第10話 百匹のグール

 大和はアイテム欄から、オートショットガンである【ベネリM4】をタップする。

 大勢の敵を相手にするなら、散弾を発射できるこの銃がいいだろう。ヴゥゥンと音が鳴り、目の前にホログラムが現れて散弾銃が出てきた。

 地面に落ちる寸前で掴むと、ズッシリとした重みを両手に感じる。

 黒光りする銃身。かなりスマートな銃で、洗練された印象を持つ。銃床の部分を伸ばすと1メートルほどの長さがあり、見た目はとてもかっこいい。


「あとは……」


 アイテム欄をもう一度確認する。階段下の食人鬼グールは、地図にある点線を越えないと襲ってこない。

 だとしたら、が有効なんじゃないか?

 スマホの画面を何回もタップし、武器を取り出す。ゴロゴロと床に転がったのは、手榴弾のM67だ。

 100発のストックがあるが、取りあえず15発を用意する。

 トラップ回避アプリの説明を信じるなら、特定のラインを食人鬼グールは襲って来ないらしい。

 もし、どうなる?

 その考えが正しいかどうかは、やってみないと分からない。大和はフゥーと息を吐き、気持ちを落ち着ける。

 違っていれば一斉に食人鬼グールが向かって来る。ショットガンがあるとはいえ、厳しい戦いになるだろう。

 大和は覚悟を決め、手榴弾のピンを抜く。

 大きく振りかぶり、階段下まで放り投げた。続けて二つの手榴弾のピンを抜き、同じように放り投げる。

 カン、カンと金属が床を跳ねる音。ギャ? グウ? など、食人鬼グールと思われる声が聞こえてきた。

 少し待つと、計三度の爆発音が聞こえてくる。

 離れているとはいえ、大きな音に大和は身をすくめた。怒り狂ったような叫び声や悲鳴、階段下は大混乱に陥っていた。

 かなりの騒ぎになっているが、食人鬼グールが上がってくる気配はない。

 大和はスマホに目を落とす。


「やっぱり! あいつら全然動いてない。バカなんじゃないのか!?」


 スマホの画面に映る"敵アイコン"は、右往左往しているものの、階段下でとどまったまま。予想通りではあるが、滑稽に見えてくる。


「本当にゲームのキャラクターなんだ……」


 大和はさらに手榴弾のピンを抜き、次々と投げていった。爆発音が響き、火の粉と煙が舞い上がる。

 この【M67】は、爆発すると金属の破片を撒き散らして相手にダメージを与える破片手榴弾だ。

 直接爆発に巻き込まれなくとも、近くにいるだけで致命傷を負う。

 炸裂する手榴弾に、絶叫する食人鬼グール。あまりにも簡単に倒せるため、これでいいんだろうか? と疑問すら浮かんでくる。

 階段近くにも食人鬼グールがいるため、手榴弾を転がして手前に落ちるように調整した。

 階段付近にいた化物も吹っ飛ぶ。


「おお、凄い! 入れ食い状態じゃないか」


 画面に表示されてた敵アイコンが、どんどん減っていく。爆発の威力は相当強いらしい。

 だが十五個全ての手榴弾を使い切る頃には、階段下にいた食人鬼グールの数が減り、隙間が多く空いていた。この状態では、手榴弾を使っても効率よく倒せないようだ。


「仕方ない……行くか」


 大和はベネリM4の銃床を自分の肩口に当て、しっかりと銃を構える。

 一つ息を吐き、覚悟を決めて走り出した。ラインを越えたため食人鬼グールたちは一斉に反応する。

 化物が階段を上ってくる前に決着をつけなければならない。

 銃を構えたまま階段の前に辿り着くと、ちょうど数匹の食人鬼グールが上がってくる所だった。大和はトリガーに指をかける。


「上がらせない!」


 銃口が火を噴いた。思った以上の衝撃が体を伝う。

 大和はフラつきそうになるが、なんとか耐えて下を見る。三匹の食人鬼グールが階段下まで吹っ飛んでいた。

 やはり相当の威力があるようだ。

 残った化物は二十匹ほど。大和はショットガンを構え直し、向かってくる食人鬼グールに狙いを定める。

 反動に対応するため足幅を開き、体を安定させた。


「喰らえ!!」


