たこ焼きじゃなくてお好み焼きにする話
いちどめし
明日地球が滅びるならば
明日、地球が滅びるとしたら、今何がしたい?
学級委員長のシマダさんがやってきて、いきなりぼくにそう聞いた。
聞かれてぼくは、何が起こったんだ、と思った。
なんたって、普段はマジメで知的なシマダさんが、いきなりそんな訳の分からないことを言い出したのだから。
だいたい、明日急に地球が滅びるなんて、いったいどういう状況なんだろう。宇宙から超巨大ミサイルが飛んでくるとか、そういうSF映画みたいなことが起こるのだろうか。
「どうしてそんなことを聞くのさ」
ぼくが聞き返すと、シマダさんは笑って言った。
「卒業文集にね、そういうアンケートをとって、のせるの」
ああ、なるほど。夏も終わって、そういえばもうそんな季節だ。他のクラスでは「願いが一つだけかなうなら?」とか「たった今、宝くじが当たったらどうする?」というようなテーマにしたらしいけど、このクラスはそういうテーマにしたんだ。
きっと、この学級委員長や卒業文集係りなんかが決めたんだろうな。
「へえ、そうなんだ。じゃあ、どうしようかなぁ」
腕を組んで考えはしてみたものの、明日地球が滅びるとしたら――、なんていう問いかけに対して、いい回答が見つからない。
それにしても、他のクラスのテーマはどれも希望に満ちあふれているっていうのに、どうしてこのクラスのテーマときたらそんなに絶望的なんだろう。せっかくの卒業文集なんだから、もうちょっと明るい内容でもいいのに。
「もー、早く答えてよぉ」
シマダさんは腰に手をあててふくれっつらを作ったけれど、そんなことを言われたって出てこないものはどうやったって出てこない。
うんうんとうなっていると、とうとうシマダさんは「明日までに考えてきてね」と言い残して歩いて行ってしまった。
でもなぁ。明日地球は滅びるっていう話じゃなかったっけ?
まあ、それはあくまでも、もしもの話なんだけど。
シマダさんが次に向かったのはケンのところだった。クセの強そうなもじゃもじゃ頭に、大きなメガネの印象的なクラスメートである。
ぼくに聞いたのとまったく同じことをシマダさんがたずねると、ケンはメガネをぎらぎらと輝かせながら、当たり前のことだとでも言わんばかりに「地球を救う」と即答した。
なんだよ、それ。
そんなのはヒキョウだ。だってこれはつまり、明日絶対に地球が滅びるとして、その上で最後に何がやりたいかっていう意味の質問じゃないか。
ぼくの思いもむなしく、シマダさんはにこにこしながら次の人の方へ行ってしまう。
――あ。
ケンと目が合ってしまった。
細くて鋭いケンの目が、メガネの奥からぼくのことをじっと見ている。ぼくの視線に気づいたのかな。
ぼくはすぐに目をそらして、席を立った。
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