第32話 援護射撃

 大和たち四人の銃撃によって、大量の蜘蛛を近づけないようにしていた。

 周囲から集まってくる蜘蛛の群れは大和、絵美、結菜の三人が張る弾幕によって蹴散らしていく。

 それでも突破してくる蜘蛛たちは、小久保がロケットランチャーとグレネードで粉砕していった。

 なんとか蜘蛛を抑えていたが、二つ問題があった。


「大和さん! もう弾薬が無くなります。どうしますか!?」


 小久保がグレネードを発射しながら、大和に問いかける。大和はライフルを撃ちながら答えた。


「無くなった弾薬は購入していこう! グループ化してるから、君らも俺の資金を使えるはずだ!」

「わ、分かりました」


 小久保がグレネードを下に置き、スマホを操作しようとすると、大和が「待った」と叫んだ。


「ど、どうしました?」


 小久保はスマホに触れていた指を止め、大和を見る。


「グレネードランチャーは大量の敵を倒をすには不向きだ。どうせなら、もっと強い武器と弾薬を買おう」

「もっと強い武器ですか?」


 大和は銃撃を続けながら、小久保に対して買う武器を指示する。小久保は「わ、分かりました」と言ってスマホを操作し、武器購入ページを開く。

 絵美や結菜は小久保の抜けた穴を埋めるため、必死で銃を撃ち続ける。

 横穴の真下にまで迫ってきた蜘蛛には、真上から銃弾の雨を降らせた。化物たちはなにもできず、藻掻きながら死んでいく。

 なんとか蜘蛛を倒せているが、やはり小久保がいないと苦しい。

 そう思った絵美が後ろを振り返ると、そこには予想外の武器を持つ小久保がいた。


「ちょ、小久保っち。それって……」

「大和さん、弾薬も含めて買いました。説明書も確認しました」


 小久保が持っていたのは、【ブローニングM2重機関銃】。発射台の付いた大型のマシンガンで、全長が1メートル60センチ以上ある化物だ。


「よし! それでヤツらを薙ぎ払ってくれ!!」

「は、はい!」


 小久保は重機関銃と発射台を横穴の出入口ギリギリまで運び、体勢を低くして銃の後部にあるグリップを両手で握った。

 フロントサイトで雪崩れ込んでくる蜘蛛を見据える。

 銃身の左横からは長い弾薬ベルトが伸びていた。小久保はフゥーと息吐いてから、特殊な形のトリガーに指をかける。


「行きます!」


 グリップを握ったまま、トリガーを押す。ダダダダダダダと低い音で鳴る銃声が、下っ腹に響く。

 1分間で800発ほどの弾丸を吐き出す化物銃は、大量の蜘蛛をやすやすと粉砕していった。小久保は暴れ回る銃をなんとか操作し、蜘蛛たちを迎え撃つ。

 その間に大和や絵美たちは銃弾の補給をして弾が尽きるという事態は回避した。

 しかし、もう一つの問題が残る。


「大和さん! 壁の下側が……」


 結菜がショットガンを撃ちながら壁の下を覗く。大和も横穴の出入口のギリギリに立ち、下を見た。

 そこには死んだ蜘蛛の死体が、うず高く積み上がっている。


「まずいな」


 このままでは蜘蛛が死体を這い上がり、この横穴に入ってきてしまう。

 壁に空いた空間が優位なのは、のが大前提。その優位性が失われれば、圧倒的な数の敵を抑え込むことができない。

 打開する方法は一つ――


「結菜! プラスチック爆薬の【C-4】を用意してくれ!!」

「は、はい!」


 結菜はショットガンを脇に置き、スマホを操作して【C-4】をアイテム欄から取り出す。

 目の前に現れたのは、小さな箱型のプラスチック爆弾、五つ。

 結菜はスマホに表示された扱い方にざっと目を通す。内容を五秒で理解し、起爆装置の電源を入れる。

 二つを出入口の真下に落とし、残り三発を少し離れた場所に放り投げた。

 起爆スイッチを手に取り、大声で叫ぶ。


「爆破します! 離れて下さい!!」


 結菜の目一杯の声に、三人は銃を下ろし、すぐに出入口から離れた。

 それを確認した結菜は、手に持った起爆スイッチを押す。全員が身を屈めた瞬間、プラスチック爆弾が次々と炸裂した。

 凄まじい衝撃。地面が揺れ、轟音が耳を襲う。

