第8話 第二ステージ

「まあ、ポイントもあるし……なにか買ってみるか」


 大和は買うことができる商品リストを、スマホをスクロールしながら見ていく。

 購入可能な商品は画像が出ているが、ポイントが足りない高額商品は、画像のない灰色で表示されていた。

 いくつも見ているうち、一つの商品に目が留まる。


「これは……『バトル用ハンドサポーター』?」


 長くて黒い手袋のようなもの。右手用と左手用があり、腕の部分まですっぽり隠れるようだ。

 なにに使うのか分からなかったで、説明を読む。


「サポーターの内側にスマホをセットすることができる? これは――」


 大和はハッとする。今まで敵の位置を確認するためスマホを床に置き、しゃがんでライフルを撃っていた。

 だが、このサポーターがあれば腕にセットしたスマホを見ながら攻撃できる。


「めちゃくちゃ便利だな。しかも5ポイントなら、かなり安い」


 すぐに購入を決めた。決定ボタンを押し、アイテム欄から"取り出す"を選択する。

 目の前に現れたのは左手用のサポーター。

 さっそくはめてスマホをセットしてみる。


「おお! これは見やすい、役に立ちそうだ」


 大和は立ち上がり、出口の扉に向かう。弾丸を買うことも考えたが、まだまだ充分残弾はあるため今回は見送った。

 ポイントを溜めれば、もっとすごい武器を買えるかもしれない。

 スマホの地図を確認する。『敵位置確認アプリ』は自分を中心として一定の範囲内にいる敵を映し出す。

 扉の向こうにはなにもいないようだ。大和は安心し、重い鉄扉を開いた。


 ◇◇◇


 シンッとした空間に、二十一人の足音が響く。

 第一ステージより、さらに広い第二ステージに足を踏み入れた西森たち。息を殺して、ゆっくりと前に進む。

 今のところ化物が襲ってくる気配はない。

 相変わらず大きな柱が何本も規則的に立ち、部屋全体は見渡せない。


「おい、気を抜くなよ。化物はどこから来るか分からねーからな!」


 西森が斧を構えながら辺りを見回す。

 葉山も散弾銃を構え、青柳も拳銃を持ったままキョロキョロと周囲を見ていた。

 絵美や結菜、小久保など、課金していなかった面々は鉄パイプを握りしめ、恐怖に顔を歪めながら歩いている。

 武器を与えたのだから戦えと言われても、こんな安っぽい武器で食人鬼グールを倒せるとは思えない。

 絵美は自分のスマホに表示される地図を見た。

 進んだ先に階段があり、そこを降りた先に半地下のような区画がある。そこに出口が記されているが、地図で分かるのはそれぐらいだ。

 敵がどこにいるかなど、まったく分からない。


「だ、だだだだ、大丈夫です! 化物が来たら、ぼ、僕が戦いますから」


 小久保が震えながら武器を握りしめる。それを見て絵美は笑ってしまう。


「無理しなくていいよ、小久保っち。危なくなったらみんなで逃げよう」

「そ、そうですか? 確かに、その方がいいかも……」


 絵美と結菜は顔を見合わせクスクスと笑った。こんな滅茶苦茶な世界でも、小久保のような人がいると安心できる。

 二人は心の底からそう思った。

 西森たち先頭グループが、部屋の奥にある階段に近づく。あと十メートルほどに迫った時、階段の下から音が聞こえてきた。

 間違いなく足音。それも一匹や二匹ではない。大勢でやってくる。

 西森たちに緊張が走った。階段から上がってきたものの頭が見える。禿げあがった頭に浅黒い肌。


「くそ! また食人鬼グールか、何匹いんだよ!!」


 大量の食人鬼グールが階段を上ってきた。その数は五十匹以上。とても脇を通って逃げおおせる数ではない。


「やるしかねえ、葉山!!」


 葉山は「分かってます」と言い、食人鬼グールに銃口を向ける。

 トリガーを絞り、散弾を放った。走ってきた化物二匹が吹っ飛ぶ。

 散弾は小さな弾が飛散する銃撃だ。周りにいた食人鬼グールも弾に当たり、手足にダメージを負った。


「おお、いいぞ葉山! その調子だ」


 葉山は2発目の散弾を撃つ。今度は一匹が即死し、二匹が倒れた。

 だが、走ってくる化物の波は止まらない。


「くっ! 弾が」


 葉山は弾を補充するため、中折れ式の銃身を折り、薬莢を排出する。二発の薬莢がカラカラと転がった。

 葉山はポケットから二発の弾丸を取り出すが、慌ててしまい地面に落とす。


「なにやってんのよ!」


 隣にいた青柳が苛立ちながら銃を構える。

 パンパンパンと連続して発砲すると、食人鬼グールの頭や肩口に当たり、数匹を倒した。だが、なかなか急所に当たらず、数を減らすことができない。

 さらに続けて撃とうするが、カチッカチッとハンマーを叩く音だけが響く。


「もう! こっちも弾切れ」


 彼女が持つのは六連式のリボルバー。弾の補充に時間がかかる拳銃だ。

 青柳がモタついている間に、食人鬼グールの群れはさらに迫ってくる。


「なにやってんだ……くそっ! やるしかねえ、行くぞお前ら!!」


 西森の号令がこだまし、武器を持った仲間が雄叫びを上げる。全員が化物に向かって走り出した。

 斧を振り下ろした西森は、食人鬼グールの頭をかち割る。

 後に続いた仲間も金属バットを振って敵を殴りつけ、槍を持つ者は食人鬼グールの腹に突き刺す。

 サバイバルナイフを持った者は化物の首を切り、ハンマーを持った者は思い切り振り回し、食人鬼グールの側頭部を殴りつける。

 だが多勢に無勢。数で押し切られ、何人もの人間が食人鬼グールの暴力に沈んでいく。

 やっと弾を込めた葉山と青柳が銃撃するが、焼け石に水だった。


「ダメだ! 一旦、引くぞ!!」


 全員で来た道を戻る。だが入口の近くにあった扉が開き、中から数十匹の食人鬼グールが溢れ出してきた。それは絶望的な光景。

 後方にいた絵美や結菜も、突然のことに驚愕する。


「こ、これ……もう無理だよ」


 結菜が涙目でつぶやく。隣にいた絵美も同じように絶望を感じたが、唇を噛みしめ、結菜の手を引いて走り出した。


「まだ諦めないで! 絶対、助かる方法はあるよ!」


 小久保も息を切らしながら走ってくる。後ろから飛びかかってきた食人鬼グールを鉄パイプで必死に小突き、なんとか逃げていた。

 四方八方からくる化物たち。西森たちの集団と食人鬼グールの群れが入り乱れ、地獄のような混戦へと突入していた。

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