第9話 禁術の理由
僕たちはこの世界から帰れない。
帰れないだけじゃない。
人を殺さなければ、……戦はなければ、少女に殺される。
戦ったことのない僕が、町を壊滅させたような連中に勝てるわけがない。
そんなの確実に死ぬ。
でも、逃げても殺される。
さらに少女が死んでも、契約がどうたらこうたらで僕もついでに死ぬ。
どう転んでも救いがない。
八方塞がりの死への直行便。
それなのに、この世界で何が起きているのかだって?
「そんなこと知ったとことで、僕たちは帰れない……戦たって勝てるわけないのに……」
拳に力が入る。
涙が止められない。
「…………アイネ」
サエさんにみっともない自分を見せているのは分かっている。
でも、こんなの我慢できるわけがない。
「君はアイネというのか……。君たち2人の名前は?」
「サエと言います」
「…………タクミ」
「サエ、タクミ、そしてアイネ。……信用は出来ないかも知れない。だが、この戦いが終われば、元の世界に戻る方法を俺が責任を持って探す。約束する!」
「……戦いが終わればって、ほんとに俺たちが戦えると思うのか?」
「ユリも言っていた通り、君たちには異世界から来た影響で、協力な『妖術』が授けられたはずだ……その能力は、俺たちの『魔術』なんかとは比べ物にならない力らしい」
「んなの、ほんとに信じろってか?」
「三百年前にも、君たちのような『きようじん』が呼ばれた。その人々はその力で簡単に国を1つ滅ぼしたと、俺たちは歴史で学んでいる。だからきっと、君たちも―――」
「なぁ、そもそも妖術とか魔術ってなんなんだよ?」
「……あぁそうか、君たちの世界には魔術はなかったんだよな」
男は拳を前に突き出し、手を開いた。
――ボォ。
手の平から、ガスコンロぐらいの火が現れる。
しっかりと熱さを感じる。
本物の火だ。
「これ、マジでどうなってんだ?」
突如出現した火は、どんどんとその強さをましていく。
全く原理が理解できない。
「俺たちの世界には目に見えない粒子が存在しているらしくてな、その粒子が魔術の使用を可能としているらしい」
「この世界では、誰もが手から火が出せるのですか?」
サエさんはゆっくりと火へと手を伸ばし、熱さを確認する。
「いや、能力は基本その家系によるな。『藤燕』の多くが火の系統の使い手だ……ただ、その力の強さはさらに血筋や個人の特性により変わる。名のある家の奴は戦える位の魔術を使えるが、ほとんどの奴らはこの火より小さいものを出せる程度だ」
「……つまり、ユキマさんの家系は凄い家柄ということなのでしょうか?」
「まぁ戦える程度にはな。だが、ユリは別格だ。『狐川家』は藤燕最強の魔術家系だからな」
「俺たちも、手や刀から火が出せるのかよ?」
「あぁ、必ず何かしらの能力があるはずだ。……あとでユリたちと『
火を消すも、出した手はそのままに開いた手を僕たちの近くに近づける。
「こうやって手をだしたら、その手に意識を集中させてみろ。目に見えない粒子を感じるだろうから、それを集めるような感覚で意識を手に持っていくんだ」
僕たちは彼と同じように手を出して、言われた通りに…………。
「おい! まじかよ、……火が」
タクミさんの手から、火が現れた。
彼の火からも、熱がしっかりと伝わってくる。
「すげぇ、火が俺の手から出続けてやがる」
「どうやらあんたは、俺らと似た系統の能力みたいだな」
……どん!
重たい物が落ちる音と、衝撃を感じる。
「な、なにこれ……」
「ほう? おそらく姉さんのそれは……石化か」
サエさんの右手が、岩のように固く変形している。
そして、その右手から大粒の石のような固まりが落ちていた。
「……これが………妖術」
2人は自分の手から、異能の力が出たことに驚いていた。
僕にも……2人のような何かが―――。
右手に意識を集中させる。
……………。
……………。
………何も起きない。
やり方が……違うの?
