第11話 頼れない人
座敷童子。
それは誰だって、なんとなくは聞いたことのある名前。
確か座敷童子のいる家は幸福になるとか、運がよくなるとかそういった類のものだった気がする。
妖怪の中でも、とりわけ平和の象徴みたいなものだ。
それが……僕の力?
「で、アイネには何の力があるんだ?」
タクミさんとサエさんも、力を確認しようと近くに来る。
「……………これは……どういう」
ユキマさんは小さな声で呟いているため、上手く聞き取れない。
「ゆきにぃ! さっきから何んなの? もったいぶるような態度とって」
その言葉には同感だった。
2人の力についてはすぐに説明してくれたのに、僕の時は言葉を詰まらせている。
「何も、記録がないんだ」
…………記録がない?
「過去に誰もいなかったわけじゃないみたいだが、詳しい力については分からなかったらしい……『能力の力は分からず。子どもが授かりし力。平和を願う優しさの象徴、祈りの
その説明だけでは何もわからない。
どういった力なのか、全く予想が出来ない。
「……ねぇあなた、試しに何かしら意識を集中させてみてくれる?」
少女は僕の近くに来て、何かを見せるよう催促する。
……そう言われたところで、何をどう集中させても、何も……感じられない。
「こうやって、火を出す感覚! やってみて!」
僕の目の前で炎の渦を作る。
だからそれ、どんな感覚でだしてるの?
やってみて! と言われも、分からないのだからやりようがない。
「ごめん。やっぱり出し方が分からなくて……」
「なんでよ! 意識さえ集中させれば何かしら起きるはずなのに」
「……意識は、しているつもりなんだけど」
少女はひどく怒っていた。
だが怒ったところで、僕からは煙1つ出てこない。
「もしかしたら周囲の魔術士に何かしらの影響を与える力なんじゃないのか?」
ユキマさんは僕の背後に来て、安心させるように頭を軽く撫でる。
「いろいろ試させて悪い。……もう少し、調べさせてくれ」
「なら、こうするのが手っ取り早いよね」
…………え!?
少女は唐突に僕の手を強く握った。
「私に何かを注ぎ込むようにイメージしてみて」
な、何かを注ぎ込めって言われても……。
女の子と手を繋ぐことだってはじめてで、困惑しているというのに。
「あんまり変わった感じはしないけど……」
右手で僕の手を握ったまま、反対側の手で刀を外側へと突き立てた。
「舞狐!《まいぎつね》」
刀から竜のように勢いよく炎が出現し、伸びていく。
その勢いはどんどんとましていき、激しく渦を巻きその大きさを広げていく。
「おい、おい、マジかよ……すげぇな」
九山邸を軽く飲むこんでしまうほどの大きさに、巧さんも唖然とする。
すごい炎。
これって、僕の力が影響しているの……?
巨大に渦巻く炎は、竜のように遠い空へと消えていった。
「……………………」
少女はその炎を見上げながら、何かを考えている。
「………どうして」
彼女の表情は暗いまま変らない。
おそらく、僕の力はサポート型だ。
僕の力が、攻撃型じゃないことに戸惑っているのか?
でも、これなら僕は武器を持って前線で戦う必要はないかも。
雷とか氷を降らせるといった強力な力なのかとどこか期待してしまったが、僕にはこれぐらいの力の方があっているのかもしれない。
「あなたは、なんなの?」
……え?
少女の表情は先ほどよりも険しい。
「何も、起きなかった。何が……平和の象徴よ? これじゃあ、頼りようがない」
何も起きなかったって……それじゃあ今の力は……。
「おいおい今のが普通って、お前の力はどんだけやべぇんだよ」
タクミさんは、少女の力に驚愕していた。
しかし、僕はそんなことに驚いている場合じゃない……。
「せっかく命がけで3人も召喚出来たと思ったのに……1人は『無能』だなんて」
……『無能』、僕が?
「時間がないっていうのに……。こんな使えない曖昧な力に頼れっていうの?」
使えない曖昧な力?
そんなの、僕が選んだわけじゃない!
「あなた、使えない」
なぜ、責められるようなことを言われなければならないの?
