野生
「おらっ!」
俺の振り上げた足が鼠を宙へとかちあげた。空を舞いながら血を吐いた鼠はぐしゃりと地面に叩きつけられる。
だがそれで終わりではない。敵はまだまだいる。
「ソラ!道を開いて!」
背後からローズの声がする。彼女は背後から襲ってきた鼠を相手にしている。鼠の吐き出す溶解液すら僅かな隙間を見極める眼と脚を持って躱し、肉薄する。
神がかった白兵戦。鼠たちは溶解液のカーテンをすり抜けたローズに硬直し、何もできない。
両手から展開したブレードを大きく振り回す。振れば何かに当たる。それほどの数がいる鼠たちが血を撒きながら緋色の旋嵐を形作った。
それでもまだ敵はいる。ローズは同じ場所に留まることなく、跳躍し、天井を足場に群れの奥へと進む。そして再びブレードを薙いだ。
俺達は今、鼠の群れに挟撃されていた。数でいえば百匹ほど。
狭い通路で溶解液を這い出す鼠は、俺の想像以上に厄介であり、ローズの様な溶解液の軌道を見極めることが出来ない俺は、近づくことも出来ず、テンの銃による援護と群れから突出した鼠を狩ることでしか数を減らせていない。
攻撃の軌道を読む予測はローズには遠く及ばない。こういうところで経験の差が出ていた。
アサルトライフルの弾幕を掻い潜った鼠が飛び掛かる。テンを狙ったそれを突き刺し、群れへと放り投げる。
「どうしたもんか」
恐らくこのままテンの護衛をしたままでも群れは一掃できるだろう。だがそれでは弾を消費しすぎる。
あくまで俺たちの目的はミレナを誘い出すこと。ここで弾薬を消費するのは得策ではない。
それに何より、ダサすぎる。先頭を名乗り出たのに、ちまちま鼠を斬るしか出来なかったでは、後でローズに何を言われるか。
「ちッ!弾切れだ!リロードする!」
テンは今、大型義体者用の強撃銃――テンの愛用の武器――とは別に俺が手に入れたアサルトライフル〈EAR-4〉を使ってもらっている。そっちの弾が切れた。
そのタイミングを見計らったように、多分偶然だが鼠が一匹飛び出してきた。俺はそれを蹴り上げ、宙に浮かす。
こいつらの速度にも慣れた。真正面からなら何匹でも相手にできるのだが、俺が少しでも距離を詰めるようなそぶりを見せた途端、溶解液を吐き出すのだ。
――ローズのように穴を見極めることは出来なくても、穴さえ開けられれば
(〈オリゾンR2114〉で撃つ?対モンスター用のハンドガンだからぶち抜けるだろうが、俺の腕じゃあ当たらないよな……)
正直、銃は苦手なのだ。弾をばら撒くアサルトライフルの類なら無理やり当てられるがハンドガンのような狙って当てる単発式の銃は中々当たらない。
俺の苦手な遠距離攻撃が必要なこの状況は、鬼門だった。
(要するに、敵の隊列を崩せればいいんだ)
単発の溶解液なら恐ろしくない。恐ろしいのは何匹もの溶解液が重なり合い、面での攻撃になること。
集中し過ぎて、視界に映る全てがゆっくりに見える。軽い意識加速の状態。その中で俺が蹴り上げた鼠がゆっくりと落ちてくる。
「あっ、これだ」
俺は半ば反射的に鼠を蹴った。
柔らかな脂肪に包まれた鼠は俺の蹴りの衝撃を吸収し、勢いよく飛んだ。まるでサッカー選手の蹴ったボールのように。あるいは、点火された砲弾のように。
それは鼠の隊列の中央にぶつかり、何匹もの鼠を巻き込みながら地面を削った。
「行く」
短くそう言い、俺は走り出した。急加速。それを見た鼠は半ば反射で溶解液を吐き出す。だがそれは、先ほどまでと比べれば薄い。
空いた中心の砲口。対し、中心へと進む俺。
鼠は、開いた中央の穴を補おうと中央に寄せて溶解液を撃った。それは、醜い獣とは思えない堅実な一手であり、彼らが長い地下の闘争を生き抜いた確かな経験の結晶だった。
だがそのせいで、空白地帯が出来た。交差するように溶解液を撃てば、自然交差点左右の面が空く。
それを読んでいた俺は敵の狙いを外すために急停止し壁に飛び乗った。そこを足場とし、ローズのように群れの中央へと着地する。
そして旋回。〈蒼凪〉のエネルギーを最大出力にし、刀身を拡大させる。コマのように回転する俺の軌跡に従い、青刃が舞う。
つぎ込まれた膨大なエネルギーはいとも容易く脂肪と筋肉を引き裂き、僅か一振りで十匹以上の鼠を焼き切った。
「よお、クソ鼠共!よくもやってくれたなあ!」
ここまで接近すれば何も怖くはない。同族を識別する程度の知能はある鼠共は、同士討ちを恐れ近くでは溶解液を吐かないことは分かっている。
俺は今までのうっ憤を晴らすように〈蒼凪〉を振るった。
四肢散乱する鼠の死骸。狭い通路には屍と死臭が満ちている。ローズは敵が打ち止めだと確認し、ブレードを収納した。
「ったく、これが続くんなら引き返すしかねえぞ」
「問題ない。雑魚じゃないこいつらを虐殺したんだ。他の奴らはしばらく寄ってこない」
「何で分かんのよ」
妙に確信した俺の言葉にローズが疑問をいだく。
だが、なぜと言われても………強いて言うなら、そういうものだから、としか言えない。言葉にするとすれば、ここのモンスターは馬鹿ではないからだ。わざわざ断頭台に昇っていくような低能は生き残ってはいないだろう。
「そういうもんだ。それよりも風の音が変わってる。この先に開いた空間がある」
俺は二人を先導するように通路を進んだ。
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