第28話 東と西のグループ

 猿渡たちは階段をひとっ飛びして、勢いよく下っていく。

 上からは洪水のように蜘蛛の化物が押し寄せてきた。猿渡は左手のサポーターを見る。そこにはスマホがセットされており、画面が確認できるようになっていた。


「中央の建物からも化物が出てきてるぞ!」


 猿渡の言葉に、メンバーは中央の遺跡に目を向ける。そこには穴から這い出した蜘蛛たちがわらわらと出てきた。


「なんだよ、ありゃ!? いくらなんでもやりすぎだろ!!」


 加賀が絶叫する。前作の『ダーク・フロンティア』をやり込んでいた加賀でも、こんなに過酷な設定は記憶にない。


「続編になって難易度が上がったってことかよ!!」


 文句を吐きながら加賀は走る。北のグループと合流しなければ、全滅も有り得る。

 それはリーダーの猿渡を始め、全員が感じていた。五人は階段を下りきり、中央の遺跡に足を踏み入れる。


「来るぞ!」


 中央にある建物の陰から、数多の蜘蛛が湧き出てくる。

 全員がライフルを構えた。彼らが持つのはアサルトライフルの【M-16】。一丁五百万もしたが、コストパフォーマンスがいいという理由で購入を決めた。

 迫って来る蜘蛛の化物に向け、発砲していく。

 一発では死なない。二発、三発と体に撃ち込み、急所を貫いてやっと殺した。


「こいつら食人鬼グールよりずっと強いぞ!」


 相田が眉間にしわを寄せて叫ぶ。気づけば全員足が止まっていた。

 わらわらと湧いてきた化物は、いつの間にか数十匹になっている。北のグループも銃火器を撃ちまくっている。

 見る限り、アサルトライフルやマシンガンを使って化物を蹴散らしていた。


「もう少しだ! あと二十メートルほど進めばなんとかなる!!」

 

 猿渡は大声で叫び、前方の敵を撃ち殺していく。仲間たちも四方八方からくる蜘蛛の化物を銃撃していった。

 向こうもこちらに気づいているようで、流れ弾に当たらないよう配慮している。


「あと十メートル!」


 北のグループと合流し、全員で階段の上から雪崩れ込んでくる蜘蛛たちに対して弾幕を張る。それしか生き残る方法はない。

 猿渡はそんな希望を抱き、銃撃しながら必死に前に進む。


「うわああああああああああああ!!」

「なんだ!?」


 唐突に聞こえてきた悲鳴。猿渡は顔を上げる。

 絶叫していたのは北のグループだ。蜘蛛たちの接近を許し、二人が腕や足を噛みつかれている。

 なんとか振り払おうとするも、さらに何匹もの蜘蛛に襲われた。

 仲間たちも助けようとする。だが圧倒的な数の暴力の前にすべがない。

 断末魔の叫び声と共に蜘蛛の大群に飲み込まれ、北のグループは次々に殺されていった。

 希望が消えていく。唯一の希望が。猿渡は足を止め、絶望的な気持ちになる。

 それは仲間たちも同じだった。

 気づけば周りは蜘蛛の化物だらけになっている。

 猿渡たちは銃を向け、敵を威嚇するが、もはや自分たちの敗北は必至だ。

 よく見れば蜘蛛は白と黒の縞模様で、キバの生えた口をギチギチと鳴らしている。かなり気持ちの悪い容貌に、猿渡たちは息を飲んだ。

 ジリジリと距離を詰め、飛びかかるスキをうかがっている。


「くそったれが!」


 猿渡が持つライフルが火を噴く。それを合図に仲間たちもフルオートで銃撃した。

 弾が切れれば慣れた手つきでマガジンを交換し、ありったけの弾を撃ち尽くす。誰も弾切れなど気にしていない。

 この弾幕が止めば、自分たちが殺されることが分かっていたからだ。

 そんな必死の抵抗も、わずかな時間稼ぎに過ぎない。やがて弾が尽き、何度トリガーを引いても意味をなさない。


「ここまでか……」


 猿渡はライフルを下ろし、瞼を閉じた。仲間たちの銃声も次第にんでいく。

 かわりに聞こえてきた絶叫と悲鳴。猿渡自身も蜘蛛の鋭い脚に体を貫かれ、獰猛なキバで噛みつかれた。

 ――俺が判断を間違えたのか? いや、南に向かっても同じだったはずだ。

 猿渡は意識が途切れる刹那、助かる道がなかったことを確信する。なにもできないまま蜘蛛の大群に飲み込まれ、五人はそのまま絶命する。

 周囲にはおびただしい血が流れ、化物たちの咀嚼音だけが、静かに聞こえていた。


 ◇◇◇


 階段を駆け下りる三人の男女、西側の出入口にいたグループだ。蜘蛛の化物を見て全力で走っていた。

 先頭を行くのは黒い戦闘服を着た女性。

 長い黒髪のポニーテールを振り乱し、手には無骨なライフルを握る。身長は高く、がっちりとした体形の美しい女性だった。


「岩田、鮎川! どっちに向かえばいい!? 右、それとも左?」


 女性は振り返って仲間に聞く。後ろを走る男たちも、黒い戦闘服を着てアサルトライフルを装備していた。

 岩田と呼ばれた男が口を開く。

 

「どっちに行けばいいか分からんが、左は崩れた柱や建物が多い。合流しやすいのは右じゃないか?」


 それを聞いて今度はもう一人の男、鮎川が口を開いた。


「俺もそう思う。タイムリミットバトルは時間が重要だ。桃木! 合流しやすい方に行こう!」


 桃木は、小さく頷く。


「分かった。だけど前方にも山ほどの化物がいるよ!」


 三人が前を見れば、中央にある遺跡の陰から数十匹の蜘蛛が出てくる。簡単に突破できる数ではない。

 男たちは顔をしかめるが、桃木は強い眼差しを向ける。


「私が先頭に立って攻撃する! 二人はサポートを頼んだよ!!」

「「分かった!」」

 

 桃木は走りながら銃を構え、化物に銃口を向ける。

 最初に桃木が発砲し、あとに続くように男たちがアサルトライフル【AK-47】を撃ちまくった。

 三人の銃撃によって、道を塞ぐ蜘蛛を蹴散らしていく。圧巻は桃木だった。男たちが二、三発で仕留める所を、桃木は蜘蛛の頭を撃ち抜き、一発で仕留めている。


「さすがだな、桃木! サバゲーでつちかった技術は伊達だてじゃない」

「鮎川! 余計なこと言ってないでもっとしっかり狙ってよね」


 鮎川は苦笑いを浮かべ、アサルトライフルによる銃撃で蜘蛛を撃ち殺していく。

 西側からやってきたのは桃木をリーダーとする三人のグループ。熟練のサバイバルゲームの経験者だった桃木が中心となり、各ステージを突破してきた。

 彼女が使うのはアサルトライフル【ベレッタARX160】、ハイスペックなライフルで800万もした代物だ。

 彼女の射撃能力と、ベレッタARX160の"命中率補正"があれば、どんな敵でも一発で殺すことができた。だが――


「なんなのよ……この数!?」


 倒しても倒しても、一向に減らない。さらに後ろを振り返れば、階段の上から向かってきて溢れかえっていた。

 その数は数百どころか、千を超えている。


「こんなの、どうやってクリアするの!?」


 桃木は絶望的な顔をした。

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