第29話 攻略ポイント

「おい、どうすんだ桃木! このままじゃジリ貧だぞ!!」


 蜘蛛を銃撃しながら、岩田が叫ぶ。


「分かってる。鮎川、なにか攻略法はないの!?」


 弾幕を張りつつ、ダーク・フロンティアのマニアである鮎川に話を向ける。今までクリアしたステージでは、何度も鮎川の知識に助けられてきた。

 今回も期待した桃木だったが――


「無茶言うな! こんな酷いステージ、前作の『ダーク・フロンティア』には無かった。こいつは完全に無理ゲーだよ」


 銃を撃ちながら言った鮎川の顔には、どこか諦めの表情が浮かんでいた。

 桃木はグッと唇を噛み、打開策を必死に考える。

 その時、三十メートルほど先にまっすぐ走っていく人影が見えた。右にいたグループが階段を駆け下り、中央の遺跡に向かっている。

 桃木は不思議に思った。彼らが迷いなく走っているように見えたからだ。

 こんな絶望的な状況でどうして? と思ったが、そんなことをいま考えても仕方がない。

 とにかくここを突破して彼らと合流しないと。


「とくかく前に進もう、他のグループと合流しない限り活路はない!」

「おう!」

「分かった!」


 三人は気力を振り絞り、弾幕を前に集中させ、なんとか道を切り開いた。


 ◇◇◇


 大和は走りながら【M110A1】で、前方の蜘蛛を銃撃していく。

 スナイパーライフルを持って動くのはなかなか大変だが、そんな不満を言っている場合ではない。

 絵美と結菜も、前から来る敵をアサルトライフルとショットガンで撃ちまくった。

 後方から追いかけてくる蜘蛛は、小久保がグレネードランチャで粉砕していく。

 かなり緊迫した状況だが、大和は落ち着いていた。

 自分たちの使う武器に付与された能力、『攻撃力補正』と『命中率補正』のおかげで、蜘蛛を効率的に倒せていたからだ。


「もう少しだ! 全力で走れ!!」

「「「はい!」」」


 大和の鼓舞に、三人が応える。『攻略ヒントアプリ』が示した位置まで、あと四十メートル。

 もう少しで辿り着ける。そう思った矢先、倒壊した遺跡の陰から、大量の蜘蛛が湧き出てきた。百匹近くはいるだろうか。

 大和は自分の左腕に取りつけたスマホを見る。

 先ほど走りながら『敵個体情報アプリ』で調べた敵のデータ。


【ビーク・スパイダー】

 体長1メートル50センチ 体重55キロ 

 鋭いキバには毒があり、噛まれると三分で動けなくなる。また、六本の脚先の爪は極めて危険。動物の体にやすやすと穴を空ける。


「かなり厄介な化物だな……」


 大和は改めて蜘蛛を見た。数はさらに増え、百五十匹近くはいる。

 それでも恐怖は感じない。ここには大和一人だけではなく、頼れる三人の仲間がいたからだ。

 四人は足を止め、銃を構える。


「撃ちまくれ!」


 大和が叫ぶと同時に、全員の銃口が火を噴く。大和の持つM110A1スナイパーライフルから放たれる弾丸は、正確に蜘蛛の頭を撃ち貫いた。

 何発も連続で発砲し、迫りくる敵を一撃でほふっていく。

 絵美も最強のアサルトライフルと呼ばれるShAK-12をフルオートで発射。

 わらわらと這い出す化物の群れを、次々に蹴散らしていく。

 結菜も負けていない。ベネリM4スーペル90オートショットガンを使い、散弾を蜘蛛たちに叩き込む。

 気持ちの悪い化物は、脚や腹を撃ち抜かれ、血まみれになって息絶える。

 大和は――行ける! と確信した。複数人で張る弾幕は凄まじく、化物の数はどんどん減っていく。

 どんなに強力な武器があっても、それを使える人間がいなければ意味がない。

 絵美たちを仲間にした判断は正しかった。

 大和はライフルを撃ち続けながら、改めてそう思う。


「み、皆さん! ちょっと下がって下さい」


 後ろの敵を迎撃していた小久保が前に出る。背中に担いでいたロケットランチャーを肩に乗せ、前方の蜘蛛に狙いを定める。

 トリガーを引いた瞬間、衝撃音と共に弾頭が発射された。瓦礫となった遺跡に当たり、爆発して炎上する。

 近くにいた蜘蛛が吹っ飛び、体を燃やしながら転がっていく。

 大和は身を屈め、爆風をやり過ごすと、「よし、行こう!」と言って開けた道を走る。目的地が見えてきた。

 それは遺跡と遺跡が倒壊し、折り重なるようにして偶然できた壁面。

 二メートルほどの高さに窪みがあり、中に入れるようだ。大和はここが攻略のポイントだということをすぐに理解した。


「あそこだ! あの一角にできた横穴に入って戦うんだ!!」


  全員が目を向ける。絵美や結菜は戸惑っていたが、小久保は理解したようだ。


「はい、分かりました!」と頷き、足を速める。


 前方からはさらなる蜘蛛が現れるが、四人は冷静に対処する。大和が放った銃弾で三匹の蜘蛛が即死する。

 結菜もショットガンを放ち、二匹を吹っ飛ばす。

 絵美もアサルトライフルを乱射し、三匹を即死させ、二匹を行動不能にした。

 追いすがってくる蜘蛛に対しては、小久保がグレネードをお見舞いする。四匹が弾け飛び、一匹が脚を失って藻掻いている。


「今のうちに!」


 小久保が叫ぶ。大和たちは全力で走った。なんとか目的の場所に辿り着いた絵美は息を切らしながら前を見る。

 そこには壁がそびえ立っていた。


「その上の穴に入るんだ!」


 大和の言葉に、絵美と結菜は上を見る。壁の上には、確かにポッカリと空いた横穴の空洞がある。

 しかし二メートル以上の高さがあるので、簡単には登れない。


「や、大和さん。どうしよう……」


 絵美が困惑して尋ねると、大和は自分の持つ銃を壁に立てかけ、それを抑えた。


「これを足場にしろ! 持ってるライフルは穴に放り込めばいい」

「わ、分かった!」


 絵美は自分が持つアサルトライフルを穴に投げ入れ、立てかけたライフルの上に立つ。勢いをつけて上がると、なんとか穴まで入ることができた。

 そこは天井こそ斜めに傾いているが、長方形に切り取られた空間。

 全てがコンクリートのような石造りで、かなり頑丈そうに見える。


「次は結菜だ。手を貸してくれ!」

「う、うん!」


 絵美はすぐに入口に駆け寄り、上がってくる結菜の手を取る。力づくで引っ張り、奥へと入れる。


「大丈夫、結菜?」

「うん、私は大丈夫」


 絵美と結菜はすぐに立ち上がる。天井は低いが、なんとか立てる程度の高さはあった。

 二人が外に目を向けると、そこには大量の蜘蛛に囲まれながらも、必死に応戦する小久保と大和の姿があった。


「絵美、結菜! 上から援護射撃を頼む!!」


 大和の言葉に二人は頷き、壁の上でアサルトライフルとショットガンを構えた。

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