身勝手に召喚したのは君なのに。
「ねぇ、勝手にこっちの世界に私たちを呼んでおいて、そんな言い方、ありえないでしょ!」
「……は、なによ?」
サエさんと少女が睨み合う。
「私たちは好きでこの世界に来たわけじゃない。勝手に呼んでおいて、それでいて力がなければ無能って、……ふざけないで! 私たちはあなたの道具じゃない!」
「私がどんなに苦しんで、あなたたちをこの世界に招いたと思ってる?」
「おい、ユリ落ち着け!」
ユキマさんが駆け寄り、少女の腕を掴んで言葉を静止させようとする。
「離して!」
怒り共に周囲に炎の渦を発生させて、ユキマさんを遠ざける。
「あなたがどんなに苦しんだって、そんなのアイネには関係ない。そもそも、実はあなたの力が及ばなくて、アイネに力が渡らなかった可能性だって―――」
「だまれぇええ!」
「痛ぁあぁぁ」
手に激痛を感じて、サエさんが地面に倒れた。
契約の力を使い、少女がサエさんに制裁を加えたのだ。
「うるさい! うるさい! うるさい! そんなわけない。私の力が足りなかったなんて、そんなわけない!」
もう……やめて。
「全てを失った……だから私は、自分を犠牲にしてでもこの術を行った……それをおまえたちは―――」
「やめて!」
急いでサエさんのもとに駆け寄り、塞ぐようにして少女の前に立つ。
「力がないのは僕でしょ、なんでサエさんにあたるの?」
もう……サエさんを傷つけないで。
「私は契約者だ……あなた達の命は私が預かっている。私に反抗するなら、3人まとめて教育―――」
―――ドン!
えっ?
目の前にいたはずの少女が……視界から消える。
「いい加減にしろ、バカやろぉぉおお!」
……ユキマさん?
ユキマさんは少女の頬を殴り、吹き飛ばしていた。
「いったぁぁい…………なに……すのよぉ!」
「おまえが今やっていることは、あいつらと何も変われねぇ……いや、もうあいつら以下だ!」
「ふざけないでよ! 戦力が欲しいのに力がない、強力してもらわなきゃいけないのに言う事を聞かない! なら私は……」
「それじゃあ誰も救われねぇし、何も解決しねぇだろが! いいか、おまえがこいつらを傷つけるってんなら、俺は何度でもこうやって止めるぞ!」
「なんで、なんでよ? どうしてゆきにぃは邪魔ばかりするの? ……時間がないんだよ? このままじゃあ私たちは、何も出来ないで終わっちゃうよ! なんで分かってくれないの!」
「分かってるさ。おまえの焦りと怒り、そして覚悟も全部分かってるさ」
「分かってない! 私のことがかってるなら協力してるはずでしょ」
「分かるのと、協力するのは違う。……お前を単なる人殺しになんかさせない。こいつらを見殺しにもさせない」
ユキマさんは、ユリを強く抱きしめた。
「意味が分かんない。そんな甘さだから、私たちは滅びかけてるのに……」
「俺も『
「そんなこと言ったて、力のない人間をどう使えばいいって言うの?」
「……なら、とりあえず実戦してみればいい」
ずっと黙っていた、銃の女性が発言する。
「このまま、喧嘩を続けててもいいが、時間の無駄にしかならん。なら実際に『きようじん』たちに戦ってもらえばいい。危険が伴われれば、そいつ力も目覚めるかも知れないしな?」
実戦? 戦わせる?
誰かを……殺しに行くってこと?
「おい! 実戦って、ついに人と殺り合うってことか?」
「それが理想だが、今のお前たちにはまだ早い。これから『あしゅ』を相手に実戦をする」
……あしゅ?
「いきなり『あしゅ』って、アイネはまだ戦えるか分からねぇのに――」
「力を使えないにせよ、自分の身ぐらいは自分で守れるように教えるべきだ。それに私はそろそろこいつらに専用の道具を渡して、次に駒を進めるべきだと思うが、何か違うか?」
「それって、アイネを危険な目に合わせて、力を出させようってこと?」
倒れていたサエさんが、手を抑えながら立ち上がった。
「何を言ってる? お前たち3人とも危険な目にあってもらうに決まっているだろ。遅かれ早かれ戦うんだぞ、戦えないやつは死ぬだけだ」
戦えない奴は死ぬ。
それじゃあ、戦う力のない僕は?
「そうだね……私も、みつねぇに賛成。このまま話し続けるぐらいなら、『ドロタボウ』を狩ってうさをはらした方がまし」
抱いていたユキマさんを突き放して、少女は僕の方を向く。
「なら、早く行きましょ!」
「…………おまえ、謝罪もしねぇのか」
「うっさい! 私は間違ってない」
「おまえなぁ……」
少女の態度に呆れ、ため息ををはく。
「まぁ確かに、このまま話し合っていても仕方がないか……。サエ、アイネ、すまない。体は大丈夫か? 悪いが、これからまた移動したい。君たちに専用の銃や刀を渡すから、それを使って実際に戦ってみようと思う」
「だから、だれを殺れって言うんだよ?」
「『あしゅ』……過去の魔術士が過ちで作った異型の怪物だ」
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