第26話 グループ登録

 大和は出口の前でしゃがみ、あぐらを掻いて座った。近くには巨大な怪物の死体もあるため、かなり異様な光景だ。

 絵美たちも大和の前で輪になるように腰を下ろした。

 左手のサポーターからスマホを取り外し、大和は難しい顔で眺めている。絵美や小久保はその様子を黙って眺めた。

 しばらくすると大和は顔を上げ、絵美たちを見る。


「みんな、自分のスマホを確認してくれないか」

「え、うん……」


 絵美が戸惑ったように返事をし、全員が自分のスマホを取り出す。

 ゲームアプリを起動した小久保が、「あっ」と声を上げた。


「こ、これ……ポイントが入ってますよ!」


 絵美も「ホントだ!」と言って驚き、結菜も「嘘……私にも入ってる」と信じられない様子で口に手を当てる。

 全員でスマホを見せ合うと、大和が3200ポイント。

 小久保が2800ポイント。絵美が2100ポイント。結菜が1900ポイント入っていた。


「全部で10000ポイントだな。アスラにダメージを与えた割合で配分されているのかもしれない」


 初めて獲得したポイントに絵美たち三人は喜ぶと同時に、困惑しているようにも見える。どうしていいか分からないようだ。

 そんな絵美たちを見て、大和が口を開く。


「俺から提案があるんだが、いいか?」

「な、なんでしょう?」


 小久保が身を乗り出す。絵美と結菜もスマホから目を離し、大和を見た。


「前にこのゲームのシステムを調べてた時、メニューの中に【グループ登録】っていうのがあったんだ」

「グループ……登録ですか?」


 結菜が不安そうに聞き返す。大和はコクリと頷き、自分のスマホに表示されたグループ登録のページを見せる。


「ここに登録すると、資金やアイテムが共有できるようなんだ。集団戦闘を行うのであれば便利な制度だと思う。嫌になればすぐに解除できるみたいだから、リスクはないはずだ。やってみないか?」

「い、いいんですか!?」


 小久保は驚いた表情を見せる。それは絵美や結菜も同じだった。


「だ、だって大和さんが一番資金やアイテムが多いんですから、僕たちが一方的にメリットを受けることになります。大和さんにメリットが少ないんじゃ……」


 小久保の話を聞いて、大和は首を横に振る。


「俺は自分にとって損か得かでものを考える。普通に考えれば5億7千万もゲームに使うなんて頭がおかしいが、俺にとっては合理的な判断だった」

「合理的ですか?」


 小久保は眉根を寄せる。


「まあ、実際役に立ったしな。君らに協力してもらうのも同じだよ。その方が得だと思ったから提案してる。だから負い目を感じる必要はない」

「そ、そうですか。それでしたら是非お願いします!」


 小久保は頭を下げ、絵美や結菜も「お願いします」と後に続いた。

 全員でグループ登録のボタンをタップして、共有のアイテム欄やステータス画面を作成した。


「これで良し、っと。あとはアイテムの購入をどうするかだな」


 大和がアゴに手を当てて考え込むと、小久保が口を挟む。


「でも、次がどんなステージか分からないんですよね。だとしたら、なにを買ったらいいか分からないんじゃ……」

「そうなんだ。金はあっても、見当違いな物を買ったら意味がない。かと言ってステージに入ってからだと買ってる暇がないかもしれない」

「そうですよね……」


 小久保は俯き、西森のことを思い返す。西森はポイントで拳銃を買ったが、次に出てきたのは銅像の化物。

 銃がまったく効かず、大勢の人間が殺された。

 あの時、もっと有効なポイントの使い方ができていたら、結果は違っていたかもしれない。

 小久保がそんなことを考えていると、スマホをいじりながら大和が口を開く。


「取りあえず銃弾なんかの補給をしよう。これはどんなステージでも役に立つ可能性が高いからな」

「あ、はい。分かりました」


 全員が同意し、ライフルやショットガンの弾丸。ロケットランチャーの弾頭。グレネードランチャーの擲弾などを購入していく。

 10%の割引カードがあるため、若干割安で買えるのがありがたい。


「あとは手榴弾も補充しておくか」


 大和はスマホに表示されているアイテム購入欄を見ながら首をひねる。

 いつも使っている『M67』以外にも、表示されている爆弾が増えていた。ステージが進んだことで買えるものが増えたのか?

 大和は表示されている画像をタップする。


「起爆装置付き【C-4】(プラスチック爆薬)か……1個50万。まあまあの値段だな。20~30個ぐらい買っておくか」

「なんですか、それ?」


 絵美が覗き込んでくる。


「爆弾だよ。かなりの威力があって、スイッチを押せば爆発するらしい」

「え~いいじゃないですか! なんか強そうだし」


 小久保や結菜も了承したので、【C-4】を20個買うことにした。

 さらに大和と同じハンドサポーターを買い、絵美たちは腕にめてスマホをセットする。グループ化したことで、『敵位置確認アプリ』などを見られるようになったからだ。

 必要なものは一通りそろえたが、まだ1億以上資金が残っている。大和は1億する武器も確認してした。

 まずは買わなかった『天下五剣』の残りの四振り。

 他にも国宝級の槍や弓もある。だが能力が説明されていないため、怖くて手が出せない。買わないと教えてくれないようだ。

 その他の武器もスクロールして見ていくと、大和の顔がピクリと動いた。

 金額が5億を超えているアイテムが目についたからだ。画像は表示されず、買うことはできないが、そんな物まであるのかと驚いてしまう。

 中には10億、15億の物まである。


「……だとすると、それほどの武器を使わないと倒せない敵がいるってことか?」


 大和が深刻な顔をしていると、絵美が心配して「どうしたの?」と聞いてきた。

 大和は頭を振り「いや、なんでもない」と言い、スマホを左腕のサポータにセットして立ち上がる。


「必要な物は買ったからな。そろそろ行こうか」

「そうですね。無駄にお金を使うのもなんですし、もし必要な物があれば次のステージで買った方がいいかもしれません」


 小久保も「うんしょ」と立ち上がり、すその汚れをパンパンと払った。

 絵美と結菜も引き締まった顔で腰を上げる。三人は大和をまっすぐに見て、小さく頷いた。

 大和は出口の扉に手をかける。ハンドルを回し、重厚な扉を手前に引く。

 軋んだ音と共に次のステージへの道が開かれた。最初に大和が足を踏み入れ、あとに小久保たちが続く。

 そこは壁と床、天井が全て白い廊下だった。一本道で、かなり先に扉が見える。


「あそこまで来いってことか」


 ここに敵はいないようだ。大和は躊躇なく歩き始める。五分ほどで扉の前まで辿り着き、ふぅーと息を吐く。

 この先が最終ステージだろう。なにが出てくるかはまったく分からない。

 全員がスマホをタップし、アイテム欄から武器を取り出す。誰がどの武器を持つかは事前に決めていた。

 大和が三日月宗近みかづきむねちかとM110A1スナイパーライフルを。

 小久保はロケットランチャーを担ぎ、右手にグレネードランチャーを。

 絵美は引き続きShAK-12アサルトライフルを。

 そして結菜はベネリM4スーペル90オートショットガンを緊張した面持ちで構えた。全員、すでに覚悟は決まっていた。


「行くぞ」


 大和は最後の扉に手をかける。

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