『ご飯』が歩く異世界に行ってしまいました
коко
第1話 異世界に行ったら優しいお姉さんと歩くご飯がいました。
私、玲奈は、もう美味しいご飯を食べることも、誰かと一緒に笑って過ごすこともできない。なぜなら、今の技術では直せない病にかかり、死んでしまったからだ。
ここは、どこ……?
広い草原、子供の笑い声。そして、目の前にはきれいなお姉さんが。
「ここらへんじゃ見ない顔だね〜!」
お姉さんが話しかけてきた。
「もしかして、異世界から来た人?」
「えっと、どちらさまでしょうか?」
「あーごめんごめん。自己紹介まだだったね。私はフェンリル!よろしくね。ところで、あなたの名前は?」
「あ、私は玲奈です。」
「玲奈ちゃん!可愛い名前だね!」
「えへへ、ありがとうございます。」
可愛い名前と言われ、少しだけ体が熱くなってしまった。
「そういえば、玲奈ちゃんはどこか行く宛はあるの?」
フェンリルさんは心配そうにそうにいった。
「多分、ないです。」
「やっぱり、異世界の人ってことかー!それじゃあ、私の家においでよ!」
「それは流石に……」
私は断ろうとしたが、フェンリルさんは私の手を引っ張りながら歩き始めてしまった。
「あ、あの!フェンリルさん、どこに行くんですか…?」
「んー?私の家だよ?」
「え?!でも、流石に申し訳ないです。今日初めてあったばっかりなのに……」
「まぁ、とにかく!私の家に来て!」
「は、はい。」
私はフェンリルさんの圧に負け、そのまま家に連れて行ってもらった。
フェンリルさんの家は森の中にあり、とても可愛らしい見た目だった。そして、かわいいテーブルと椅子、おしゃれなベッドなどがあった。
「ゆっくりしてってね〜!」
フェンリルさんはお茶とクッキーをテーブルに置きながら言った。
「あ、はい。ありがとうございます」
「遠慮せず、どんどん食べて!」
「それじゃあ、お言葉に甘えて…」
私はチョコクッキーを口の中に入れた。
サクサクしていて、クッキーの香ばしい香りと、チョコの甘さが口の中に広がった。
「紅茶もどんどん飲んで!」
「いい香りですね!いただきます」
茶葉の渋い感じと果実のような香りが、クッキーの甘さがとても合った。
「とっても美味しいです!これって、アップルティーですか?」
「よくわかったねー!」
アップルティーは、私の一番好きな紅茶だ。まさか、それをもう一度飲める日が来るとは思わなかった。
病院にいるときはいつも味の薄いご飯と、ほうじ茶ばかりだった。それなのに今は紅茶を飲んで、お菓子を食べている。これ程までに嬉しいことはないと思う。
「れ、玲奈ちゃん!?どうしたの?泣いてるよ…?」
「美味しくって…嬉しくって……」
私はいつの間にか泣いていてしまった。
「色々、あったんだね。」
フェンリルさんは何があったかは聞かず、私のことを優しく抱きしめてくれた。
そして、今日は温かいベッドで寝かせてもらった。
久しぶりに普通のベッドで寝れたからか、フェンリルさんとお喋りできたからか、気持ちよくねむることができた。
「玲奈ちゃんおはよぉ……」
フェンリルさんが目をこすりながらそういった。
(昨日は、フェンリルさん、他のところで寝るって言ってたはずだけど……)
「どうして私と一緒に寝ているのですか……?」
「そりゃぁ、玲奈ちゃんの寝顔が可愛かったからに決まってるでしょ〜!」
「……!?」
「もぉ~。顔を赤くしちゃってぇー!可愛いんだからぁ♡」
「か、からかわないでください!」
「むぅ、分かった…その代わり、今日はこの洋服着てよね?」
そう言ってフェンリルさんが取り出したのは、黒いワンピースと白いエプロンに、フリルなどの装飾が施されているものだった。
「さ、流石にこれは着れませんよ……」
「それじゃあ、からかうね☆」
「その洋服を着ます!」
「やったぁ!それじゃあ、着替え終わったら言ってね!」
