地球を救いに行こう!
ケンとはあまり口をきかない。
それはぼくだけに限ったことじゃなくて、言い換えればケンの方があまり誰かとしゃべることがない、となる。一匹狼というか、周りの人にあまり興味を示さないのだ。
実際、この小学校での六年間のうちに四回も一緒のクラスになったというのに、ぼくとケンは一度だって会話らしい会話をしたことがない。そんなケンには当然友達なんか一人もいない。さみしくないのかな、と思ったときもあったけど、そんな思いはいつでも堂々としているケンを見ているうちにどこかへ行ってしまった。
ケンは一人の方が楽しいんだ。学年のほとんどはそう思っているはずだし、ぼくにとってもそれは常識みたいなものになっていた。
それだけにぼくは、ケンに声をかけられたとき、どうしたらいいのか分からなくなってしまった。
「待ちたまえ、マサキくん」
下校中、ぼくの名前を偉そうな声が呼んだ。歩くのをやめて振り向くと、にやにやと楽しそうに笑うケンが、そこには立っていた。
「えっと、何か用?」
「突然で悪いが、キミに聞いてみたいことがあってね」
そんなに遠い距離でもないのに、ケンは声を張り上げる。
「明日、地球が滅んでしまうとしたら、キミならどうする?」
何かと思えば、さっき学校でされたばかりの質問だ。
「ああ、卒業文集にのせるっていう……」
ぼくに聞いてくるよう、シマダさんに頼まれたのかもしれない。ぼくはもう一度、ちょっとだけ考えてみたけど、やっぱり何も出てこなかった。
「ごめん、やっぱりいい考えが浮かんでこないんだ。明日までには考えてくるから」
ぼくが言うと、ケンはまるで何かの悪役みたいに笑いだす。
「はっはっは、何を言っている。明日地球は滅ぶんだぞ? 今、何かをしなくてはいけないではないか」
「そんなこと言ったって、明日地球が滅びるっていうのはただの例え話で、実際はそんなことあり得ないじゃないか」
「いや、あり得る」
ケンは一呼吸置いて、そして今までよりもずっと大きな声で、
「明日、地球は巨大隕石の衝突によって、全地球生物とともにその一生を終えるのだ!」
高らかに言い放った。
ぼくは何も言えなくなった。ケンの言葉を信じたわけじゃない。ケンの声があんまり大きいから、周りの人に聞こえていやしないかと心配になったのだ。
ぼくの心配は見事に当たったらしく、近くを歩いていた大人たちが、ぼくらのことをちらちらと見ている。
「声が大きいよ、恥ずかしいよ」
「信じていないな? もしかしたら、とは思わないのかい」
ケンの声は、やっぱり大きい。
「ほら、あれを見ろ。長い尾をひいている、巨大隕石だ」
ケンが大げさな動きで指差したその先には、どう考えても飛行機雲を出しながら飛んでいる飛行機としか思えないものが飛んでいた。かなり高い位置を飛んでいるせいか、飛行機の形をしているかどうかは分からないけど、やっぱりあれは飛行機だ。だいいち、ああいうものなら何度だって見たことがある。
いったい、ケンはどういうつもりなんだろう。冗談なんだとは思うけど、親しくもないぼくに冗談なんて、はたして言うだろうか。
もしかしたら、本気なのかも知れない。ケンの顔は真顔で、表情だけ見れば真剣そのものだ。
「とにかく、明日地球は滅びてしまうかも知れないのだ。そこで……、今から地球を守るために動きたいと思う」
ケンの宣言に、ぼくはもう頷くことしかできなかった。
「そういうわけだから、協力してくれるね? マサキくん」
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