 バンッバンッバンッと連続して散弾を撃ちまくる。上から浴びせられる弾丸に、化物たちはすべなく死んでいく。

 狙いが外れ、直撃しないこともあったが、飛び散った弾丸が食人鬼グールたちを吹っ飛ばしていく。

 散弾に当たった化物の肉は引き千切れ、血を噴き出し倒れていった。


「この銃、威力補正がえげつないな。値段が高かっただけはある」


 最後の一匹を銃撃し、六十匹いた食人鬼グールは全て倒した。だが、これで終わりではない。

 部屋の端にある扉には、まだ四十匹の食人鬼グールがいる。

 大和はすぐに走り出した。ラインを越えてから五分経つと、扉は自動的に開く。

 時計が無いため、正確な時間は分からないが、もう三、四分は経っているだろう。

 何本もの柱を横切り、息を切らして扉の前に立つ。扉は固く閉ざされ、まだ開いていない。

 間に合った、と大和はホッと息をつく。

 ショットガンを構え、扉を睨む。数十秒後、鉄扉は左右にゆっくりと開いていく。

 ギチギチと漏れるうめき声、食人鬼グールたちが今か今かと待ち構える。扉が開くと「グギャァァァァッ!」と絶叫しながら飛び出してきた。

 十メートルほど離れた場所から、大和は冷静に引き金を引く。

 鳴り響く発砲音。散弾が正面の敵を吹き飛ばした。食人鬼グールたちはなにが起きたか分からなったが、構わず走ってくる。

 引き金を絞る。三体の食人鬼グールが弾け飛ぶ。

 さらに撃ち込む。反動で銃口が跳ねるが、二体の食人鬼グールが即死した。

 化物たちは扉から出て周囲に広がる。大和は銃を左右に銃口を振り、連続して弾丸を放った。

 三体の食人鬼グールが倒れ、一体の食人鬼グールが肉塊と化す。

 大和は後ろに下がりながら撃ち続ける。柱を回り込んで来る化物もいたが、敵位置確認アプリでどこから来るのかは完璧に分かった。

 柱から顔を出したところを銃撃し、確実に殺す。

 正面から飛びかかってくる食人鬼グールも散弾で吹っ飛ばし、二体を倒した。

 大きく回り込んで背後を取ろうとした食人鬼グールを撃ち殺して、大和は階段を降りる。半地下から上を見上げ、銃を構えた。

 ――残り八匹。

 しばしの静寂。食人鬼グールの鳴き声は聞こえるが、まだ姿は見えない。


「グエエエエエ!!」


 階段の上に、二匹の食人鬼グールが現れた。叫びながら猛スピードで降りてくる。

 大和は慌てず、引き金を絞る。炸裂音と共に、化物二匹の頭が消し飛ぶ。

 ――あと六匹!

 次は階段上から一匹、階段ではない手すりの部分から二匹が飛び降りてきた。

 地面に着地した瞬間を狙って散弾を撃ち込む。三匹全てを連続で銃撃し、食人鬼グールを殺していく。

 撃たれた化物は血まみれとなり、動くことはない。――あと三匹。

 大和は銃を構えたまま、半地下の右端に視線をやる。そこにはハンドルを回して開ける鉄扉があった。

 あれが第二ステージの出口だろう。

 食人鬼グールは警戒してなかなか降りてこない。今なら扉を開けて、中に駆け込むこともできる。

 だが、大和に逃げる気持ちはなかった。百匹いた食人鬼グールはいまや三匹。

 逃げる理由など、どこにもない。そう思った時、最後の敵が一斉に姿を見せる。

 まるで、示し合わせたかのように手すりから飛び降りてきた。大和は空中で一匹を撃ち殺す。

 肉片と血が降り注ぐ中、着地した二匹の食人鬼グールが向かってくる。

 引き金を引く。一匹の右半身が消し飛ぶ。もう一匹は構わず突っ込んできた。

 散弾銃は近すぎると威力が発揮できないらしい。銃の説明書にそう書かれていたことを思い出したが、そんなことを言っている余裕はない。

 大和は目前に迫った食人鬼グールのどてっ腹に、銃弾を叩き込んだ。

 銃床を通じて、衝撃が肩口に伝わる。食人鬼グールは階段まで吹っ飛び、大量の血を噴き出して絶命した。

 大和はフゥーと大きな息を吐く。


「これで百匹……コンプリートだ!」

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