 全員が出口を見ると、外は火の粉が舞い、煙が立ち込めていた。

 大和は横穴のふちまで行き、真下を覗く。積み上がった蜘蛛の死体は綺麗に吹っ飛び、更地になっていた。

 煙のせいで視界は悪いが、周囲にいた蜘蛛も吹き飛んでいるようだ。


「よし! 蜘蛛の死骸は無くなってる。銃弾を撃ち続けよう!」

「うん!」

「はい!」

「分かりました!」


 大和の言葉に、絵美、結菜、小久保が返し、再び横穴の縁に立って銃を構えた。

 放たれる弾丸。煙のせいでハッキリと見えないが、瓦礫の向こうから蜘蛛が這い寄ってきているは分かる。

 煙の切れ目から見えた蜘蛛を、大和はスナイパーライフルのトリガーを連続で搾り五匹を仕留めた。

 結菜もショットガンを撃ちまくり、近寄ってきた蜘蛛四匹を粉砕する。

 穴の真下に来た蜘蛛は、絵美がアサルトライフルのセミオートで一匹づつ撃ち殺していく。

 フルオートでの射撃もできるが、アサルトライフルは機関銃マシンガンと違い、連射に特化した銃ではない。

 銃身が壊れる可能性もあるため、絵美は状況に応じて使い分けていた。

 小久保は蜘蛛が多そうな場所に、重機関銃を撃ち込んでいく。手から伝わる振動を感じながら、広範囲に渡って銃撃した。

 煙の合間からは弾け飛ぶ蜘蛛や、「ピギャ」といった悲鳴が聞こえてくる。

 全員が蜘蛛を近づけまいと銃撃を続ける中、絵美が突然声を上げる。


「あ! 大和さん、あれ!!」


 大和が右隣にいた絵美に目を向けると、絵美は右方向を指差していた。

 なんだ? と思い、前のめりになって遥か先を見る。大和は思わず息を飲んだ。


「あれは……別のグループか」


 蜘蛛たちに囲まれる人影、二人いるようだ。

 必死に銃撃を続け、なんとか囲いを突破してこちらに来ようとしている。


「大和さん、あの人たちを助けないと! このままじゃ死んじゃうよ!!」

「ああ、そうだな」


 助けなきゃいけない義理はないが、協力して戦う分には心強い戦力になるだろう。なんと言っても最終ステージまで辿り着いたグループだからな。

 大和はそう思い、銃撃をやめてスマホを操作する。


「俺があいつらを助ける。みんなは蜘蛛たちを近づけないように銃撃を続けてくれ」

「分かった!」


 絵美が頷き、結菜と小久保も「分かりました」と返事をする。

 大和はスマホの購入欄から、スナイパーライフルの"スコープ"を買い、顕現させてライフルのマウントベースに取りつけた。

 大和は出口の一番右端に移動し、腹ばいになってライフルを構え、スコープを覗き込む。このスコープは遠距離の敵を狙いやすくなるのはもちろん、大幅な命中率補正がかかる。

 多少距離があっても充分当たるだろう。

 スコープ越しに見れば、黒い軍服を着た二人の男女が蜘蛛に襲われている。男性はすでに噛みつかれ、もう助からないかもしれない。

 しかも、通常の蜘蛛とは比べものにならないほど大きな蜘蛛もいる。このままでは二人とも死んでしまうだろう。

 せめて女性だけでも、と思った大和はトリガーに指をかけ、引き絞った。

 女性の近くにいた蜘蛛が弾け飛び、絶命して動かなくなる。大和は何度も引き金を絞り、蜘蛛を殺していく。

 スコープのおかげで百発百中だ。女性に襲いかかろうとした大蜘蛛にも弾丸を撃ち込む。銃弾は効いているようで、大蜘蛛は数歩後ろに下がった。

 それでも女性に襲いかかって来ようとする。

 何発か銃弾を撃ち込んだが、大蜘蛛を止めるまでには至らない。


「小久保さん! ロケットランチャーを!!」

「は、はい!」


 大和の声に応え、小久保は自分の脇に置いていたロケットランチャーを手に取り、大和に向かって放り投げた。

 長い砲筒を手を伸ばして受け取った大和は片膝をつき、大蜘蛛に狙いをつける。

 スコープが無い分、当てるのは難しいが、迷ってる暇はない。引き金を絞った瞬間、砲筒の前後が爆発して弾頭が発射された。

 衝撃で身を固くした大和だが、弾頭はまっすぐ飛び、大蜘蛛の体に直撃した。

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