それは、多分ホタテだよ~!」

「ホタテの天ぷらの取れるんですか?!?」

私はホタテの天ぷらを次に食べた。

かしわ天とは違い、小さかったため一口で食べれてしまった。

やはり外はサクサクしていた。一体何をしたらこんなにサクッとしている天ぷらを作れるのだろうか。そして、中はほろっとしている。さらに、ホタテ本来の旨さも中に詰まっていて絶品だった。

ホタテの天ぷらは5個ほどあったが、これもすぐに平らげてしまった。

そしてその後私達は、かき揚や、えび、いかなどの天ぷらをすべて食べた。どれもこれも、最高の品だった。

「いっぱい食べすぎてお腹いっぱいです。」

「やっぱり?玲奈ちゃん、すごい量食べてたもんね!あんなに美味しそうに食べもらえて嬉しかったよ♪」

そうして二人で雑談をしていると、可愛らしい小狐が私の方によってきた。

「あれ、お母さんとはぐれちゃたのかな?」

「まだ子供みたいですね。お母さん狐、探しましょうか」

「うん。暗くならないうちに見つけちゃおう!」

海の周りを見て回ったが、お母さん狐は見つからなかった。流石にこの子をそのままにしているのは気が引けたため、家に連れて変えることにした。


「もう眠いです。」

私は、重いまぶたをこすりながら言った。

「今日はいっぱい歩いたもんね。」

「くぅーん」

「この子も眠そうですね。」

「そうだね~。ていうか、ずっと『この子』って呼ぶのは可愛そうだから、名前決めない?」

「名前ですか……フェンリルさんが決めちゃってください。」

「うーん。鳴き声がくぅーんだから、『くうこ』とかどう?」

「ちょっと古い気が、、、」

「そっかー。それなら、玲奈ちゃんが決めちゃってよ!」

「『くうこ』から取って、『くーちゃん』でどうですか?」

「かわいい!採用っ!くーちゃん、これからよろしくね~」

フェンリルさんは赤ちゃんをあやすように、くーちゃんの頭を優しく撫でた。

「くーちゃん、もう寝ちゃいそうです。」

くーちゃんは目を細めていた。

「じゃあ、くーちゃんも寝ちゃいそうなことだし、私達も寝ようか。」

「そうですね。くーちゃんとフェンリルさん、おやすみなさい」

「うん。おやすみ。私はくーちゃんの隣で寝るから。」

「くーちゃんの隣は私がもらいます」

「ふぅん。それなら、じゃんけんで勝負よ!」

「望むところです!」

そうして、くーちゃんの隣をかけた熱い戦い(じゃんけん)を繰り広げた。しかし、ずっとあいこが続いたため、くーちゃんを真ん中にして3人で寝ることにした。

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