第25話 最終決着

 全ての腕を失った異形の生物。それでも巨大な怪物はうめき声を上げ、せわしなく体を動かしていた。

 絵美たちは距離を取りつつ銃撃を続けていると、化物の頭側から大和が周り込んできた。


「大和さんだ! 撃つのをやめよう」


 小久保の言葉に、絵美と結菜は発砲を止める。万が一にも流れ弾が当たると大変だからだ。

 大和は左手にライフル、右手に刀を握った状態で駆けてきた。

 アスラが気づいて顔を向けた瞬間、躊躇なく刀を振り下ろす。斬撃は化物の巨大な顔を縦に斬り裂いた。

 右目の下からアゴにかけてバックリと傷口が開き、真赤な血が噴き出す。

 苦し気な悲鳴を上げる化物を尻目に、大和は絵美たちの元に走ってくる。


「大和さん!」


 絵美が叫ぶ。大和は一つ頷き、刀を鞘に納めた。


「もう近づく必要はない。安全な距離からヤツにとどめを刺そう」

「「「はい!」」」


 四人は慎重に回り込み、アスラの頭が見える位置に移動する。充分離れてから武器を構え、狙いをつけた。

 大和と絵美がライフルのトリガーを引き、銃撃する。

 弾丸はアスラの首元に当たった。大和たちが集中して首を狙ったため、皮膚は破れ血が噴き出す。

 堪らずアスラは咆哮を上げ、切断された腕で地面を掻く。

 なんとか歩こうとするが叶わない。頭を動かし絶叫した所で、小久保と結菜が持っている武器を巨大な怪物に向ける。

 狙うは大きな口の中。放たれた弾頭と擲弾は見事に口に突き刺さり、口内で大爆発した。


「や、やった!」


 小久保が小さくガッツポーズを作り、絵美も喜ぶ。

 アスラは口から血と煙を吐き出し、声にならない声を上げた。首を大きく仰け反らせ、天井を見つめて動きを止める。

 しばらくそのままだったが、ゆっくりと倒れてきた。

 最後はドスンッと地響きのような音を立て、床に突っ伏す。

 静寂が辺りを包む。アスラはピクリとも動かなくなった。小久保はロケットランチャーを構えたまま、恐る恐る口を開く。


「し、死んだんでしょうか?」

「分からない。まだ油断はできないからな、近づかないようにしよう」


 大和はそう言うと、左手に装着したスマホに目を落とす。ステージクリアが確定すればポイントが入るため、敵が死んだかどうかは確認できる。

 まだなんの反応もない。死んでないのか?

 そう思った瞬間、画面にメッセージが流れてきた。


『第五ステージクリア、おめでとうございます。【食人鬼グールの王・アスラ】の完全討伐を確認しました。ボーナスポイントとして10000ポイントが進呈されます。次が最後のステージとなります。ご健闘をお祈りします。


                  『ダーク・フロンティアⅡ』運営本部一同』


「どうやら……終わったみたいだ」


 大和がふぅーと息を吐くと、絵美が「ホント!?」と言ってスマホを覗き込んでくる。小久保や結菜もメッセージを確認し、うわっと喜びを爆発させた。


「よ、良かった……」


 小久保は足の力が抜けたように、ヘナヘナと床に座る。


「いや、ホントだよ。大和さんがいなかったら、確実に死んでたよね」


 絵美も同じように座り、足を伸ばして目を閉じた。さすがに相当疲れたようだ。

 結菜はメソメソと泣き出し、絵美の隣で膝をつく。絵美は「よしよし、よくがんばったね」と結菜の肩と頭を抱いて落ち着かせようとした。

 そんな中、大和だけはスマホをいじり、現状を把握しようとする。

 画面に映し出された物を見て、その場所に足を向ける。


「どうしたの? 大和さん」


 絵美が不思議そうに大和を見る。


「ああ、アイテムがあるんだ。回収してくるよ」


 大和はそのまま部屋の隅まで歩いていく。なにもない場所だったが、スマホの画面には確かにアイテムのアイコンが出ている。

 目を凝らしてよく見て見ると、床に窪みのようなものがあった。


「これか……」


 窪みを指で押してみると、ガコンッと音が鳴り、床蓋が開いて正方形の箱がせり上がってくる。

 銀色のジェラルミンケース。


「けっこう大きいな」


 今まで見た物より二回りほど大きいケースだ。宝箱感が強いな、と思いつつ、二つあるバッチン錠を外し、蓋を開ける。


「おお」


 中に入っていたのは金塊だ。金の延べ棒がピラミッド状に積み上がっている。

 取りあえずスマホを操作し、獲得した金塊をアイテム欄に『収納』した。ブゥンと音が鳴り、箱の中が空になる。

 スマホには、さらにアイテムアイコンが三つあった。

 大和は部屋の四つ角にあるアイコンの場所に歩いていく。二つはまったく同じ金塊だったが、最後のひとつだけ違っていた。


「なんだ、これ?」


 床からせり上がってきたのは小さな箱。銀のケースではあるが、今までの物とは明らかに違う。

 しゃがんで小さなバッチン錠を外し中を見ると、入っていたのは一枚のカードだ。

 表面は銀色で黒のラインが入っていた。スマホでアイテムの情報を確認する。


「"アイテム購入の割引カード"? なんだそれ?」


 一瞬ピンとこなかったが、どうやら購入価格の10%割引されるらしい。地味な感じもするが、意外にすごいアイテムかもしれない。

 カードをアイテム欄に『収納』し、大和は立ち上がった。

 金塊は全部で6000万相当の価値があるようだ。ステージクリアの獲得ポイントと合わせて1億6000万円。

 そのうえアイテム購入時は10%の割引を受けられる。


「今回の報酬はかなり良かったな」


 大和は踵を返し、絵美たちの元へと戻った。


「どうでした? 大和さん」


 絵美が起き上がって尋ねる。結菜、小久保も武器を持った状態で立ち上がった。


「金塊があったから全部現金に変えるよ」

「金塊!? そんなのもあるんだ!」


 絵美が目を見張る。金塊があることに驚いたようだ。


「金銭的にはかなり余裕ができた。次は最終ステージだからな。しっかり準備をしてから行こう」

「そ、そうですね! そうしましょう」


 小久保がパッと表情を明るくする。絵美も「準備ってなにするの? なんか興奮してきた」と笑顔を漏らす。

 結菜だけは「ちょっと絵美ちゃん」と絵美の袖を引き、たしなめていた。

 前までのステージでは相当ひどい目にあってきたんだろう。自分たちの力でステージをクリアしたことを喜んでいるように見える。

 大和は出口となる扉を指差す。


「あの向こうは長い通路になっていて、最終ステージに繋がってる。だけど、スマホの地図はそこで終わってる。最後の部屋に関する情報はない」


 全員一気に緊張した面持ちになり、コクリと頷いた。


「だから扉の先にどんな危険があるか分からない。この部屋で武器・弾薬の補充をする。どんなものを買うか、みんなで話し合おう」


 自分たちも決めていいの? と絵美は驚く。

 大和の意外な提案に、三人は顔を見合わせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る