そう言い残し、洋服だけを私に渡してから何処かへ行ってしまった。
私は、着るのにかなり手間取ってしまったが、なんとか着ることができた。
「あの~、フェンリルさんどこですか〜?」
少し大きめの声でそう言いながら家の中を歩き回った。
「あ、着替え終わってた?ごめんごめん。」
フェンリルさんは、私のをジロジロと見てきた。なにか変だったのだろうか。
「そ、そんなに見られると恥ずかしいです。変でしたか…?」
「すごく、似合ってる……!」
「ひぇ!?あ、ありがとうございます。でも、これってメイド服では……?」
「うん。メイド服だよ?」
「やっぱり、そうだったのですか……」
「嫌だった?」
フェンリルさんは、少し残念そうに言った。
私はここに泊めてもらっているわけだし、わざわざ服まで用意してもらったのだから嫌と言う訳にはいかない。すっごく恥ずかしいけど。
「い、嫌じゃないです」
「本当!?わーい!!!」
フェンリルさんはそう言いながら抱きついてきた。
「え?ふ、フェンリルさん……?」
「あ、ごめんごめん。ついつい癖で……」
少し申し訳無さそうに言っていたが、どこか満足げな表情だった。
「あ、そういえば、朝ごはんまだだったね!」
「そうですね。」
「それじゃあ、森の中でとってこようか!」
「木の実とかがあるんですか……?」
「ちがうよ?まぁ、そこは見てからのお楽しみってことで!」
そして、フェンリルさんはドアの横に立て掛けてあった剣と、小さめの茶色いカバンをもった。
「それじゃあ、森に行こうか!」
「はい!行きましょう!どんな食べ物があるのか楽しみです!!」
「そっかそっか♪森の中は広いから、はぐれないように気をつけてね!」
そう言いフェンリルさんは私の手を握ってくれた。
フェンリルさんは私よりも20cmほど背が高い為、まるでお姉ちゃんのようだった。
そして、森の中を歩くこと5分程度。見たこともないような生物に遭遇した。
フェンリルさんはそれを『食べ物』と言っている。
しかし、とてもそうとは思えない。なぜなら、大きくって、四角で、そこから手と足が生えていて、移動速度が少しだけ早いからだ。ちょっと気持ち悪い。
フェンリルさんはそれに向かって走り出した。そして、その『食べ物』がフェンリルさんの存在に気づく前に、剣を刺した。
そこから暖かい光と湯気が溢れ出し、『食べ物』は消え、食べ物が二人分出てきた。うん、意味わかんない。
「これは、カレーですか…?」
「うん。カレーだよ?」
全く理解が追いつかない。
「あの『食べ物』、レトルトカレーっぽい見た目してたでしょ?」
言われてみればそうだったかもしれない。
「そうですね。」
「だから、カレーが出てくるんだよ!!」
フェンリルさんが言うには、この世界では『食べ物』という、魔物のような生きものが存在している。そして、それを倒すとその見た目に合う食べ物と、それを食べるのに必要な食器まで出てくるとのことだ。
「確かに、スプーンまで丁寧にありますね。」
「ご飯もあるよ!」
「この世界、すごいです」
「でしょでしょ〜!それじゃあ、食べよっか!」
「そうですね。冷めないうちに食べましょう!」
私とフェンリルさんは、一緒に出てきたスプーンを持って食べ始めた。
カレーの辛さと、白米のほのかな甘みが、久しぶりにたくさん歩いた私の体に染みわたった。
「おいひいでふ」
「ほらほら、頬張りながら喋んないの」
フェンリルさんは優しく微笑んだ。
私は、この時間がいつまでも続いてほしいと願った。
私達が食べ終わると、食器たちは光の粒になり、消えていった。
その後は『食べ物』に出会うことなく、普通に家に帰れた。
私は久しぶりにたくさん歩き、とても疲れていたため、そのまま寝てしまった。
2話に続く!
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