第10話 ニ人の異能

「そろそろ行こうか。あんまり待たせ過ぎると、またユリのやつが発狂するからな」


 険しかった表情が、また穏やかに変わる。


「なぁ、これから俺たちは何をするんだ?」


「ある術を使って君たちの力を明確にする。そうすれば、君たち1人ひとりにあった適切な武器を渡せるからな」


 武器……。

 それは刀や銃といったものだろうか?


 それはつまり、人を殺す凶器……。


「とりあえず、分からないことがあればなんでも聞いてくれ」


「あの! 移動する前に最後に1つ聞いてもいいですか?」

 

 彼が扉へと移動しはじめたところで、サエさんが声をかけて、足を止めさせた。


「なぜユキマさんは、ここまで私たちに気をかけてくれるのでしょうか?」


「………不思議か?」


「こんなことを言って失礼なのは分かります。でも仲間の2人は、敵を殺すことだけを考えているように見えました。大切な人の仇がうちたくて、なりふり構っていられないと……でも、あなたは違う。あなたもきっと大切な人を失っているはずなのに……」


 聞き辛そうにしながらも、サエさんは疑問を問いかける。


「俺もそうげんが憎いし、あいつらを殺すことに躊躇はない」 


 ユキマさんは腰につけた刀を強く握る。

 見ているだけで、はっきりとその殺意が伝わってくる。


「だけどな……ユリはまだ14歳だ。死んでいい年齢じゃない。菊鷺きくさぎなんかのために、死んでいいわけがないんだ……俺は出来れば、あいつに生きていて欲しかった」


 ……生きていて、欲しかった?


「それは君たちも一緒だ。君たちは、勝手に召喚された。戦いのない平和な世界から。……だから死んじゃだめなんだよ。そんなの許されるわけがない」


 彼のその表情は、とても悲しそうに見えた。


「俺は弱いから、どうしても割り切れない。……こんな曖昧な返しですまない」


「いえ、ありがとうございます」


「……それじゃあ、行こうか」


 僕たちは『ユキマ』さんの後ろ追うようにして、部屋を後にした。



   ーーーーーーーーーーーーーーー



 稽古場というから道場のような場所を想像していたが、予想と違っていた。


 だだっ広い屋外。

 どちらかというと、広大な自然公園といった方がしっくりくるかも知れない。


 まぁでも、これから火や風を出したりするのだから、広い場所なのは当たり前か……。


「遅い! いったいどれだけ時間をかけているの!」


 ユキマさんの想像通り、少女は怒っていた。


「余計なこと、話してないでしょうねぇ?」


「お前が困るような話は何もしてねぇよ……」


 『余計なこと』とは何なのだろうか?

 彼女は頻繁にその言葉を口にしている。

 僕たちに知られたくない、何か不都合なことがあるのだろうか?


「さぁ、それじゃあ『目視札もくしふだ』をはじめようか」


「なんで、ゆきにぃが仕切ってんのよ……」


 少女はため息を吐きながら、服の袖から3枚の紙札を取り出した。


「今からあなたたち1人ひとりに、この札をあてる。しばらくすると2つの文字が浮かび上がるから、その文字であなた達が授かった妖力が分かる」


「それ、どういう原理だよ?」


「あなたたちがこっちの世界に来る際には強い粒子の影響をあなたた。それにより何かしらの力が授けられるらしい。この術を使えば、その粒子の元となる『しゅご』の名が紙に記されるの……とりあえず動かないで!」


 少女はタクミさんの正面に立ち、何やら言葉を唱え始めた。


「おい! なんでいきなり俺からはじめてんだよ! ……って、おい! なんだよこれ!」


 タクミさんのまわりに、炎が渦が巻きはじめる。


「これ安全なんだろうな?」


「動かなければ平気。動いたら命の保証はない」


「はぁぁぁぁぁ?」


 渦巻く炎が、少女の持つ紙へと吸収されるように入っていった。


「出てきた……『火車かしゃ』」


 紙には『火車』という漢字二文字が書かれていた。


「『火をうみだし、加速してはなつ猛火の火車かしゃ』……やっぱりあんたは、俺らと似た系統の火系魔術みたいだな」


 ユキマさんは、古い本のような物を手に持っていた。


「ようは火を作りだして、武器につけたり、遠くへと放ったりできる力ってことだな」


 本に目を通しながら力の説明をする。

 その本は、何なのだろうか……。


「過去に多くの犠牲を払い、異世界召喚された時代があった。その時の学者たちが記録として『きようじん』の力について書き残した物だ。そんなに細かくは書かれてはいないが、おおよその能力の理解ができる」


