第20話 第五ステージ

 テーブルに並んだ三丁のライフルに、絵美たちはゴクリと唾を飲む。


「これがM110A1Mスナイパーライフル、こっちがShAK-12アサルトライフル。それでこいつがベネリM4スーペル90オートショットガンだ」

「こんなにいっぱい……」


 絵美は呆れたようにつぶやく。大和はアサルトライフルを手に取り、グリップやフロントサイトを見回してから口を開く。


「次にどんな敵が出てくるか分からないからな。君らにはこの武器を使えるようになって欲しい」


 絵美や結菜、小久保は一気に不安な顔になる。

 こんな銃器が使えるのか自信がなかったからだ。大和から銃を手渡された絵美は、ズシリと感じる重みに「おお」と思わず声を上げる。


「こ、これけっこう重いですね」

「まあな、でもすぐに慣れるよ」


 大和は結菜にショットガン、小久保にスナイパーライフルを持たせた。

 二人とも重さや感触に戸惑いつつも、あちこちを見回し、なんとか使おうとしている。


「俺も銃に詳しい訳じゃないんだ。ただスマホに取り扱い説明書がダウンロードされてるからな。それを見ながら使ってきた」


 大和は自分が持つスマホを三人に見せる。

 小久保はスマホを覗き込みながら「なるほど」と言ってライフルの安全装置を解除した。そのあとも銃をカチャカチャといじり、構造を確かめる。


「弾を込める時はどうするんですか、大和さん?」

「その銃は全部"自動装填オートリロード"式だから、弾を込める必要はないよ」

「え!? 自動なんですか?」


 小久保が驚く。葉山や青柳が、弾の装填に苦労していたのを知っていたからだ。

 自動なんて機能がある銃はいくらするんだろう? 小久保の頭には、そんな疑問が浮かんでいた。

 三人は四苦八苦しながらも、ライフルの使い方を覚える。

 試し撃ちをしようか、という話も出たが、部屋が狭いため跳弾の恐れもある。危険なため、やめることにした。


「でも三丁しかライフルが無いな……もう一つ買っておくか」


 大和がつぶやくと、小久保は驚いた顔をする。


「買うって、ポイントを持ってるってことですか?」

「ああ、そうだ。ポイントを知ってるのか?」

「ええ、西森さんたちが化物を倒すとポイントが入ると言ってました。そのポイントで、僕たちは"鉄パイプ"を買ってもらったんです」

「そうなのか」


 へ~と言いつつ大和はスマホに目を落とす。欲しい物はいくつかあったため、すぐに選び購入した。【取り出す】のボタンをタップし、顕在化させる。

 テーブルの上に現れたのは、【SMAWロケットランチャー】だ。

 80センチほどの長さがあるバズーカで、鈍く光る鉄製の外装が、重々しい威圧感を放っていた。


「こ、こんな高そうなの……いったい、いくらするんですか?」


 恐る恐る聞いた小久保に対し、大和は「う~ん、3500万かな」と、なんでもないように答える。


「「「3500万!?」」」


 三人は驚き、口を開ける。絵美は信じられないとばかりに、テーブルの上のロケットランチャーを見た。


「これ、そんなにすんの? え、てゆーことは大和さん、3500万以上のポイントを持ってるってことだよね!?」

「ああ、全部で1億円くらいは獲得したと思う」


 なに気なく言った大和に、絵美たちは絶句した。

 三人が黙ったのを見て、大和は「ん? どうした?」と聞いてきたが、絵美は呆れた顔で「いえ……別に……」と言うしかなかった。


「こいつの弾薬は……ちょっと高いな。まあ、いいか。100発ほど買っておこう」


 大和は【SMAW】の弾薬、高爆発性対戦車弾( HEAT)の購入を決めた。

 一発十万もするため100発で1000万もするが、強烈な威力を考えれば妥当な値段だろう。

 大和は納得して購入のボタンを押す。

 その様子をポカンと見ている三人に、大和は視線を向けた。


「本当は次のステージの状況を確認してから買いたい所なんだが、入ってすぐ戦闘になるかもしれない。実際、第四ステージでは戦いが始まっていたからな」


 絵美たちは自分たちが先に戦っていたことを思い返す。


「今回もどういう状況になるか分からない。だから、ここでしっかり準備をしてから次のステージに入る。戦う覚悟はしておいてくれ」


 絵美は頷き、「分かった」と力強く答える。

 結菜も、「ぜ、全力を尽くします!」と声を震わせながら約束した。

 小久保は、「ぼ、僕も、役に立てるように頑張ります!」と鼻息を荒くする。

 大和は口角を上げ、「頼りにしてるぞ」と笑みを見せた。

 最終的な役割分担を確認し、ステージに進む準備をする。


「このロケットランチャー、反動が大きそうだ。これは小久保さんに使ってもらった方がいいか」


 大和が提案すると、小久保は「ええっ!?」と息を飲む。


「こ、これを僕が使うんですか?」

「体もデカイし、ちょうどいいだろ」

「い、いや! 太ってるだけですよ!! こんな怖そうなもの……」

「まあ、取りあえず使い方を調べよう」


 結局、ロケットランチャーは小久保が。アサルトライフルは絵美が。ショットガンは結菜が装備することになった。

 大和はアイテム欄から取り出した【三日月宗近みかづきむねちか】を、自分のベルトに刺し込み、スナイパーライフルを右手に持つ。準備は万端。


「よし! 行こう」


 振り返った大和の言葉に、三人は「うん!」「はい!」「が、がんばります!」とそれぞれが答える。

 大和は扉のハンドルに手をかけ、ゆっくりと回す。

 重厚な鉄の扉が開き、第五ステージが見えてくる。大和が先に足を踏み入れ、三人が後に続いた。


 ◇◇◇


 そこは開けた明るい空間。

 第四ステージよりはやや狭いようだが、充分な広さがある。今までのステージとは異なり、柱は壁際にしかなく、一定の間隔を置いて規則的に並んでいた。

 大和たちは部屋に入るなり息を殺し、

 部屋の中央に背中を向けて鎮座する化物。全身が肌色で、長い尻尾があり、六本の足がある。

 いや……足と言うより、"腕"だ。六本の腕が足のように生えている。

 後ろから見る姿は、まるで爬虫類の【ワニ】のようだ。

 なにより驚くのはその大きさ。体高で五メートル以上、全長では十メートルを超えるのではないか?

 顔は見えないが、これまでの化物とは一線をかくす。

 後ろからついてくる三人も、恐怖で顔が強張っていた。大和はスマホを取り出し、『敵個体確認アプリ』を開く。


「……『食人鬼グールの王・アスラ』か、ラスボス感満載だな」


 大和は苦笑し、化物を見上げた。

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