「…………どうして?」
思わず声が出てしまった。
「何も起きないか。きっと、君の力は単純な火や水を出すといったものではないのかもしれない。……安心してくれ。あとで行う『目視札』は、魔術鑑定の術だから、それで君の力とその使い道がわかるはずだ」
男に頭を撫でられる。
「必ず何かしらの力が備わってるはずだから。あとで一緒に確かめような」
ほんとに僕にも異能力が?
怖い気持ちもあるが、どこか心がざわつく。
僕には……どんな不思議な力が宿っているというのだろう。
「あの……力については分かったのですが、その……なぜ私達だったのでしょうか?」
「それは君たちが、召喚者に選ばれた理由ってことかな?」
「そうです」
「申し訳ないが、誰がどこから召喚されてくるのかは、俺も分からない。なぜ君たちじゃなきゃいけなかったのか、それは俺も知りたいぐらいだからな」
「それなら尚更……私たちだけでないとダメなんでしょうか? もっと私達みたいな力を持つ人を増やすことは出来ないのですか?」
「だよな、人数が多いほうが勝てる確率はあがるし、俺たちも死亡率が格段に下がるよな」
男は、申し訳なさそうな表情をする。
「……召喚術は禁術とされていて、本来はやろうとしただけで罪に問われる。最悪死罪の術だ」
……死罪って。
「召喚された妖術者は、この世界の均等を揺るがす。だから世界全体で禁止されていた。術をしようとしたことが判明すればそれだけで、世界中の奴らを敵に回しかねない」
それはつまり、術をやろうとしただけで、世界中の人たちから命を狙われるということだろうか?
「そして何より100人やっても成功するかどうか……俺程度の魔術師じゃあまず成功しないんだ。間違いなく術の負荷に耐えきれずに死ぬ。……だからこの数十年間、誰もしてこなかった」
失敗すれば死ぬって、そんなの誰もやりたがらないのが当たり前だ。
「なんであの子は、そんな術を?」
「大事な家族や友人を、みんな奪われたからな。あの子だけじゃない。俺もミツキも、誰もが大切な人を失った。もともとここは300人を超える人が住んでいたが……今や生き残っているのは数十人。みんな殺されたんだ」
……殺された。
その言葉に悪寒が走る。
「
そんなの、まるで戦国時代。
なんでこの世界では、命がそんな簡単に奪われてしまうの?
「今回の奇襲の計画をし、その指揮をとっていたのが『そうげん天海』だ」
そうげん天海。
あの少女が殺して欲しいと何度も名前は上げていた男。
全ての元凶。
それって、ようはラスボスってことじゃ……。
「ようは天海ってやつが、敵の中で1番強ぇってことだよなぁ?」
「あぁ……だから俺たちは、『そうげん』を殺す手立てを探していた。だが、まさかユリが召喚の術にまで手を伸ばすとは、俺も考えていなかった」
僕たちから見ても、あの少女は周りが見えておらず、戦うことばかりに意識がいっていたと思う。
「あの子は……誰を失ったんですか?」
気になり、聞いてしまった。
「……弟だ。名をヒユナという」
「あの子が、眠っていた時に何度か名前を呼んでいた……」
サエさんが思い出したように、呟く。
「藤燕で、過去類をみない魔術の潜在力を持っていた子だった。……だが、あいつの目の前で殺されたんだ」
少女の年齢が僕とほぼ一緒と考えると、小学生ぐらいの年齢だろうか?
大事な家族。
かけがえのない人を、目の前で失った。
「まぁ、生き残ったやつ全員、誰かしら大切な人を失っている。……数秒前まで笑っていた人たちが、悲鳴をあげながら死んでいくのを見てんだ」
緊張が止まらない。
気を緩めたら、不安から吐いてしまいそうな感覚になる。
怖すぎるよ。
なんなの……この世界は?
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