第35話 強化武装

 困惑する桃木に、黒髪の少女が話かけてくる。


「あの蜘蛛は私たちが倒しますから、ちょっと待ってて下さい」


 そう言って戦列に戻ろうとした少女に、桃木は慌てて声をかける。


「ま、待ってくれ! 私も……私も戦う、一緒に戦わせてくれ!!」

「でも……」


 少女は戸惑った表情を見せるが、桃木に引く気はなかった。仲間を殺した蜘蛛を前にして、戦わずに眺めているだけなど、できるはずがない。

 少女が困り「どうしましょう、大和さん」と聞くと、男の一人がこちらを向く。

 スナイパーライフルを撃っていたトレンチコートの男だ。


「分かった。一緒に戦おう。だが、君の武器では心もとない。結菜、【武器の強化】の項目があったはずだ。彼女の武器をアップグレートしてくれ」

「わ、分かりました!」


 結菜と呼ばれた女の子は、こちらに向き直り、意を決したように口を開く。


「あ、あの! お名前を教えて下さい」

「え? あ、ああ。私は桃木だ。サバゲーの経験があるから、銃器の扱いには多少慣れている」

「で、では使っている武器を見せてもらえますか?」

「分かった」


 桃木はベストの胸ポケットから取り出したスマホを確認する。使っていたベレッタARX160がアイテム欄に収納されていた。

 桃木はホッと息をつく。武器は手元から離れても、五分経てばアイテム欄に戻ってくる。

 ただし、破壊された場合はその限りではない。今回は無事だったようだ。

 スマホをタップし、アサルトライフルを顕在化する。


「これが私の使っていた武器だ。これをどうする気だ?」

「預かってもいいですか?」

「ああ」


 桃木は自分の持つベレッタを結菜に手渡す。結菜は重そうによろめいたが、スマホをタップしてライフルを"収納"した。


「これを、こうして……っと」


 スマホの画面を見ながら、結菜はなにかをやっていた。桃木が眉間にしわを寄せ、なんだろうと思っていると――


「これで、いいかな?」


 結菜は再びライフルを顕在化した。そのライフルを見て、桃木は口を開けて驚く。


「これは……【ベレッタ GLX160】!」


 桃木が使っていたベレッタARX160の下部に、GLX160グレネードランチャーを装着した完全装備状態のアサルトライフル。

 

「私の武器を、強化してくれたのか?」

「はい、弾も 5.56x45mm弾から7.62x39mm弾に変更して置きました。それに自動装填機能も追加しておきましたので、かなり強力になったと思います」

「なんだと!?」


 7.62x39mm弾は相当高い銃弾であるうえ、自動装填オートリロード機能は銃本体の倍の料金がかかる。

 そんな金を、赤の他人に使ったのか?

 色々疑問を持つが、桃木は強化されたライフルを受け取る。

 以前よりも重量が増し、ズシリと腕に負担がかかった。だが充分使いこなすことはできるだろう。


「いいのか? どこの馬の骨とも分からない私にこんな金を使って」

「大丈夫です! 私たちグループで資金をいっぱい持ってますから」

「だが、弾やGLX160の弾頭は高いから、そんなに数は買えなかっただろう?」

「いえ、割引できるカードもありますし、銃弾は2000発。グレネードの弾頭は、100発買っておきました」

「そんなに!?」


 桃木は驚いて目を見開く。そんな数の弾を買えるということは、とてつもない資金を持っているということ。

 しかも、"割引カード"なんてアイテムは聞いたこともない。

 呆気に取られていると、大和と呼ばれていた男が叫ぶ。


「準備ができたなら手を貸してくれ! 結菜がいない分、接近されている」

「は、はい!」


 結菜は慌てて隊列に戻り、自分のグレネードランチャーを構えた。四人はそれぞれが自分の役割を果たしている。

 ――私だって!

 桃木は強化されたベレッタを片手に持ち、戦列の右端に歩み出た。

 横穴のふちに立ち、外を見る。二十メートルほど先から、大型の蜘蛛がまっすぐに向かってくる。数は六匹。

 不気味でおぞましいその姿に、桃木は吐き気を覚えた。

 仲間の鮎川と岩田を殺した蜘蛛の化物ども。ここで戦わずに指を咥えて見ているだけなど有り得ない。

 桃木は銃口を大蜘蛛へと向ける。

 隣の四人は凄まじい攻撃を繰り広げていた。強力な重機関銃による銃撃、正確無比なスナイパーライフルの狙撃、ロケットランチャーによる爆撃に、グレネードランチャーを使った連続攻撃。

 しかも、全ての武器が自動装填オートリロード

 信じられないほど高額の武器を使っている。こちらも負ける訳にはいかない。

 桃木は引き金を絞った。ベレッタから発射される無数の7.62x39mm弾は、大蜘蛛の体を傷つけていくが、大したダメージは入っていない。

 桃木は、ベレッタの下部に装着されたGLX160グレネードランチャーのトリガーに指をかける。


「喰らえ!!」


 放たれた擲弾てきだんは蜘蛛の顔に直撃。皮膚が裂け、血が流れ出す。

 厚い防御を突き破ったのだ。桃木はチャンスを見逃さず、皮膚が裂けた部分に銃弾を集中させた。

 正確な射撃が敵の顔を捉える。

 何十発も傷口に撃ち込まれ、大蜘蛛は堪らず後ろに下がった。

 絵美もロケットランチャーの弾頭を撃ち込み、蜘蛛の脚二本を吹っ飛ばす。結菜もグレネードを発射し続け、脚の一本を破壊した。

 蜘蛛は自立することができず、グラリと体勢を崩すと、そのまま前のめりに倒れた。桃木の使うGLX160グレネードランチャーは、二秒で自動装填される。

 新しく装填された弾頭を、再び放った。

 擲弾は直撃し、蜘蛛の顔半分を削り取る。さらに銃撃の雨、蜘蛛は断末魔の叫び声を上げて絶命した。


「や、やった! やりましたよ。桃木さん」


 結菜が満面の笑みでこちらを見てくる。ロケットランチャーを撃っていた女性も、「へ~なかなかやるじゃん」と笑顔を見せた。


「まだまだ来るぞ! 気を抜くな」


 トレンチコートの男の檄に、全員が気を引き締める。この男がグループのリーダーなのだろう。確か大和と呼ばれていたな。

 桃木は改めてライフルを構え、大蜘蛛に銃口を向ける。

 グレネードを発射し、傷口を作ってから銃撃を叩き込んだ。二秒で自動装填されるグレネードランチャーは恐ろしく強い。

 女性たちとの連携もあり、難無く二匹の蜘蛛を倒した。

 気づけば男性たちも、残りの大蜘蛛を打ち倒している。横穴から十メートル地点。全ての大蜘蛛は死骸となってその身を晒していた。

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