暴力探偵山田
うみのもずく
第1話
俺は山田龍次郎。人呼んで暴力探偵山田だ。自分で言うのも何だが、けっこう名の知れた名探偵である。だが恥ずかしながらあまり頭は良くない。明晰な頭脳でもって快刀乱麻に事件を解決したことなど一度としてない。にも関わらず、俺は数多の謎を解き明かしてきた。どうやって? 簡単だ。俺は人を殴ることであらゆる謎を明かせる男なのだ。
誤解しないで欲しいが、拷問まがいのことをして無理矢理自白させているわけじゃない。そんなやり方はスマートじゃない。俺が殴るのは一発だけだ。老若男女問わずただの一発だ。それだけで全てが分かる。
にわかには信じがたいだろう。だが本当だ。一発殴れば一目瞭然。そいつが犯人ならば、俺の頭の中で電流が走るかのような感覚がある。その閃きがあった時、俺は犯人を外したことは一度もない。もっとも俺の力では証拠能力はないので、その後の地道な捜査は警察に任せることになるが。
俺が現れた現場は基本的に血が多く流れる。一発とは言っても手加減して殴ったのでは能力は発動しない。誰であろうと全力だ。子供やお年寄りや女性も分け隔てなく殴らなければならないのはとてもつらいところではある。
ただ殴るだけの簡単なお仕事なので、これまでに苦労した事件は特にない。……と言いたいところだが、ひとつ思い出したものがある。あれは格闘家が集まるパーティーで起きた殺人事件。基本的に俺の捜査はいきなり相手を殴るというもの。相手がプロだと殴るのに躊躇する。そもそも技術的に難しい。俺の力は厄介なことに相手の同意を得てから殴っても発動しないので、あくまで急に殴り掛かるスタイルになってしまう。あの時は本当に苦労した。俺自身が反撃で死にかけたくらいだ。
あらゆる事件で人を殴り続けてきた俺だが、1人だけ殴れなかった相手がいた。あれから何年が経っただろうか。とある雪の山荘で起きた殺人事件。そこで俺は彼女に……
「ねえ、難しい顔をしてどうしたの?」
今俺の目の前にいるこの女性だ。あの事件を通して知り合い、そして惹かれ合った。
「ちょっと昔のことを思い出していただけさ」
あの事件で俺はこの人を殴らなかった。殴る前に事件が解決したわけではない。俺は彼女以外の容疑者を全員殴り、その中に犯人らしき人物はいなかった。俺が殴らなかった容疑者は彼女だけ。犯人が容疑者の中にいたのならば、消去法で彼女が犯人ということになる。だがそれを確かめることを俺はしなかった。彼女の美しさに魅せられてしまったからだ。自分がこんなことをするなんて考えもしなかった。
「じゃあ、また来るね」
俺は今刑務者に服役している。彼女を庇って自分が犯人だと名乗り出たからだ。それでも俺が探偵であることは変わらない。刑務所にいながらも俺には多くの依頼が来る。そして人を殴り続けている。俺は暴力探偵山田。どんな事件も解決する男だ。
暴力探偵山田 うみのもずく @umibuta28
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます