第34話 悪夢からの目覚め
銃を放つ大和たちの後ろ。女性の手当てをしようとしていた結菜は、スマホを操作してアイテム欄を開く。
回復スプレーを取り出しすと大和が振り返り、声をかけてきた。
「その女の人は毒を受けてる。まず『毒消し』を購入してくれ。それを使って彼女を治すんだ!」
「は、はい!」
結菜は大和に言われた通り、購入欄【回復】の項目から"毒消しリキッド"を買い、実体化させた。
目の前にコトリと落ちたのは、小さな試験管に入った液体。
結菜は試験管のフタを取り、女性の口元へと運ぶ。なんとか口の端から液体を流し込んだが、反応はない。
「これで大丈夫かな……?」
一抹の不安を覚えつつ、今度は回復スプレーを手に取り、女性の体の傷に吹きかけていく。
「大和さん、毒消しと回復スプレーは使いました。でも意識は戻らないし、本当に治ってるかどうか……」
「分かった。取りあえずその人はそのままにしておこう。結菜はショットガンで蜘蛛を撃ち続けてくれ」
「はい」
結菜は再び銃を持ち、横穴の
結菜はショットガンの銃口を向け、次々と吹っ飛ばしていく。
四人で協力して弾丸を撃ちまくったことで数千匹の蜘蛛を殺し、その死体があちらこちらに積み上がっていた。
そして横穴の真下にも蜘蛛の死骸が折り重なっている。
このままでは蜘蛛が登ってきてしまう。そう思った結菜は素早く【C-4】爆弾をアイテム欄から取り出した。
数個を壁の下に投下した結菜は「皆さん、伏せて下さい!」と叫ぶ。
全員が一歩後ろに下がり、身を屈めた。瞬間、激しい爆発が巻き起こる。出口では火と煙が立ち上っていた。
大和はすぐに出口の
ふと見上げれば、無尽蔵に襲ってくるかと思っていた蜘蛛の群れが、一斉に引いていく。巣穴へと戻っていくようだ。
「こ、これ……終わったってことですか?」
小久保が信じられない様子で聞いてくる。一見すればそう思える。だが――
「そんなに甘くはないみたいだぞ、小久保さん」
「え?」
小久保が視線を外に向けると、そこにいたのは大蜘蛛の集団。少なくとも十匹以上はおり、崩れ落ちた遺跡を乗り越えてこちらにやってくる。
大和は険しい表情で、すぐに指示を出した。
「絵美はロケットランチャーを使ってくれ! 結菜はグレネードランチャーを。二人で右から来る大蜘蛛を攻撃してほしい」
「分かった!」
「はい、分かりました!」
「小久保さんは正面と左から来る大蜘蛛を重機関銃で撃ちまくってくれ、俺は状況を見てライフルを撃っていく!」
「分かりました!」
小久保が頷き、ブローニングM2のハンドルを握って逆Y字型のトリガーに指をかける。全員が緊張した面持ちで銃口を外に向けた。
「あの大きさだと、この横穴に登って来れるぞ。絶対に近づけるな!」
「「「はい!!」」」
のっそのっそと歩いてくる大蜘蛛に、四人の銃火器が火を噴く。
小久保が使う重機関銃が最も威力を発揮し、何十、何百という弾丸が大蜘蛛を貫いていく。
頭は割れ、脚は千切れ、大量の血を撒き散らして動きが鈍くなる。
大ダメージを受けた大蜘蛛に、大和のスナイパーライフルによる正確な射撃が炸裂した。
化物の頭を撃ち抜き、完全に息の根を止める。
大和と小久保。二人の連携が功を奏し、一分も経たずに三匹の大蜘蛛が死んだ。
だが徐々に命中率が上がり、大蜘蛛に当たり始める。
結菜もグレネードランチャーを撃ち続け、二人で蜘蛛の進行を止めた。苛烈な爆発が、大蜘蛛の体を引き裂いていく。
脚は吹き飛び、腹からは
こちらもわずかな時間で二匹の大蜘蛛を倒した。それでも異形の化物の進軍は止まらず、八匹の大蜘蛛が向かってくる。
恐ろしい姿をした化物の群れ。絵美と結菜は顔をしかめるが、大和は冷静だった。
――近づいてくれば、それだけ銃弾の威力は上がる。必ず止められるはずだ。
大和は片膝をつき、構えたライフルのスコープを覗く。そこには大蜘蛛の急所である、頭がハッキリと映っていた。
◇◇◇
「うぅ……」
まるで悪夢から覚めたかのような最悪の気分。桃木はゆっくりと瞼を開いた。
最初はぼやけていた視界に、少しづつ色と形が戻ってくる。見えてきたのは四人の男女の背中。
外に向かって銃撃している。
桃木は辺りを見回す。ひび割れた天井と床、三方には壁があり一方だけが外に開けている。
ここはあのグループが逃げ込んだ横穴か!?
桃木の脳は急激に覚醒する。自分は気を失っていたのか? だとしたら、なぜ生きている? 彼らが助けてくれたのか?
色々な疑問が脳裏に渦巻くが、今は考えている場合ではない。
桃木は体を起こし、自分の腕や足にケガがないかを確認した。とくに問題はなさそうだ。
フラつく足で立ち上がり、銃を撃ち続ける人の元へと歩み寄る。
その時、一人の女性が桃木に気づき、「あ! 起きたんですか!?」と言って嬉しそうに表情を崩した。
持っていたグレネードランチャーを脇に置き、こちらに駆けてくる。
「心配してたんです。目を覚まさないから……でも大丈夫そうですね」
優し気な眼差しを向けてきたのは、長い黒髪のかわいらしい女の子。かなり若い、高校生ぐらいだろうか。
他の三人も桃木に気づいたが、銃撃にいそがしく、かまってる暇はないようだ。
薄暗い横穴から光の注ぐ外を見れば、そこにはあの大蜘蛛がいた。しかも一匹ではなく何匹もいる。
その大蜘蛛が一匹、また一匹と倒れていく。
桃木はゴクリと喉を鳴らした。単に攻略ポイントを見つけただけの運の良いグループかと思っていたが、彼らの持つ武器の火力の強さは半端ではない。
ロケットランチャーに重機関銃、性能の高いスナイパーライフルにグレネードランチャーまで。しかも、弾薬を補充しているように見えない。
まさか、
「なんなんだ……この人たちは……」
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