 僕の本への視線に気づいたのか、自然と説明を入れてくれた。


「試しに火をだしてみろ?」


 銃の女性が、タクミさんの横に立った。


「おっ、おう」


 タクミさんは左手を開き、手の平をみせる。

 すると手の平から、サッカーボール位の大きさの炎が出現した。


「すげぇ、確かに熱さを感じるが……ぜんぜん手に痛みを感じねぇ」


「あたりまえだ、おまえの火だからな。おまえがそうそう火傷をすることはない。もっと火を強くしたいと意識を集中してみろ」


 ボールサイズだった炎が、勢いよく燃えあがり大きく広がっていく。


「…………おっと」


 近くにいた女性は素早く下がり、距離をとるように離れた。


 タクミさんは自分の炎に包まれ、完全にその姿が見えなくなっていた。


「すげぇ威力だな。……さすが『きようじん」だ。俺の出せる火と既に同等かよ」


「やべぇ、どこまでも炎が出るぜ」


 タクミさんの声はすれど、その姿は炎で見えない。


「おい、いったん火を最初の大きさに戻してみろ。今度は飛ばせるか試すぞ」


「……こ、こんな感じでいいのか?」


 炎が小さくなり、手の平サイズまで戻る。


「そのまま、あの正面の木に向かって飛ばせ」


「は? どうやってやんだよ?」


「飛ばしたいという意識を手に集中させて、そのまま打ち込むようにあの木に放てばいい」


「こ、こうか……うぉ!」


 炎が勢いよく前方へと飛んでいく。


 ばぁぁーーーん!

 そして炎は木に勢いよくぶつかり、激しく炎上した。


 すごい……これがタクミさんの力。


「この感じだと、おまえは銃が向いていそうだな。あとで私が使い方を教えてやる」


「す、すげぇ……これが俺の力」


 タクミさんは驚きながらも、顔をニヤつかせていた。


「じゃあ、次はあなた」


「…………う、うん」


 少女はサエさんの前にたち、先程と同じように、紙を持ち呪文のような言葉を唱えた。

 サエさんの周りを炎がかけめぐり、札へと吸収されていく。


「あなたは『太師だいじ』」


「だいじ、だいじ。……ちょっと待てよ」


 ユキマさんは本をめくっていく。


「『岩にてかたく、全てをくだく強き拳のだいだらぼっち』」


 ……だいだらぼっち?

 それって、どこかで聞いたことのある名前のような?


「あんたの力は拳を岩のように固くしたり、実際に岩を生み出すことができる力だな。……試しに意識を両手に集中させて、この木に当ててみてくれ」


「この木に……拳をぶつける感じでいいの?」


「あぁ、思いっきりやってみてくれ」


 サエさんは木の前に立ち、何かの構えのような姿勢をとる。


「はぁぁぁぁぁぁ、せい!」


 バキバキバキバキバキバキ。


 木が勢いよく折られ、飛んでいった。

 一本の木をねらったはずが、周囲の木も巻き込んで崩れていく。


「あんたには武器……いらねぇかもな。まぁ、手につける何かが相性良さそうか」


 もともとテコンドーしているため、拳の威力を高めるこの能力はサエさんにすごく合っているのだろう。

 ただこの力……すごく男らしいな。

 そんなこと、絶対に口にできないけど。


「じゃあ最後はアイネだな」


 ついに僕の番。


 僕には、どんな力が授けらたのだろうか?

 正直炎をまとうのは怖いし、これから戦わなきゃいけないのは凄く嫌だ。


 でも、あの2人の姿を見ていたら僕にも何か凄い力が秘められているのではないかと、期待をしてしまう気持ちもあった。

 もしかしたら、漫画やライトノベルでよくあるような凄い力が、僕にはあったりして……。


「はじめるから、動かないで」


 彼女が呪文を唱えはじめる。


 うわ、炎が僕のまわりに……。

 あまりに非現実的な体験に、今だにこれが本当に現実なのかと錯覚してしう。

 炎が僕の周りから、彼女の手に持つ紙へと吸い込まれていく。


「でた……………『童子わらし』」


 わらし?


「わらしって……確か……」


 ユキマさんは急いで本のページをめくっていく。


「…………あった」


 僕の力についてのページを見つけたらしい。


「……………………………」


 だが、なぜか彼はすぐに話をはじめようとしなかった。

 …………なぜ、黙っているのだろう?


「ゆきにぃ、はやく話をして」


「あっ、あぁ。……『童子わらし』は『座敷童子ざしきわらし』」


 座敷童子?

 それって………やっぱり妖怪の名。


 火車かしゃにだいだらぼっち。

 そして座敷童子。


 これってみんな、日本の空想上の生き物である妖怪の名だ。

 なぜこの世界にその名が?


 でも、今はそんなことよりも、もっと気にするべきことがある。


 僕の力は……座敷童子。


 それって……どんな力なのだろうか?

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